5. 淡水魚の保全 Conservation

はじめに

私は,淀川の河畔で過ごした少年時代からの「淡水魚好き」で,大学の水産学部で淡水魚の生態研究を始めて以来,現在まで継続して,主に日本の河川で研究・社会活動を行ってきました.研究の開始時から,幸か不幸か希少魚(ネコギギ)を研究対象としてきましたので,周囲の研究者や保全関係者の影響も受け,これまで微力ながら淡水魚とその生息環境の保全を考え,また活動を行ってきました.

その中で見てきたものは,物言わず,目立たないこの水中の生き物が,人間活動の影響による理不尽で悲惨な状況にありながら,興味をかき立てずにいられない生態・行動を示すこと,そしてそれには非常に長い地域に根ざした「歴史」が伴うことでした.そして,その淡水魚の危機は,「人間活動」とは一般化しにくいような,個別の人間活動における種々の矛盾や理不尽な行政・個人による決定,倫理にもとる商行為,あるいは一部の人間の生活をも破壊してしまうような活動原理を,暗示・含意していることも分かるようになってきました.

このページは折に触れ,淡水魚とその生息地の保全活動に関係する情報の発信と,志を同じくする人たちの便宜のために活用していきたいと考えています.

なかなか更新もされませんが,コンテンツや保全一般に関して,いろいろと情報交換や議論ができれば幸いです.

目下,「環境保全を目的としながら,方法の誤った,保全にマイナスの放流活動を減らすこと[放流ガイドラインへ]」,「希少魚の密漁,販売を根絶すること」,「淡水魚の乱獲を助長するホームセンターなどでの淡水魚の販売を減らすこと」,「河川行政を,名実ともに環境保全の目的に則したものとすること」などを目的に,自分ができることから考え,実行しているところです.(2003年、記)

お知らせ

2024-3-6 ページ構成を全面更新

2024-2-1 三重県いなべ市ネコギギ保全シンポジウム(2023年10月29日)
基調講演「ネコギギの自然史と保全への挑戦」の動画(YouTube)
関連:いなべ市のページ「ネコギギ保全シンポジウム」の報告 ~国指定天然記念物ネコギギ(淡水魚)保護の取組み~

02. 魚類学雑誌「シリーズ:日本の希少魚類の現状と課題」

日本魚類学会の和文学術誌である「魚類学雑誌」に,54巻2号(2007年)から「シリーズ:日本の希少魚類の現状と課題」の連載が始まりました(私が自然保護委員会で企画を担当しています).現場に近い執筆者による「現状と課題」を是非お読みください .

2018年魚類学雑誌65(1)(第22回)でこのシリーズは終了し、2021年魚類学雑誌68(1)「シリーズ:地域の環境保全」が開始されました。(私は担当ではありません)

日本魚類学会・シリーズ:日本の希少魚類の現状と課題のページを開く

第22回 海産魚類レッドリストとその課題

第21回 日本の自然水域のコイ:在来コイの現状と導入コイの脅威/オイカワの地域在来系統の現状:普通種に迫る危機

第20回 四国固有の希少シマドジョウ属魚類の現状と保全:ヒナイシドジョウ,トサシマドジョウ/日本産スジシマドジョウ類の現状とその保全の展望

第19回 国内外来種となった絶滅危惧種:その取り扱いと保全をめぐって/滋賀県ハリヨの危機

第18回  西表島浦内川の魚類/西表島浦内川における取水問題

第17回 サケ:ふ化事業の陰で生き長らえてきた野生魚の存在とその保全/ヒメマス―複雑な移殖の歴史をもつ水産重要種

第16回 カゼトゲタナゴとスイゲンゼニタナゴ:種の保存法指定種・未指定種における保全の現状と課題/「カゼトゲタナゴ」と「スイゲンゼニタナゴ」, その名称をめぐる混乱と保全

