未成年者に対する守秘義務(1)
投稿日: Feb 16, 2021 12:52:26 PM
未成年者に対する守秘義務について考えてみましょう。
看護師Cさんの受け持ちの患者の Fちゃんは、14歳の中学2年生で、数日前に、めまいと吐き気を訴えて倒れ、救急搬送されてきた。検査の結果、彼女は摂食障害による極度の栄養不良で、重度の貧血であることもわかった。点滴で栄養を補いながら、経過を観ているところである。
情緒不安定で、警戒心が強く、看護師たちにもなかなか打ち解けようとしなかったが、Cさんは、自分の妹と同い年のFちゃんをとても気にかけ、いろいろ話をしていくうちに、FちゃんもCさんにだけは、心を開いてくれるようになった。
FちゃんはCさんをすっかり信頼して、つぎのように打ち明けてくれた。
「じつは私、妊娠しているかもしれない。でも誰にも知られたくない。他の人や特にママには絶対に言わないで」と。Fちゃんはまだ頭が混乱していて、これからどうしたらいいかわからないと話した。
「まず一緒に、これからのことを考えましょう」とCさんが語りかけたそのとき、 Fちゃんの母親が病室に入ってきた。
母親は、最近娘がとても疲れやすく、吐き気を訴えていたといって、「その原因は摂食障害だけでしょうか」と心配そうにCさんに尋ねた。
一瞬、どう答えようかと迷ったとき、Fちゃんと目が合ってしまった。彼女は、黙ったままあなたをにらみつけていた。
Cさんはどう答えたらよいのだろうか。
前に見たように、看護倫理学者のサラ・フライは、生命倫理の四原則に加えて、「誠実・忠誠の原則」を掲げ、患者に対して誠実に接し、プライバシーや約束を守り、信頼関係を築くことが、看護師の責務であるとしています。
フローレンス・ナイチンゲールも、19世紀半ばに「いかなる看護師も、信頼される(秘密を打ち明けられる)存在にならなければならない。……看護師は、うわさ好きやくだらないおしゃべり屋であってはならない。自分の患者についての質問には、それを尋ねる権利のある人以外には答えてはならない」と戒めています。
患者の個人情報の漏洩が、看護師の日常的な何気ない「うわさ話」などによっても引き起こされるというケースは、すでに聞いたことがあるでしょう(訴訟にもなっていますね)。病院以外の場所でも、患者のプライバシーに関する話には、慎重にならなければなりません。
このケースでは、 あなたにだけ心を開いてくれたFちゃんに対して、「親に言わないで」という約束を守るべきなのかどうかが問われています。