新論文紹介

2020年以降に出版された論文をごく簡単に紹介します。

右側のそれぞれのヘッドラインをクリックすると、簡単な解説を見ることができます。

2023/11/11 ウキゴリ属3種の仔魚の塩分耐性と遺伝子発現の可塑性に関する論文が出版されました!

元院生の大戸夢木さんの渾身のウキゴリ類仔魚の浸透圧調整能力に関する論文がとうとうパブリッシュされました(共著)。OAでないのでご関心の方はどうぞDMをください。

Oto et al. 2023. A key evolutionary step determining osmoregulatory ability for freshwater colonisation in early life stages of fish.

Journal of Experimental Biology, 226, jeb246110.

https://doi.org/10.1242/jeb.246110

基本的に両側回遊性のウキゴリ3兄弟(ウキゴリ、スミウキゴリ、シマウキゴリ)のうち、なぜウキゴリでだけ陸封型が生まれるのかの謎に挑んだものです(4兄弟めの琵琶湖のイサザは純淡水でウキゴリの姉妹種)。

その一つの答えが、ウキゴリの孵化稚魚は塩分変化に対応する高い能力を遺伝子発現レベルで獲得していること(aqp3など)。この能力が孵化直後の淡水域での生息を可能にしていると思われます。

あと、耳石解析から、物理障害のない中河川で、海に降りない個体や降りる個体がウキゴリ河川個体群内で多型的に生じていることがわかりました。どのように河川のウキゴリが生活史を決定しているのか、興味が尽きません。


2023/09/25 インレー湖周辺域のタイワンドジョウ化固有種の系統地理的起源に関する論文が出版されました!


元院生のFukeさんを中心とする「中程度に隔離された古代湖における固有種の起源:ミャンマー・インレー湖におけるタイワンドジョウ科のケース」が出版されました。

Fuke, Y., P. Musikasinthorn, Y. Kano,  R. Tabata, S. Matsui, S. Tun, L. K. C. Yun, T. Bunthang, P. Thach and K. Watanabe*. In press. Origin of endemic species in a moderately isolated ancient lake: the case of a snakehead in Inle Lake, Myanmar. Zoologica Scripta. https://doi.org/10.1111/zsc.12633 (2023)


詳細は追って


2023/04 イワナの分布域を網羅する系統地理論文が出版されました!

水産総合研究所の旧友Yamamotoさんを中心とするコアなイワナグループに混じって、「北西北太平洋の歴史的に氷河に覆われなかった地域におけるイワナの系統地理」が出版されました。

Yamamoto, S., Morita, K., Kitano, S., Tabata, R., Watanabe, K. and Maekawa, K. 2023. Phylogeography of a salmonid fish, white-spotted charr (Salvelinus leucomaenis), in a historically non-glaciated region in the northwestern North Pacific. Biological Journal of Linnean Society, 139: 115–130. https://doi.org/10.1093/biolinnean/blad002


詳細は追って

2023/03/07 環境DNAによる系統地理に関する論文が出版されました!

ポスドクのTsujiさんを中心とする「環境DNA系統地理:バケツ1杯の水から複数種の系統地理パターンの再構築に成功」が出版されました。

Tsuji S, Shibata N, Inui R, Nakao R, Akamatsu Y, Watanabe K (2023) Environmental DNA phylogeography: successful reconstruction of phylogeographic patterns of multiple fish species from cups of water. Molecular Ecology Resources. https://doi.org/10.1111/1755-0998.13772

河川水から、そこにどんな魚がいるかだけではなく(通常の環境DNA調査)、遺伝的多様性も把握して、複数の種の地理的遺伝構造、つまり地理的分化や地域固有性を同時に明らかにすることができる、という論文です。

発想自体は突飛ではないかもしれませんが、微量DNAからPCRをかけまくって増幅する環境DNA手法は、どうしても「偽の」遺伝子配列を量産します。それは自然での突然変異と同じ振る舞いなので、それらをどうやって区別するかが技術的な壁でした。種の検出だけなら、「メジャーなもののみに着目」で事足りました。

この研究では、いくつかのスクリーニングステップを比較・検証しました。結局のところ、偽陽性(偽配列)をできるだけ排除するために稀なハプロタイプの見過ごし(偽陰性)は許容する、大胆な刈り込みを行っても、十分に系統地理パターンを再構築することができることを明らかにしました。

ドンコ、イシドンコ、カワムツ、ヌマムツ、オイカワを同時に分析し、従来法で得られた系統地理パターンと遜色ない系統地理パターンを得ることができました。

比較系統地理を超えて、「群集系統地理」を低コスト・短時間で実現できる道筋が見えました。

もちろんより込み入った研究には試料を用いた詳細な研究が必要ですが、まずは水を分析するだけで、広く、細かく、魚たちの地域分化の全体像を知ることができるようになったといえます。

Tsujiさんの研究の力量には本当に感服します。

様々な形で貢献なさった西の方の共著者に皆さんにも感謝。

京大等からのプレスリリース:https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2023-03-08