第15回 本州・四国・九州の河口干潟に生息するハゼ類/トカゲハゼ:沖縄島中城湾における泥質干潟生態系の保全

第14回 ニホンウナギ:現状と保全/ドジョウ:資源利用と撹乱

第13回 津波震災を乗り越えた大槌町のイトヨ/ため池の希少魚:自然災害から守る/福島県の災害地における淡水魚類の現状と課題

第12回 琵琶湖固有(亜)種ホンモロコおよびニゴロブナ・ゲンゴロウブナ激減の現状と回復への課題/ビワマス:その利用と保全

第11回 在来渓流魚(イワナ類,サクラマス類):利用,増殖,保全の現状と課題/ネコギギ:積極的保全に向けたアプローチ

第10回 琵琶湖のタナゴ類:その現状と保全/ゼニタナゴ:ため池に生き残った平野の魚

第9回 有明海の魚類の現状と保全/ヤマノカミ:厳しい生息現状とその保全

第8回 海産魚レッドリストの検討/アオギス:干潟再生のシンボルとして

第7回 ジュズカケハゼ種群:同胞種群とその現状/池沼性ヨシノボリ類の特徴と生息状況

第6回 国内外来魚問題とは?/メダカ:人為的な放流による遺伝的攪乱・シナイモツゴ:希少になった雑魚をまもる

第5回 トミヨ属雄物型:きわめて限定された生息地で湧水に支えられた遺存種の命運/ムサシトミヨ:世界中で唯一熊谷市に残った魚/名前のないトゲウオ類

第4回 オガサワラヨシノボリ:海洋島における淡水生態系の保全に向けて/琉球列島の中卵型ヨシノボリ属2種:島嶼の河川で 進化してきたヨシノボリ類の保全と将来

第3回 タナゴ亜科魚類:現状と保全/イタセンパラ:河川氾濫原の水理環境の保全と再生に向けて

第2回 イトウ:巨大淡水魚をいかに守るか/キリクチ(紀伊半島のヤマトイワナ):分断された小個体群の保全に向けて

第1回 ヒナモロコ:田園風景とともに消えつつある魚/アユモドキ:存続のカギを握る繁殖場所の保全

04. IUCN再導入ガイドライン

IUCN/SSC (2013). Guidelines for Reintroductions and Other Conservation Translocations. Version 1.0. Gland, Switzerland: IUCN Species Survival Commission, viiii + 57 pp.

日本語訳(環境省)再導入とその他の保全的移殖に関するガイドライン (和訳) 

生物の保全のための移動(再導入、補強、保全的導入)に関する国際的なガイドラインです。
日本魚類学会の「放流ガイドライン」はこのガイドラインの前身である「IUCN/SSC Guidelines For Re-Introductions」(私訳)を参考に作成されました。

05. 保全関連の発表資料

保全の理念や意図を損なわない限り、転載・転用自由です。

2024-2-1 講演「ネコギギの自然史と保全への挑戦パネル談義「“郷土財”としてのネコギギの保全」の動画(YouTube)三重県いなべ市ネコギギ保全シンポジウム(2023年10月29日)
関連:いなべ市のページ「ネコギギ保全シンポジウム」の報告 ~国指定天然記念物ネコギギ(淡水魚)保護の取組み~

2017-3 「身近な淡水魚の歴史を未来につなげる〜本当に魚を戻すために〜」:滋賀県で活動する「ぼてじゃこトラスト」の20周年記念誌に寄稿した文章。PDFはこちら。テキスト(ウェブ)版は少し文章を修正した箇所もあります。

2016-2-27 里川の自然を未来につなぐ~身近な生物多様性の価値と保全~:いなべ市民大学講座(第8回)レジュメ

2016-2 アユモドキIUCN RED LIST (抄訳)

2013-8-31 「保全手法としての放流」:京都大学理学研究科セミナーハウスで開催された2013年度日本魚類学会市民公開講座「希少魚の保全と放流:本当に魚を守り,増やすには」で講演したのスライド.2014-1-18,全国タナゴサミットでお話した内容もほぼ同じです.

