ユダヤ教

ユダヤ教

愛のイエントル

1983年、アメリカ、監督:バーブラ・ストライサンド、舞台となる地域:ポーランド

20世紀初頭の東欧のユダヤ人コミュニティを舞台とするミュージカル映画。主人公の女性イエントルは、ラビの父の教えによりユダヤ神学の勉強に目覚め、当時は男性しか学ぶことを許されなかったイェシバ(神学校)に男装して入学する。原作はアイザック・B・シンガーの「イエントル」。

【映画の一部がプラハの歴史地区で撮影されている。】


或る夜の出来事

1934年、アメリカ、監督:フランク・キャプラ、舞台となる地域:アメリカ

ボーイフレンドとの結婚を父親に反対されていた大富豪の令嬢エリーは、軟禁されていた船から脱出しマイアミからニューヨークへ向かう夜行バスに乗り込む。彼女はバスで偶然隣り合わせた新聞記者のピーターと、最初は反目しあうも次第にお互い惹かれていく。途中、バスが大雨で立ち往生してしまったため、二人は新婚夫婦と偽ってキャンプ場の一室に泊まるはめになるが、その夜、ピーターはお互いに干渉しないよう部屋の真ん中にロープを渡して毛布をかけ、これを「エリコの壁」と呼ぶ。エリコの壁とは、ユダヤ教の正典であるヘブライ語聖書(旧約聖書)に出てくる城塞都市エリコが、モーセの後継者であるヨシュアが率いるイスラエル人に対して固く門を閉ざした故事に由来し、「絶対に崩れないもの」の喩えで使われる。しかし、エリコの壁が最終的には角笛の音によって崩れ落ちたように、ピーターとエリーの気持ちが通じ合ったとき、二人の間のエリコの壁も崩れ去るのである。エリコの壁は二人の関係を象徴する言葉として、この映画ではたびたび口にされるモチーフとなっている。


イーダ

2013年、ポーランド/デンマーク、監督:パベウ・パブリコフスキ、舞台となる地域:ポーランド

第二次世界大戦中に孤児となり、修道院で育てられた18歳のアンナは、初請願を前に叔母に会うため初めて外の世界に出る。叔母は、アンナが本当はユダヤ人でイーダという名前であると告げ、両親の墓に参りたいと言うアンナに「戦争で死んだユダヤ人には墓もない」と言い放つ。イーダの両親が住んでいた村を訪ねる旅に出た2人は、ポーランドのユダヤ人が辿った運命、そして「戦争」が自らに残した深い傷と向き合う。中世以来、住民の1割がユダヤ人であったポーランドの地で、人々が経験した戦争体験とは被害と加害、善行と悪行といった二分法では到底割り切れないものであった。 監督のパヴリコフスキもポーランド生まれのユダヤ人だが、14歳で母国を離れ、ポーランドでの撮影はこれが初めて。


イブラヒムおじさんとコーランの花たち

2003年、フランス、監督:フランソワ・デュペイロン、舞台となる地域:フランストルコ、他に関連している宗教文化:イスラム

パリの下町で暮らす13歳のユダヤ人少年とトルコ系ムスリム移民の老人、宗教が違う2人が交流を深めていく物語。少年の両親が交通事故で亡くなった後、老人が少年を引き取り、2人でトルコに向かう。フランスでの反ユダヤ主義・イスラムフォビア(ムスリム嫌い)が反映している一方で、トルコでのムスリムの様々な信仰生活が描かれている。


エクソダス神と王

2014年、アメリカ、監督:リドリー・スコット、舞台となる地域:エジプト

旧約聖書(ヘブライ語聖書)の「出エジプト記」に記されたモーゼの生涯をベースにし、最新のVFX技術を駆使して作成されたアドベンチャー作品。エジプト王家で養子として育てられたモーゼと兄弟同然に育てられたエジプト王ラムセスとの確執を物語の軸に据え、勇ましい闘将としてモーゼを描くなど、「出エジプト記」を題材にし独自の視点で構成されている。


杉原千畝 スギハラチウネ

2015年、日本、監督:チェリン・グラック、舞台となる地域:リトアニア

第二次世界大戦時、リトアニアの日本領事館でナチスに迫害されたユダヤ難民たちに数千のビザを発給して、彼らを助けたことで知られる杉原千畝の半生を描く。諜報外交官として活動していた杉原は、ソ連から入国を拒否され、在モスクワ大使館への赴任を断念せざるを得なかった。そこで任命されたのがリトアニアの日本領事館である。その後、第二次世界大戦が勃発し、ナチスに追われてドイツやポーランドからユダヤ難民がリトアニアへ逃れてきた。杉原は、日本政府の命に背いてユダヤ難民たちに日本通過のビザを発行し、彼らの命を救った。


自由と壁とヒップホップ

2008年、パレスチナ/アメリカ、監督:ジャッキー・リーム・サッローム、舞台となる地域:パレスチナ

パレスチナ人のあいだにヒップホップが広がる様子を追った長編ドキュメンタリー映画。制作はパレスチナ人の母とシリア人の父をもち米国で生まれた女性監督ジャッキー・リーム・サッローム。映画でとりあげられるパレスチナ人のラップグループ「DAM(永遠)」は、2000年の第2次インティファーダ(パレスチナ民衆蜂起)を契機に、パレスチナ問題をテーマにしたラップ「誰がテロリストか?」を発表。未婚の女性が男性と噂になるだけで親族から制裁を受ける「名誉殺人」など、アラブ社会の因習を批判する作品もを発表している。


