末期がん患者を看病する家族が自分の発病を予感する
1.職業
看護師
2.業務分類
その他
3.施設内看護の年数
4.訪問看護の年数
5年
5.経験内容
アイリーンは、アイルランド西部の小さな町の保健師である。彼女は定期的に、肺がんの末期で余命が三か月と言われているウイリアム・マーフィー氏を訪問している。そこで彼女は、ウイリアムの娘のアンとも親しくなった。
アンは現在52歳であるが、二年前に母親が亡くなるまで、その土地の郵便局で働いていた。母親の死とともに彼女は休職し、家で父親の介護をしている。最近、アイリーンが訪問したとき、アンは、左の乳首に痛みを伴う腫れ物があることをアイリーンに告げた。彼女がひどく躊躇した後でアイリーンに胸を見せたとき、アイリーンはすぐに懸念をもった。その腫れ物は何かの塗布剤か洗剤に対する単なるアレルギー反応かもしれない。しかし、片方の乳房にできる乳がんの一種かもしれない。そのがんは、最初発疹ができてから、次第に痛みを伴う腫れ物になっていくのである。
アンは、二か月前に近所の開業医に診てもらい、抗生物質の軟膏を処方されていた。しかし、状態が改善しなかったので、再診のときに、彼女は地域の病院で乳房のX線検査を受けるように勧められたのだった。しかし彼女は、そんなことは出来ないと断った。こんな時に父親を一人にすることはできないし、悪い結果が出たら平静でいられず、それを父親に隠すことが出来ないのではないか、と考えたからである。要するに、彼女は自分の状態は心配なのだが、真実を知りたくないのである。彼女は次の診察の予約はせず、父親が亡くなったあとで改めてその問題を考えることにした。
アイリーンは、それ以上アンの気持ちをかき乱したくはなかった。jしかし、もしアンが実際に乳がんだったとしたら、早く手を打たなければならない。医師は彼女の状態についてどの程度アンに知らせたのだろうか。がんの可能性については話したのだろうか。アイリーンは、アンが正しい判断をするのを助けるにはどうすればよいか、一生懸命考えた。
6.出所
ドゥーリー&マッカーシー著、坂川雅子訳『看護倫理1』みすず書房、2006年、52-3頁