投稿日: Dec 19, 2018 6:35:34 AM
在宅ケアの倫理問題は、親密な人間関係のうちに生じてきます。
つぎのケースを見てみましょう。
60代後半の男性Bさんは、進行性の難病のため、50代から寝たきりとなっています。介護者である妻は「夫には少しでもよくなってほしい、リハビリを続けてほしい」と望んでいますが、本人は「リハビリはつらいし、病気がよくなることはないのだから、もうやりたくない。ただ、アロママッサージが気に入っていて、気持ちいいので、それだけしてもらえばいい」と言い張っています。
あるときBさんは訪問看護ステーションに電話をかけてきて、「もうリハビリはいらない」と訴え、スタッフから妻にもそのように伝えてほしいと依頼してきました。
電話を取った看護師が「ご無理のない範囲で、リハビリを少しでも続けてみてはいかがですか」と説得しようとしたのですが、本人は頑として聞かず、「医療者は、患者の気持ちを大事にしてくれるんでしょ?」と言われてしまいました。
「ご家族でもう一度話し合っていだたけませんか」と看護師が言いかけたとき、電話口の向こうで、「あなた、何を言ってるの!」という妻の声が聞こえ、その場で激しい夫婦げんかが始まってしまいました。スタッフは、なすすべもなく、受話器をもったまま、その場に立ち尽くすばかりでした。
医療やケアが行われる場である家庭(ホーム)は、患者の家族や昔からよく馴染んでいる近隣の人間関係のなかにあるため、倫理問題もまた、そのような親密な人間関係のうちに生じてきます。(つづく)