在宅ケアに特徴的な意思決定のジレンマ(1)家族の関与

投稿日: Dec 16, 2015 7:54:42 AM

在宅ケアの場合、療養者本人だけではなく、その家族とのかかわりも密接になり、がん末期の在宅でのターミナルケアや、コンピテンスのない認知症の高齢者、障がい児・者、難病患者に胃ろうや呼吸器をつけるかどうかといった、療養者の最期や生命を左右する重要な医療の決定に、家族の意向が大きく関与する傾向がある。

終末期の意思決定については、近年わが国でも日本老年医学会が胃ろうの中止を容認する可能性を示したり、人工呼吸器の中止を盛り込む尊厳死法案が超党派の議員らによって検討されたが、「事前指示」のない(できない)認知症の高齢者や重度心身障がい児・者の医療を、法的根拠のないまま家族や後見人等が「代理同意」しているという現状を大きく変えることにはならない。

たとえば徘徊の予防という観点から、家族が療養者に必要と思われるリハビリを拒否するなど、当人の医療が「家族の自己決定」(家族の願望、都合)によって決められる場合、家族の意向を優先してよいのか。「食べられなくなったら、それが母の寿命」と言って、嚥下機能の低下した高齢の療養者に、誤嚥のリスクを承知で食べさせる家族の行動を、黙認していいのか。

これらの問題は「無危害原則」や「善行原則」にかかわる問題として捉えることもできるだろう。ただし、「倫理原則」の適用対象は、療養者個人というよりもむしろ、家族との関係性のなかにある療養者ということになるかもしれない。