2022/12/25 ネコギギの環境DNAプライマーとサンプリング方法に関する論文が出版されました。

島根大学の高原さんを中心としたネコギギの環境DNAプライマーと効果的・安全なサンプリング方法に関する論文が出版されました。

Takahara, T., H. Doi, T. Kosuge, N. Nomura, N. Maki, T. Minamoto and K. Watanabe (In press) Effective environmental DNA collection for an endangered catfish species: testing for habitat and daily periodicity. Ichthyological Research, https://doi.org/10.1007/s10228-022-00900-2 (2022)

水槽実験により、DNA保存においてBAC添加の有効性が確かめられました。

野外の2河川での調査から夜行性のネコギギでも昼間調査すれば十分であること、瀬と淵とで結果が変わらず、採水しやすい場所で採水すればいいこともわかりました。

三重県や三重県いなべ市の保全計画ですでに実用に入っています。ネコギギの保全に役立ちますように。

島根大学などからのプレスリリース:https://www.shimane-u.ac.jp/docs/2023011100055/

2022/10/21 春採湖のヒブナの起源に関する研究論文が出版されました。

元大学院生の理研BDRの三品さんを筆頭著者とした春採湖のヒブナの起源に関する論文が出版されました。

Mishina, T., K. Nomoto, Y. Machida, T. Hariu and K. Watanabe (2022) Origin of scarlet gynogenetic triploid Carassius fish: implications for conservation of the sexual–gynogenetic complex. PLoS ONE, 17(10): e0276390. https://doi.org/ 10.1371/journal.pone.0276390 (2022) 

オープンアクセスです。

京大等からのプレスリリースはこちら:https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2022-10-21

やはりヒブナの緋色はキンギョからゲットされたもののようです。

ヒブナは3倍体4倍体のクローン繁殖だから、有性生殖するキンギョから遺伝子をゲットできるはずはないと考えられてきましたが、有性フナとの稀な遺伝的交流がクローンフナの多様性を生み出してきたという先行研究の知見の象徴的な事例です。

先行研究:Mishina et al. (2021) Interploidy gene flow involving the sexual‐asexual cycle facilitates the diversification of gynogenetic triploid Carassius fish.  Sci Rep: https://doi.org/10.1038/s41598-021-01754-w

先行研究の解説記事はこちら:https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-11-19-0

2022/09/05 ミャンマー・インレー湖周辺域固有種の小さく美しいコイ科魚類Microrasbora rubescensの隠れた大きな集団分化に関する論文が出版されました

博士課程の福家さんを筆頭著者としたミャンマー・インレー湖周辺域固有種の小さく美しいコイ科魚類Microrasbora rubescensの隠れた大きな集団分化に関する論文が出版されました

Fuke, Y., Y. Kano, S. Tun, LKC Yun, S. S. Win and K. Watanabe (In press) Cryptic genetic divergence of the red dwarf rasbora, Microrasbora rubescens, in and around Inle Lake: implications for the origin of endemicity in the ancient lake in Myanmar. Journal of Fish Biology. https://doi.org/10.1111/jfb.15195 (2022)

オープンアクセスではないので、どうぞ遠慮なくメール等でPDFをリクエストください。

2014年から開始したインレー湖研究の中で、ようやく口火を切った系統・集団遺伝学的研究の第一弾となります。この地域にすむ小型のコイ科魚類が地域間で200万年以上もの古い明瞭な分化を示すことを核ゲノムワイドな一塩基多型データ(MIG-seq法)とmtDNA塩基配列データで明らかにし、一方で、形態的には極めて強い保守性を示していることを示し、その理由について考察を行っています。

インレー湖はミャンマー中東部・シャン高原に位置する東南アジア大陸部では唯一の古代湖で、10数種の固有種を含むユニークな魚類相で知られています(Kano et al. 2016: Biodiversity Data Journal)。red dwarf rasboraは観賞魚として有名な小さく美しいコイ科魚類で、この地域の固有種です。一方、湖の北東部の山を隔てたHopong(Kano et al. 2022: Biodiversity Data Journal:本ページ下方に紹介あり)などからも同種が知られています。我々はそれら周辺集団を込みに遺伝集団分析を行うことで、まったく未研究であるインレー湖周辺地域の淡水生物相の発達史の解明に向けた一歩を進めました。

インレー湖を含む大きく4地域の集団をMIG-seq法とmtDNAデータで解析したところ、地域間で200万年を超える古い明瞭な分化が明らかになりました。これは核、mtDNAで整合的な結果であり、同じサルウィン川の支流Balu-chuang川に属する地点間の分化としては予想外の大きさでした。

一方、形態ではほとんど差異がなく、止水(インレー湖や湧水地)に生息する本種のニッチ保守性やそれに関連した移動分散性の低さが本種の明確な集団構造を形作っている可能性を論議しました。ただし、今後、他種のパターンとも比較しながら、この地域の淡水生物の集団構造の一般性や個別性を解明していく必要があります。