2009-10-12 「保全の単位:考え方,実践,ガイドライン」:東京海洋大学で開催された2009年度日本魚類学会市民公開シンポジウム「国内外来魚問題の現状と課題」で講演した「保全の単位:考え方,実践,ガイドライン」のスライド
要旨:生物の本質は「自ずと進化する実体」なのでその主体である地域個体群を進化しつづけられる状況で守ることこそが種の保全に他ならない淡水魚の保全においてはできるだけ多くの地域個体群を多数個体のもとで保全する必要があり<基本的な保全単位>、それが不可能な場合にのみ、歴史的に近い個体群を対象に交流させることを保全策とするべきである<連続的な保全単位>。日本魚類学会の「放流ガイドライン2005」はこのポリシーのもとで策定されたチェックリストである

2009-9-26 「遺伝学・生態学的背景,事例とガイドライン説明」 :応用生態工学会第13回埼玉大会で開催された分科会「保全としての放流」での講演スライド

古いお知らせ

2016-12-8 「淡水魚保全の挑戦:水辺のにぎわいを取り戻す理念と実践」が出版されました!
「淡水魚保全の挑戦:水辺のにぎわいを取り戻す理念と実践」が出版されました。ぜひ手に取ってください。著者割(2割引き)で3,284円+送料です。下記出版部か、私(あるいは身近な著者)に遠慮なく連絡下さい!カラーもふんだんで、積極的保全に向けた充実した内容となっています。日本魚類学会自然保護委員会編(渡辺勝敏・森誠一責任編集).2016.叢書イクチオロギア4.淡水魚保全の挑戦:水辺のにぎわいを取り戻す理念と実践」.東海大学出版部.

2016-4-7 環境省が中心にとりまとめてきた「二次的自然を主な生息環境とする淡水魚保全のための提言」が完成、公表されました
水田周辺域をはじめとする二次的自然に主に生息する淡水魚の保全に向けて、基本的な保全のための指針、代表魚種の分析試料、また環境省、農水省、国交省、文科省に関係する保全に役立つ各種制度、法令、具体例に関する資料が付いています。ぜひ広く活用され、少しでも淡水魚保全に役立てば、委員として関わってきた一人としてうれしく思います。

2016-X-X IUCN/RSGから再導入ケーススタディ集第5号(PDFに直接リンク)が出版されました.
日本からの魚の記事はありません。

2015-11 IUCNによって、アユモドキParabotia curtusがレッドデータブックにCR(絶滅寸前種、絶滅危惧IA類)として指定されました
最初の評価根拠について暫定訳を作成しました(2016-2)。
品質や内容について保証は一切しませんが、自由に利用、配布、改善ください。その際翻訳者名は記載しないでください(完全免責)。

2013-X-X IUCN/RSGから再導入ケーススタディ集第4号が出版されました.

2011-X-X IUCN/RSGから再導入ケーススタディ集第3号が出版されました.
日本の淡水魚から「イタセンパラ」(小川ほか),「ウシモツゴ」(向井ほか),「イチモンジタナゴ」(北島ほか),「アブラボテ」(北島・森)が紹介されています.

2010-12 IUCN/RSGから再導入ケーススタディ集第2号が出版されました.
日本の淡水魚から「ミヤコタナゴ」を紹介しています(Kubota et al. 2010).

2007-X-X 保全遺伝学のすばらしい教科書『保全遺伝学入門』が翻訳されました.
保全遺伝学入門』Frankham, R.・J. D. Ballow・D. A. Briscoe. 2002(西田 睦監訳,高橋 洋・山崎裕治・渡辺勝敏訳.2007)文一総合出版,東京,751 pp.(\7,200+税)
著者割(8割)購入可です.ご連絡ください.

2005-4-6 日本魚類学会により「生物多様性の保全をめざした魚類の放流ガイドライン」が策定されました.

参考情報

日本魚類学会市民公開講座・シンポジウム
多くの淡水魚保全に関わる市民公開講座やシンポジウムが行われており、大変有用な要旨集が公開されているものも多くあります。