しあわせ色のルビー

1998年、アメリカ、監督:ボアズ・イェーキン、舞台となる地域:アメリカ

主人公は、宗教上の習慣や戒律を強く守っているアメリカのユダヤ人社会で生まれ育った女性である。閉鎖的な社会の中での彼女のストレスは、義兄との不倫という形であらわれる。また、次第に宝石商としての才能を開花させていく。しかし、そうした彼女の活躍は周囲のユダヤ人たちの反感を買い、ユダヤ人社会から締め出されてしまうこととなる。正統派ユダヤ教の生活がわかりやすく描かれている点でも興味深い作品である。


ソハの地下水道

2011年、ドイツ/ポーランド、監督:アニエスカ・ホランド、舞台となる地域:ポーランド

2011 年の米アカデミー外国語映画賞にノミネートされたドイツ・ポーランドの合作映画。主人公のソハは貧しい下水修理工で、生活のため盗みにも手を染めている。ある日、ナチスによる迫害を逃れ、下水道に隠れようとするユダヤ人に遭遇したソハは、彼らを下水道に住まわせ、食物などを運ぶ代わりに、法外な報酬を受け取る契約を結ぶ。映画では、心弱き「罪びと」であったソハが、やがて命を賭してユダヤ人を守るようになる過程に焦点が当てられる。下水道の暗闇の中に描き出されるユダヤ教の伝統や宗教儀礼なども見所。同映画の監督ホランド氏は父親がユダヤ人で、父方の祖父母はワルシャワ・ゲットーで亡くなった。


撤退

2008年、イスラエル/イタリア/フランス/ドイツ、監督:アモス・ギタイ、舞台となる地域:イスラエルフランス

タイトルの「撤退」は、2005年にガザ地区からイスラエルが撤退したことを示すものである。その際、すでにガザ地区に入植していたユダヤ人たちもその地を離れなければならなくなった。物語は、イスラエル人の青年ウリが、養父の葬儀でフランスに出掛け、そこで養父の実の娘(ウリの姉にあたる)アナに出会うところから始まる。アナには昔手放した娘がおり、その娘がガザ地区にいることを弁護士から教えられる。弟のウリはガザ地区の警備(ガザ地区からの撤退に反対するユダヤ人を排除)にあたることになっており、アナも彼とともにガザ地区に向かう。そこで彼女は、強固に撤退に反対するユダヤ人の現状を目の当たりにする。


ノア 約束の舟

2014年、アメリカ、監督:ダーレン・アロノフスキー

旧約聖書「創世記」の第6章から8章にかけて記されるノアの箱舟の話を実写化したもの。大洪水が来ることを知らされたノア一家が船を造って生き残るという話の大枠は聖書に寄りながらも、独自のストーリーが盛り込まれている。たとえば、ノアとドバルカイン率いる集団との戦いの場面があるが、ドバルカインについては、創世記の4章で「彼は青銅や鉄のすべての刃物を鍛える者となった」という記述があるのみで、ノアとの争いという劇中の物語は聖書の記述とは無関係である。


ハッピーエンドの選び方

2014年、イスラエル、監督:シャロン・マイモン タル・グラニット、舞台となる地域:イスラエル

エルサレムの老人ホームを舞台に、「安楽死装置」をめぐる死の選択の様を描く。主人公のヨヘスケルは妻のレヴァーナとともに老人ホームに暮らす。発明好きのヨヘスケルは、ある日、望まない延命治療に苦しむ友人マックスの頼みで、患者本人がスイッチを押すことのできる安楽死装置を発明する。安楽死は殺人だとして実行に反対するレヴァーナに対して、安楽死を尊厳死として肯定するヨヘスケルはその計画を秘密裏に実行に移す。これを聞きつけた人々から装置を貸してほしいという依頼が殺到するなか、レヴァーナは認知症の進行を機に安楽死を望むようになる。当事者として安楽死に関わることになったヨヘスケルは、悩み葛藤する。老い、病、死といった普遍的テーマのなかでも、安楽死の認められていないユダヤ教社会における尊厳死の問題を取りあげ、現代社会に切り込んだ作品となっている。


炎のランナー

1981年、イギリス、監督:ヒュー・ハドソン、舞台となる地域:イギリス

1924年のパリ・オリンピックの陸上競技で勝利をおさめた二人の英国人の物語。一人はユダヤ人のハロルドで、英国内での差別に打ち勝つために走ることを選ぶ。もう一人は熱心なキリスト教徒のエリックで、走ることが神の恩寵を讃えることと考えている。エリックはオリンピックの予選が安息日である日曜日と知って出場を辞退するが、国家への忠誠心とキリスト教信仰のあいだで揺れ動く彼の葛藤が描かれる。


ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習

2006年、アメリカ、監督:ラリー・チャールズ、舞台となる地域:カザフスタン、アメリカイギリス

カザフスタンのテレビレポーターが、アメリカで繰り広げる珍道中をドキュメンタリー風に描いた作品。マイノリティに対する差別ネタや下品なジョークが続き、評価が分かれる映画である。特にユダヤ人に対する過激なジョークが繰り広げられる。反ユダヤ主義的発言は許されないという風潮を風刺したものであるともいえるが、米国のユダヤ系団体からは差別的であるとして憂慮の声明が出された。


屋根の上のバイオリン弾き

1971年、アメリカ、監督:ノーマン・ジュイソン、舞台となる地域:ロシア

ロシア帝国ウクライナの村でユダヤ教という「伝統」に従って生きるテヴィエ一家を描いたミュージカル映画。ロシア人によるユダヤ人差別・迫害のなかで暮らす一家の絆と新たな旅立ちが物語られる。19世紀末にユダヤ人の置かれていた状況や当時のユダヤ教徒の生活を学ぶことができる。