インレー湖の淡水生物を初めて本格的に研究したのは、多くのアジアの湖の研究を行ったT.N.アナンデール氏であり、また彼は琵琶湖の研究でも知られています。最近、京大総合博物館において、福家さんがアナンデールの寄贈した貴重なインレー湖の魚類・貝類標本を再発見し、詳細な報告へとつなげています(Fuke et al. 2021: Ichthyological Research:本ページ下方に紹介あり; Sawada 2022: Molluscan Research)。琵琶湖研究を長く続けてきた我々は、琵琶湖とインレー湖、そしてミャンマーの深い縁を感じつつ、今後も両地域での研究の発展に幾らかでも貢献していければと考えているところです。

ミャンマーのカウンターパートや協力者の皆さんに感謝です。

2022/08/16 琵琶湖の陸封アユの遺伝的集団構造を環境DNAにより調べた論文が出版されました

ポスドクの辻さんを筆頭著者とした琵琶湖の陸封アユの遺伝的集団構造を環境DNAにより調べた論文が出版されました


Tsuji, S., N. Shibata, H. Sawada and K. Watanabe (In press) Differences in the genetic structure between and within two landlocked Ayu groups with different migration patterns in Lake Biwa revealed by environmental DNA analysis. Environmental DNA. https://doi.org/10.1002/edn3.345 (2022)

オープンアクセス

琵琶湖産アユの生活史多型と河川間の遺伝的差異を環境DNAによる大規模な調査で明らかにしました。

琵琶湖の主要な水産対象種であるアユの大部分は、通常の河川のアユと大きく生活史を違えており、つまり河川のアユは秋に河川下流で産卵され流下した仔魚が、春に海から河川に遡上しますが(春遡上)、琵琶湖のアユは一部が流入河川に春遡上し、河川で成長するもの(オオアユ)のほか、大部分は湖内で秋まで成長し(コアユ)、秋に流入河川に遡上して産卵を行います(秋遡上)。つまり、アユの生活史の原型は両側回遊性(他には多くのハゼ類など)ですが、琵琶湖のアユの大部分は遡河回遊性です(他にはサケやイトヨなど)。

これらの生活史の2型の間には遺伝的差異があるのか、同時に河川間ではどうなのか、1970年代以降、様々な観点で研究がなされてきました。これらの課題はアユの資源管理、保全に関わる重要な問題であるのはもちろん、異なる環境に侵入した生物の生活史進化の仕組みを追究する上での基盤的知見となります。既存の主な研究としては、先年亡くなった本研究室の大先輩である東幹夫氏が春遡上と秋遡上が種分化の途上にあると考えたり、ニホンウナギの生態研究で名高い塚本勝巳氏が年間で子の生活史が相互に入れ替わるスイッチング説を提唱したりしています。近年ではアユの生態研究で名高い井口恵一朗氏がmtDNAを用いた遺伝的比較を試みています。

本研究は、環境DNA技術の第一人者の辻さんが確立してきた環境DNAに基づく集団内遺伝的多型の精確性の高い評価方法を野外で大規模に応用し(11河川で2年間;ただしすべてのデータが使えたわけではありません)、以下の知見を得ることができました。

これらの結果が意味するところを、緯度による春遡上群と秋遡上群の産卵期のズレの大きさの違い、産卵期と琵琶湖の還流の発達時期の関係、あるいは塚本氏によるスイッチング説との関連のもとで議論を行っています。

春産卵群と秋産卵群が何であり、どう関係するのか、また各河川の春・秋のアユがどのように交流・隔離されているのかは、まだ完全にわかったわけではありません。しかし、先行研究(東氏、井口氏による)で示唆されてきたように、琵琶湖内でアユが遺伝的に構造化されていることは(=大きく混じり切った均一集団ではない)、今後のアユの資源管理や生活史進化研究の基礎になると思われます。

2022/08/10 アユモドキの系統と集団構造に関する論文が出版されました

大学院生の井戸さんを筆頭著者としたアユモドキの系統と集団構造に関する論文が出版されました。


Ido, K, T. Abe, A. Iwata, K. Watanabe (In press) The origin and population divergence of Parabotia curtus (Botiidae: Cypriniformes), a relict loach in Japan. Ichthyological Research. https://doi.org/10.1007/s10228-022-00884-z (2022)

(遺存固有種アユモドキの起源と集団分岐)閲覧オンリーサイト:rdcu.be/cTm5A

この論文では、現存の5つの集団(1つは40年来の飼育集団;野生絶滅)すべてについて、約200個体のミトコンドリアDNA部分塩基配列、260個体のマイクロサテライト(33座)、そして24個体のミトコンドリア全ゲノムの情報を用い、

の解析を行い、アユモドキの歴史の再構築を試みました。

アユモドキは、アユモドキ科の中でも最も北方に進出したParabotiaの中で、古い時期(約600万年前)に分岐した種であり、日本産の唯一のアユモドキ科魚類としてまさに遺存固有種と言える種です。この10万年ぐらいのスケールで、集団の縮小も伴いながら、現在の山陽ー近畿の2集団が分化したと推定されました。

