在宅医療は家族医療(4)ーー認知症高齢者にペグをつけるかーー

投稿日: Feb 03, 2019 12:12:54 PM

とくに終末期の意思決定が問題となる場面では、患者本人がもはや意思表示できなかったりする(インコンピテントである)ケースもあり、その場合には、本人不在のまま、家族に生命を左右する重大な決定が委ねられることになります。

典型的なのは、口から食べられなくなった認知症の高齢者にペグ(胃ろう)をつけるかどうかを決めなければならないという場面です。食べられなくなったときというのは、イコールしゃべれなくなったときで、本人に意思表示ができなくなってしまうため、胃ろうをつけるかどうかの判断が、家族にゆだねられます。家族間で意見が割れることもあって、なかなか意向がまとまらないこともあります。

このようなとき、医師側からの説明の仕方も重要になってきます。説明の仕方いかんで、本人や家族の死のプロセスに対する印象は大きく変わってしまうからです。

口から食べられなくなったとき、「冬になって山の樹々がゆっくりと立ち枯れていくように、自然に死に向かわれるのですよ」という説明を受けた場合と、「このまま胃ろうを着けなかったら餓死しますよ」という言葉を聞かされてしまった場合とでは、同じ死へのプロセスの説明でも、そのイメージや捉え方は全くことなってきます。

もちろん胃ろうをつけても、誤嚥性肺炎になることはありますし、現在までのところ、認知症高齢者にペグをつけても、延命に有効であるというエビデンスはないとも言われています。けれども「着けるかどうか」という選択を迫られること自体が、家族を大いに悩ませてしまうことには変わりありません。

普段、一番近くで患者を看ている家族が、本人のこと(QOL)を考えて「胃ろうをつけてまで…」と思っていても、遠方のわけのわからない親戚が突然やってきて、「殺すつもりか!」などと言われ、傷ついてしまったなどという話も聞きます。

ただ、注意しなければならないことは、少なくとも法的には、家族の「代理同意」(家族が患者の医療を決めるということ)は、患者本人が未成年者である場合を除いて、法的な裏付けのないことだということです。