(答)もし,魚や自然を大事にする気持ちがあるのであれば,やめた方がよいでしょう.
まず,その魚はそこで生きていけるのでしょうか.
また,その魚がもともとそこに分布していなかったのであれば,あなたは,その魚と他の多くの在来生物の予想もできない新たな歴史を無責任にスタートさせたいのでしょうか.ブラックバスなどの肉食性の外来魚が日本の淡水生態系を一変させてしまったことは紛れもない事実です.
もともとその近所の川に同じ種が生息していた場合,何が起こるでしょうか.大きな影響がないまま放流魚が死に絶えるだけかもしれません.しかし,人間の目には気付かれにくいながら,ある年月の後,病気の感染や異なる集団間の交雑の結果,もとからいた魚もろとも減ってしまったり,絶滅してしまうかもしれません(→質問5).
異なる水系・地域に生息する淡水魚は,外見上大きな違いがなくても,遺伝的に大きな違いがある場合があります.例えば,本州北陸以北の日本海側のメダカとそれ以外のメダカの間には別種レベルの大きな遺伝的分化が存在します.滋賀県のハリヨと岐阜県のハリヨの間にも明瞭な遺伝的差異が見られます.それらは一緒にすれば交雑しますが,それぞれが数十万~数百万年の長い歴史の中で,別地域で独自の進化を遂げてきたグループです.このようなグループは,現在の分類で同種であろうと別種であろうと「進化的に重要な単位」とみなされます.
同じ水系ではどうでしょうか? 放流には,病気の感染などの危険がつきまといます.また,遺伝的な多様性を失った飼育魚を多数放流すれば,それが自然集団に置き換わり,その後,病気の蔓延に抵抗できずに絶滅してしまうこともあり得ます(→質問4).しかし,現実的には大きな問題はないかもしれません.科学者・研究者も一般的な答えはもっていないと言ってよいでしょう.