論文の中で、mtDNA部分配列(約1,000塩基)では2つの地域集団(山陽、近畿)で共通するハプロタイプが現れ、少し解釈に迷っていたところ、現在進めている全ゲノム分析の副産物で得られたミトコンドリア全ゲノムのデータ(正確にはタンパク質コード領域約11,000塩基)を用い、対比したところ、同じに見えていたハプロタイプが、地域間できちんと分化していることがわかり、その分岐年代も推定できた点は、著者として嬉しかったことです。

長年アユモドキの保全、調査を続けている阿部さん、岩田さん、そしてゲノム分析を始め、新たな取り組みを展開している井戸さんのおかげで、取り溜めたmtDNAやマイクロサテライトのデータ(の一部)を世に出すことができ、個人的に少し安堵です。

この論文が古い日本の住人としてのアユモドキへの理解を深め、少しでも保全機運を高めるのに役立てば幸いです。

2022/04/05 ミャンマー・ホポン地域(インレー湖の近く)の魚類相に関する報告が出版されました

ミャンマーの古代湖インレー湖研究のスピンアウトとして、北東部の高地ホポンの興味深い魚類相をレポートしました。

Kano, Y., Y. Fuke, P. Musikasinthorn, A. Iwata, T. M. Soe, S. Tun, LKC Yun, S. S. Win, S. Matsui, R. Tabata and K. Watanabe. 2022. Fish diversity of a spring field in Hopong Town, Taunggyi District, Shan State, Myanmar (the Salween River Basin), with genetic comparisons to some “species endemic to Inle Lake”. Biodiversity Data Journal 10: e80101. https://doi.org/10.3897/BDJ.10.e80101 [open access]

観賞魚に詳しい人なら、ハナビ、ギャラクシーなどとして知られる小型コイ科魚類Danio margaritatusをよく知っているかもしれません。ホポンはその模式産地でユニークな地域です。

ここで2016〜2020年に9回にわたり野外調査を行い、インレー湖固有種とされてきた7種を含め、25種を記録しました。また8種は確実に、またはおそらく外来種でした。

インレー湖と共通する種について、遺伝的に比較してみたところ、かなり大きな遺伝的分化を示すもので、そうでないものが含まれており、今後の研究課題を提示しました。

インレー湖、ホポンを含め、素晴らしい魚類多様性をもつミャンマーが、平和な社会のもとで健やかな生態系を維持できることを心から祈るばかりです。

2021/11/30 琵琶湖の固有魚類とその進化の研究史に関する総説が出版されました

琵琶湖とその生物相の形成に関係した研究プロジェクトのメンバーで、それらの研究史や文献をまとめた総説が出版されました。

 田畑諒一・渡辺勝敏・佐藤健介.2021.7. 魚類.In:高橋啓一・里口保文・林 竜馬・山川千代美・大槻達郎・三浦収・田畑諒一・渡辺勝敏・佐藤健介,琵琶湖とその生物相の形成に関連した研究史ならびにその文献資料について.化石研究会会誌,特別号,(5):28–33.

地史、また他の生物群の研究史・文献リストを含め、今後の研究に大変有用な総説だと思います。我々は琵琶博・田畑さんを中心に琵琶湖産魚類の研究史と展望をまとめました。

電子版は現時点で公開されていないようですが、ご所望の方はご連絡ください。


2021/11/18 3倍体クローンフナの起源に関する論文が出版されました

現・理研BDRの三品さんを中心としたギンブナの起源に関する力の入った論文が出版されました。

Mishina, T., H. Takeshima, M. Takada, K. Iguchi, C. Zhang, Y. Zhao, R. Kawahara-Miki, Y. Hashiguchi, R. Tabata, T. Sasaki, M. Nishida and K. Watanabe. 2021. Interploidy gene flow involving the sexual-asexual cycle facilitates the diversification of gynogenetic triploid Carassius fish. Scientific Reports, 11: 22485. https://doi.org/10.1038/s41598-021-01754-w (2021)  [open access]

プレスリリース(京都大学):https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research-news/2021-11-19-0

フナ類にはメスだけでクローン繁殖するグループがいることが古くから知られており、最近ではそれらを「ギンブナ」と呼ぶようになっています(ギンブナはもともと形態的に区別されてきた一群)。ギンブナは3倍体メスで、同所的に生息する2倍体のフナ(オオキンブナ、キンブナ、ニゴロブナなど)のオスの精子を初期発生のために利用しますが、受精はせず、クローン繁殖を行います(雌性単為発生)。大変身近なフナ類ですが、このギンブナの起源についてはよくわかっていませんでした。

最近の遺伝学的な研究で、次の2つの仮説がありました。
(1)単一起源説:ギンブナだけが共通してもつ遺伝要素がありそうで、それは大陸に見られるものと一致しているかも。
(2)多所的複数起源説:ギンブナは、各地の2倍体フナと共通のミトコンドリアDNA(母系細胞遺伝)をもつ傾向があり、多様性を示す。
これらは、ギンブナが2倍体とは遺伝的に独立してクローン繁殖を行うことから、矛盾しています

