患者の自立及び家族の介護力のマネジメント
1.職業
訪問看護師
2.業務分類
在宅でのターミナルケア
3.施設内看護の年数
4.訪問看護の年数
5.経験内容
膀胱がんを患う80歳代の男性は2004年9月14日、左尿管皮膚瘻術を受け、右腎機能は廃絶、ユリジンカテーテルが挿入されていた。術後、患者に病棟の看護師がストーマの管理指導を行ったが、患者は高齢で、脳こうそくをおこしたことがあり、手の動きが悪く、意欲の減退もあった。そのため、ストーマ(消化管や尿路の疾患などにより、腹部に便又は尿を排泄するために増設された排泄口)のフランジ(接続部)の貼用などの自己管理が困難であった。
家族は、パーキンソン病で歩行困難のある要介護状態の妻との二人暮らしであった。妻は手すりにつかまり歩行が要約の状態であり、男性患者(夫)の手術前は、訪問介護を利用しながら、妻の介護を夫が部分的に行って、生活していた。
子供が二人おり、息子は遠方の県に在住し、ほとんど介護に来ることはできなかった。娘は近県に嫁いでおり、父の介護のため頻繁に帰省していた。
男性患者は退院後、自宅で妻との二人暮らしを望んでいたが、娘も長期に滞在しながらの介護は難しく、実質的にストーマの管理代行者がいなかった。また、患者は、手術翌日から痛みをこらえて、喫煙室に通うほどのヘビースモーカーで、早期の退院、自宅療養を強く希望していた。
<まとめ>
看護師は、ストーマの管理を介護者なしで支え、退院前からのかかわりから、トラブル時にも外来と連携を持ち、カテーテルの入れ替えの医師も調節するなど、患者の状態にあわせて細やかに介入していった。このことが、当初の患者のストーマに対する悲観的な態度を緩和できたと考える。
援助していくうちに、患者自身が強く自宅での生活を望み、パーキンソン病で十分な動きもできない妻が患者の支えになり、離れて生活している娘や息子が役割を見つけていくことができた。介護は、とても大変なことである。時には逃げ出したくなったり、混乱、悲観したりすることも当然である。介護する側も、いつも張りつめた状態ではなく、休憩時間や、やり切れなさを訴えることも必要である。訪問看護師は、患者のみならず、家族にも寄り添い、状態を知り、今はどこを担ってもらうかという家族力のマネジメントを行うことが必要である。看護師にできるだけ「お任せ」ではなく、どう自立を目指した看取りを実現させるかで、残された家族の後の生活も変わっていくと思われる。
6.出所
財団法人日本訪問看護振興財団監修、角田直枝編集『訪問看護のための事例と解説から学ぶ在宅終末期ケア』(中央法規)2008年1月、p.95-105.