QOLはワガママ?――愚行とQOL(1)――

投稿日: Dec 21, 2017 12:23:48 PM

愚行とQOLについて、全七回にわたって考えてみたいと思います。

患者のなかには、自分にとって有益な治療を拒否したり、わざわざ自分の身体に不利益になるような判断をしたりする人がいます。なかには、今、その治療を受けないと死んでしまうという場合であっても、それを拒否しようとする人もいます。医師から見ると、どう考えても、「死にたがっている」としか思えない患者がいるのです。

俳優の故・松田優作さんは、がんが見つかったとき、まだ治癒可能な状態でしたが、映画の撮影を優先して、治療を遅らせた結果、手遅れになってしまいました。

また、アップルのCEOスティーブ・ジョブズも、最初にすい臓がんが見つかったとき、また治癒可能な状態でした。しかし、医師や家族の再三の説得にも関わらず、彼は手術を拒み、結果として手遅れになってしまいました。

彼らは、けっして「死にたがってい」たわけではありません。自分の生命よりも大事だと思うもの、その生命の質(QOL)を優先しようとしていたのです。

自分のQOLに基づいて、延命治療を拒否したり、手術(西洋医学)を拒んだりする、彼らのその毅然とした姿に、私たちは感銘を受けるのですが、同時に、ある疑問が生じてきます。

治癒(完治)の可能性があり、その治療を受けないと手遅れで「死んでしまうかもしれない」と思われる場合、その医療を(たとえQOLを理由にしていても)本人が拒否することは、ある種の「自殺」にあたらないのでしょうか。

せっかくいのちが助かるのに、わざわざ有益な治療を拒否するなんて、「単なるワガママなんじゃないか」と思われることもあるかもしれませんね。

QOLは「ワガママ」なのでしょうか。

また、医師が患者の「ワガママ」(愚行)を聞き入れて、いのちを救うための「医療を行なわないこと」は、倫理的に許されるのでしょうか。「治す」「助ける」という医療の使命(キュア)に反することにならないのでしょうか。(次回へ続く)