今回の論文では、倍数性判定と集団構造解析をマイクロサテライトDNAマーカーで同時に行い、ミトコンドリアDNAや核の複数遺伝子、トランスクリプトーム(網羅的遺伝子発現データ)の情報を用いて、主四島に加え琉球列島や中国を含む広域からのフナ類を分析し、この2つの説の矛盾を解決しました

解析の結果は下記のギンブナの起源に関するシナリオを示しました。

ギンブナ(3倍体クローン繁殖フナ)は(おそらく※)大陸部で生まれ、それが100万年ほど前に日本に侵入し、現地の2倍体メスから遺伝的要素(ミトコンドリアDNAを含む)を取り込みながら、性からほぼ解放された持ち前の高い増殖率を生かして、北海道にまで比較的短い時間に分布を広げたと考えられます。

キーになってくる2倍体メスから遺伝的要素の取り込みの機構には、おそらく稀に観察される4倍体フナ(特にオス)の存在が要になってきそうです。ギンブナの繁殖において、稀に捨てられるべき精子が受精し、3n + n = 4n が生じ、この4nのオスが2nの精子を生産することで、現地の2nフナの卵(n)と受精すると3nが「再生」されるというものです(この過程は実験的な根拠がありますが、それらが3倍体クローン系統を再生する証拠までは今のところ得られていません。)

以上の通り、「単一起源説」と「多所的複数起源説」はいずれも正しく、ただし3倍体クローン系統は各地の2倍体フナと4倍体を介して一方向の遺伝的交流を持ちながら、「再生」し続けながら日本列島を縦断したという、新たなギンブナ像が描かれました。

まだ様々な解明すべき謎は残っていますが、この論文は、フナの繁殖機構と日本のギンブナの起源、また分布域形成を膨大なサンプルと遺伝子データで統合的に論じたものとして、これまで数多くなされてきたフナ類の研究において、一里塚となるのではないかと思います。

妥協のないサンプリングと遺伝解析は、協力者も多くあったとはいえ、大学院生であった三品氏のちょっとやそっとでは真似できない力量の賜物だと思います。論文化まで少し時間がかかったことから、今日的には古いタイプのデータとなったことは残念ですが、この後もさらにフナ研究は発展していく予定です。


(※おそらく、というのは、大陸の2倍体が日本の2倍体と出会って交雑した際に3倍体が生まれた可能性も否定できないからです。ただ大陸にも3倍体がいることから、3倍体として陸橋を通じて侵入してきたことが第一に支持されます。)


2021/10/24 ウキゴリ類の視物質ロドプシンの進化に関する論文が出版されました

院生の伊藤さんを中心とした沿岸、汽水、河川、湖沼に適応放散したウキゴリ類の視物質ロドプシンの進化パターンに関する論文が出版されました。

Ito, R. K., S. Harada, R. Tabata and K. Watanabe. 2022. Molecular evolution and convergence of the rhodopsin gene in Gymnogobius, a goby group having diverged into coastal to freshwater habitats. Journal of Evolutionary Biology, 35: 333–346. https://doi.org/10.1111/jeb.13955 (2021)

魚類では、光環境の変化を伴うハビタットの変化(e.g., 海-->川、浅場-->深場)に応じた視物質ロドプシンの進化がいくつかのケース知られています。

ウキゴリ類は様々な環境にすむ多様な生活史進化を実現した興味深いハゼ類で、10数種を含みますが、視物質ロドプシンの進化パターンを網羅的に調べてみました。

すると4種を含む3つのグループで明らかな分子収斂(別系統で同じ塩基・アミノ酸の置換)が複数のアミノ酸座位でみられ、それらは吸収光スペクトルを変えることがわかっているスペクトル・チューニング・サイト(STS)を複数含んでいました。これらは適応進化の痕跡だと推察されました。

しかし検討された生息環境、生活史、生態特性との進化的相関は認められず、何に対する適応進化なのかは解明できませんでした。

オーソドックスな例がいくつか報告されている視物質の進化ですが(深海で短波長吸収よりに進化、など)、そう単純なものではないことを認識すべきだと思われます。

2021/09/01 アブラヒガイ論文,第1弾が出版されました

アブラヒガイの進化の謎を追及する論文第1弾がとうとう出版されました.

Kokita, T., K. Ueno, Y. Y. Yamasaki, M. Matsuda, R. Tabata, A. J. Nagano, T. Mishina and K. Watanabe. 2021. Gudgeon fish with and without genetically determined countershading coexist in heterogeneous littoral environments of an ancient lake. Ecology and Evolution. https://doi.org/10.1002/ece3.8050  [open access]

福井県立大と京大グループを中心に琵琶博等の協力も得ながら行われています.

まずはアブラヒガイの「腹黒」(カウンターシェーディングの消失)の表現型の定量,遺伝子発現の裏付け,遺伝様式の解明,責任遺伝子の示唆.

オープンアクセスです.

ヒガイ論文,まだ続きます!


