「彼女は安楽死を選んだ」(後編)

投稿日: Dec 31, 2020 8:4:14 AM

看護師が驚いたのは、日本では認められていない「安楽死」(実際は介助自殺)をHさんが考えていたことであり、また、そもそも「終末期」などではない彼女が、「死」を選択しようとしたことです。

日本では、スイスのような介助自殺や積極的安楽死(医師が致死薬を投与)は法制化されておらず、医師がこれらの処置を行なった場合、嘱託殺人罪や自殺ほう助罪に問われる可能性があります。さきの番組では、彼女の「自殺」を「安楽死」と呼んでおり、「安楽死」の合法化について議論を始めようとする誘導ではないかという憶測も飛び交いました。

日本では、従来から、延命医療の差し控え等の「尊厳死」を法制化しようとする議論がありましたが、橋田壽賀子氏の『安楽死で死なせて下さい』(文春新書、2017年)が大きな反響を呼ぶと、「安楽死」や「介助自殺」の合法化をめぐる議論が、一気に射程に入ってくるようになりました。

現在、致死薬を用いた安楽死「積極的安楽死」が許容されているのは、ベネルクス三国(オランダ、ベルギー、ルクセンブルク)とカナダであり、事例のように、患者が致死薬の入った装置のストッパーを引き抜いたり、みずから処方された致死薬を服用したりする「介助自殺」は、スイスやアメリカのいくつかの州などで許容されています。

しかし、これらの行為に対しては、医師会をはじめ、政治や宗教の領域からも、強硬な反対意見が出されています。たとえば、医師が患者に致死薬を投与(あるいは処方)することは、「ヒポクラテスの誓い」に反するという意見があります。医療者には患者の生命を利するという職務があり、死に加担することは医療行為を逸脱してしまうのではないか、ということです。

カナダでは、医師のみならず、看護師も「安楽死」を実施できるとされています。また、オランダでは、看護師が、終末期の意思決定や安楽死のプロセスに大きく関わっていることが明らかになりつつあります。オランダの医療施設では、患者が「安楽死」を考えていることを最初に打ち明ける相手は、医師よりも看護師であることが多いという調査結果もあります。

患者さんから「死の選択」を打ち明けられた時、あなたはどうするでしょうか?