2021/08/04 メダカの「出インド記」論文の出版(追記あり:2022/03)

メダカ科魚類の「出インド記」論文が出版されました。

琉球大・山平さんを中心に見事にまとめあげた、わかりやすく面白い成果だと思います。

私自身の貢献は小さいですが、ミャンマーからの貢献ということで嬉しく思います。

Yamahira, K., S. Ansai, R. Kakioka, H. Yaguchi, T. Kon, J. Montenegro, H. Kobayashi, S. Fujimoto, R. Kimura, Y. Takehana, D. H. E. Setiamarga, Y. Takami, R. Tanaka, K. Maeda, H. D. Tran, N. Koizumi, S. Morioka, V. Bounsong, K. Watanabe, P. Musikasinthorn, S. Tun, L. K. C. Yun, K. W. A. Masengi, V. K. Anoop, R. Raghavan and J. Kitano. 2021. Mesozoic origin and ‘out-of-India’ radiation of ricefishes (Adrianichthyidae). Biology Letter 17: https://doi.org/10.1098/rsbl.2021.0212 (2021)

琉球大から、プレスリリースとしてわかりやすい解説が出されています。

https://www.u-ryukyu.ac.jp/news/26312/?fbclid=IwAR02t3HwsbEW7KJcznyfvuvXUfN8lvvmCn0pUgVM8zQR0SH7Il4iEbVacaU

〜〜〜

追記:この論文に対して反論論文が出され、一部主要な著者たちで解析をし直したところ、やはりもとの結論が支持されることが確認されました。

Britz R, Parenti LR, Rüber L (2022) Earth and life evolve together—a comment on Yamahira et al. Biology Letters 18: https://doi.org/10.1098/rsbl.2021.0568

Yamahira K, Fujimoto S, Takami Y (2022) Earth and life evolve together from something ancestral—reply to Britz et al. Biology Letters 18: https://doi.org/10.1098/rsbl.2022.0010

2021/03/16 京大総合博物館に所蔵されているアナンデールのインレー湖魚類標本に関する報告

院生の福家さんが京大総合博で発掘し、九大鹿野さんとのコラボで蘇らせたアナンデールのインレー湖産魚類の標本に関する報告

Fuke Y, Satoh T P, Kano Y, Watanabe K (2021) Annandale’s collection of freshwater fishes from Inle Lake, Myanmar, housed in the Kyoto University Museum. Ichthyol Res

https://doi.org/10.1007/s10228-021-00806-5

日本魚類学会Ichthyological Research誌に掲載。

100年前からミャンマーと日本は魚がつなぐ縁がある。

また平和なミャンマーを訪れることができるよう祈るばかり。

ご関心のある方はご遠慮なくメッセージをください。PDFをお送りします。

2020/08/26 分担執筆した「Lake Biwa: Interactions between Nature and People」の第2版が出版されました。

解説準備中

Watanabe, K. 2020. 2.7.2 Origin and evolution of fishes in Lake Biwa inferred from molecular data. In: Kawanabe, H., M. Nishino, M. Maehata (eds.) Lake Biwa: Interactions between Nature and People. 2nd edn. Springer. pp. 219–224. 

https://doi.org/10.1007/978-3-030-16969-5


2020/07/03 アユモドキの環境DNA開発と適用例に関する論文が出版されました

解説準備中

Sugiura, K., S. Tomita, T. Minamoto, T. Mishina, A. Iwata, T. Abe, S. Yamamoto and K. Watanabe. 2021. Characterizing the spatial and temporal occurrence patterns of the endangered botiid loach Parabotia curtus by environmental DNA analysis using a newly developed species-specific primer set. Ichthyol. Res., 68: 152–157.

Doi:10.1007/s10228-020-00756-4 (2020)

2020/04/30 川那部浩哉さんのインタビュー記事が出版されました

魚類学雑誌最新号に京大名誉教授・琵琶博初代館長の川那部浩哉さんのインタビュー記事が掲載されました。

前川光司・渡辺勝敏(2020)インタビュー「先達に聞く」:川那部浩哉.魚類学雑誌 67:138–156

魚類学会員はHPのマイページにログイン、魚雑最新号の「会員通信」からDLできます(冊子は連休明け配送のもよう)。

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魚類学会メンバー以外のご関心のある方(あるいはメンバーでもDLの仕方がわからない方)はご遠慮なくメール等(watanak[at-mark]terra.zool.kyoto-u.ac.jp)で送付先アドレスをお知らせください。

〜目次〜

はじめに

1.生態学との出会い〜「騙されただけなんや」

2.アユの研究,群集,進化生態学〜「ほんまの話をしようか」

3.魚類学,そしてタンガニイカ湖へ〜「周りに押し付けられただけ」

4.図鑑,生態学研究センター,そして琵琶湖博物館 〜「自分しかやれないものをやる」

5.公害から保全,そして生態学〜「生態学をやることだけは自分で選んだ」

あとがき

2020/04/23 琵琶湖におけるカマツカの形態変異パターンと食性との関連に関する論文が出版されました

院生の遠藤千晴さんが取り組んできた琵琶湖のカマツカの形態変異パターンと食性の関係に関する論文が出版されました。


Endo, C. and K. Watanabe 2020. Morphological variation associated with trophic niche expansion within a lake population of a benthic fish. PLoS ONE 15:e0232114. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0232114  [open access]


カマツカ(コイ科カマツカ亜科)は典型的な底生採食者で、下向きの大きい口で砂泥を吸い込みながら底生小動物を採食することが広く知られています。しかし、琵琶湖では、場所によって、口が小さく細く尖った個体が見られます。

本研究では、琵琶湖とその周辺河川でのこの形態変異パターンを詳細に調べ、さらに形態と食性の関連性を明らかにして、カマツカの繁栄に貢献した生態学的要因を考察しました。


まず、琵琶湖におけるカマツカの口部の形態は、地点によって、局所集団内の個体変異が大きいところ(広く大きい〜細く小さい)と小さいところ(広く大きい、または細く小さい)があり、変異の大きさに地理的変異がありました。

一般的な広く大きい口と、琵琶湖のいくつかの場所で特徴的な細く小さい口は、採食機構、つまり採食時の口部の伸長の向きや程度に影響する変異であることもわかりました(左図)。


形態変異の大きい場所(和邇浜)と小さい場所(尾上)を代表に、消化管内容物を調べたところ、局所集団間、集団内にわたって、口部の形状は食性に関係していることがわかりました。つまり、同じ地点にすむ個体の中でも、小さく細い口を持つ個体は、一般的なユスリカ幼虫に加えて、底や水中を動き回るヨコエビを多く利用する傾向が見られました。ヨコエビという場所によっては豊富な餌資源は、カマツカにとって琵琶湖ならでは新規の資源だったと考えられます。


マイクロサテライトDNA分析から、琵琶湖の内ではカマツカに集団分化は見られないことがわかったので、こういった形態変異の地理的異質性は、遺伝子流動がある状況下で生じている可能性が高いと考えられます。


こういった口部の機能と食性に関係する変異性が、遺伝的変異に基づくものか、表現型可塑性によるものかは、まだ明らかになっていません。

しかし、カマツカの琵琶湖集団において実現されている柔軟な表現型変異は、おそらく底質に関係した様々な餌資源環境下で本種が繁栄する重要なキーとなってきたのではないかと推察されます。

また、分岐を伴わず(固有種の分岐に至らず)、様々な程度で集団内に多様性を維持しながら不均質な新規環境に侵入・適応したグループと位置付けられると考えています。


数年前に湖北のエリの漁獲物を見て、あれっと気づいたカマツカの変異について、遠藤さんが深く掘り下げ、さらに新たな発見をし、綿密な形でまとめあげた論文として、カマツカの表現型変異と生態適応に関する、思い入れある第一弾となりました。


サンプル入手に関しては多くの皆さんにお世話になりましたが、特に琵琶湖の漁師さんたちに感謝!

2020/04/22 キバラヨシノボリの平行種分化と種分化率ー生態系サイズ関係に関する論文が出版されました

元院生の山﨑曜さんを中心する渾身の論文が出版されました。

Yamasaki YY, Takeshima H, Kano Y, Oseko N, Suzuki T, Nishida M, Watanabe K (2020) Ecosystem size predicts the probability of speciation in migratory freshwater fish. Mol Ecol https://doi.org/10.1111/mec.15415

淡水ハゼ類の中で最も種数が多い(既知種だけで約80種)ヨシノボリ属Rhinogobiusは、基本、"両側回遊性"で、川で孵化した仔魚がすぐに海に降り、少し育ってから川に戻ってきて、一生の大部分を河川で過ごします。

Yamasaki et al. (2015: Mol Phylogenet Evol: https://doi.org/10.1016/j.ympev.2015.04.012) は、日本産のヨシノボリ類の多様化には、生活史進化、つまり淡水種(河川性、止水性、湖沼性を含む)の繰り返しの進化がキーになっていることを示唆しました。

今回の論文では、琉球列島の河川性の"キバラヨシノボリ"の進化に焦点を当て、この実態に迫りました。

"キバラヨシノボリ"とされる琉球列島の7つの島に棲む完全淡水性種は、両側回遊性の広域分布種クロヨシノボリから進化したことが知られてきましたが、多数の島や河川から得られたサンプルに対してマイクロサテライト多数座の解析を行ったところ、まず、各島、各河川のキバラヨシノボリはクロヨシノボリと明瞭な遺伝的な隔離があることがわかりました(生殖隔離機構の存在を示唆)。

そして、7つの島に見られる"キバラヨシノボリ"は、5回、独立に進化したことが明らかになりました(平行的種分化)。この結論は、単なる系統類縁関係の推定に基づく解釈ではなく、途方もない数のパターンのABC(近似ベイズ計算)解析によるモデル選択の結果得られたものです。

さらにどの島で"キバラヨシノボリ"が進化しやすかったかを調べたところ、大きい島(島の面積、最大河川の長さや流域面積)で進化しやすいことがわかりました。

このことは、両側回遊性から河川性へという共通のシンプルな平行種分化において、生態系サイズに関係した生殖隔離の成立機構が存在したことを示唆しています。

私たちは、特に孵化子魚の生残率に関わる分岐自然選択、淡水性種の存続性、遺伝的隔離をもたらす物理機構の3つが生態系サイズが大きいほど強まることで、この生態系サイズと種分化確率の正の相関が説明できるのではないかと考えています。

これはとりもなおさず、種分化の機構が、環境と種多様性との関係(マクロ進化パターン)に反映されることを示唆しています。

1960年代に、当研究室の大先輩が、「多所的・同方向的種分化」という概念を、淡水性ヨシノボリ類やカジカ類の発見に合わせて提唱、議論しています(水野信彦. 1963. カジカとカワヨシノボリの分布とくに陸封と分化の特異性に関して.大阪学芸大学紀要 11: 129-161)。この研究は、その現代的な再訪ともいえ、今後の"キバラヨシノボリ"の分類学的な扱いはともあれ、種多様化のリアリティを垣間見ることができたのではないかと思います。

オープンアクセスではありませんが、遠慮なくPDFを請求ください。

京大のリポジトリにも最終原稿は登録予定です。

2020/01/28 コイ科2属の属名に関する論文出版

コイ科2属の属名リバイス論文が出ました.


Sakai H, Watanabe K, Goto A (2020) A revised generic taxonomy for Far East Asian minnow Rhynchocypris and dace Pseudaspius. Ichthyological Research

https://doi.org/10.1007/s10228-019-00726-5


これまで積み重ねられてきた分子系統と,文献情報に基づく形態情報,命名先取権などに基づき,ウグイ属はTribolodonからPseudaspiusに,アブラハヤ属は(ほぼ日本の文献でのみ使い続けられてきた)PhoxinusからRhynchocyprisに変更,定着させることを,識別形質情報とともに提示.

Pseudaspius Dybowski 1869は,Cyprinus leptocephalus Pallas 1776に対して立てられた属で,Tribolodon Sauvage 1883に先立つものです.

Pseudaspius leptocephalusが他のウグイ類と近縁なのは間違いないものの,種間の系統関係がなかなか決まりにくく,歴史的に種間交雑の影響を受けやすいmtDNAのみでは結論を出しにくい状況でした.しかし,核遺伝子も用いたSchönhuth et al. (2018: Mol Phylogenet Evol 127:781–799) を見る限り,やはりPseudaspiusは他のウグイ属の中に入り込み,全体としてPseudaspiusとするのが妥当と判断されました.

https://doi.org/10.1016/j.ympev.2018.06.026

東アジアのアブラハヤ類は明らかにPhoxinus phoxinusとは異なる系統に位置することが比較的古くから明らかにされており,多くの文献でRhynchocypris Günther 1889がすでに用いられています.

ただ日本の文献ではPhoxinus Rafinesque 1820が使われることも多く,混乱があるため,属の識別形質を提示することで,現時点での解決を図ったものです.

ただし,アブラハヤ属は属名の性が男性から女性に変わるため,種小名にも影響が出る種があります.

タカハヤ Phoxinus oxycephalus --> Rhynchocypris oxycephala

ヤチウグイ Phoxinus percnurus --> Rhynchocypris percnura

Rhynchocyprisが使われていながら,これまで「性」には無頓着であったようですが,この属がRhynchocypris variegata Günther 1889に基づき立てられたものであることから,ラテン語でもギリシャ語でもなく元々「性」をもたないこの属名は,種小名(variegata)の性によって,女性(Feminine)と見なされます.

そのため,その属に属する他の種の形容詞的な種小名は,文法上の性の一致によって,女性化させる必要があるそうです.

(これはアユモドキParabotia curtusが,Leptobotia属からParabotia属に移されるときに起こった現象と同じ(性は逆)です.つまりParabotia fasciatusで立てられたParabotiafasciatusという(男性名詞にかかる)形容詞の存在から「男性Masculine」であり,それまでCobitis, Leptobotiaと「女性」の属の下にあったcurtacurtusと自動変更されてしまいました.)

(このような言語学的なルールは,個人的には,混乱の起こりやすさやデータベースの観点から効率が悪く,悪しき慣習だと感じます.)

※学名,ラテン語に詳しい方で,もし私の理解に間違いがあると思われる方は,どうぞご教示ください.特に用語法など,吟味しておりません.

(2020/04/26:PhoxinusRhynchocyprisの命名者・年を加筆)

2020/01/18 日本産ヒナモロコの遺伝的撹乱に関する論文が出版されました

解説準備中

Watanabe, K., R. Tabata, J. Nakajima, M. Kobayakawa, M. Matsuda, K. Takaku, K. Hosoya, K. Ohara, M. Takagi, N.-H. Jang-Liaw. 2020. Large-scale hybridization of Japanese populations of Hinamoroko, Aphyocypris chinensis, with A. kikuchii introduced from Taiwan. Ichthyol. Res. 67: 361–374. Doi:10.1007/s10228-019-00730-9