イスラーム

イスラーム

愛より強い旅

2004年、フランス、監督:トニー・ガトリフ、舞台となる地域:フランススペイン、モロッコ、アルジェリア

自分たちのルーツをたどるために、フランス旧植民地であるアルジェリアまで旅をするフランス人青年男女が描かれている。彼らは宗教には無関心であったが、道中で敬虔なムスリムに出会ったり、アルジェリアで宗教儀式に参加したりし、心境が変化していく。


アフガン零年 OSAMA

2003年、アフガニスタン/日本/アイルランド、監督:セッディーグ・バルマク、舞台となる地域:アフガニスタン

アフガニスタンで暮らすイスラム教徒の少女マリナは戦争で父を失い働かなければ日々の暮らしもできない。男のふりをして働くも、タリバーンに見つかり、想像もできないほどの重罰を受けることになった。本作ではタリバーン政権が批判的に描かれている。


アラビアのロレンス

1962年、イギリス、監督:サー・デヴィッド・リー、舞台となる地域:アラビア半島、イギリス

実在したイギリス陸軍将校ロレンスを主人公とした、オスマン帝国からのアラブ独立闘争を描いた歴史映画。ロレンスはムハンマド直系(シャリーフ)の一家の王子らアラブ人とともに戦いオスマン帝国から自由を勝ち取るが、その後汎アラブ主義を掲げるアラブ人と袂を分かつことになる。


アルゴ

2012年、アメリカ、監督:ベン・アフレック、舞台となる地域:イラン

1979年11月に起こったイランのアメリカ大使館占領事件を題材にとった作品。カナダ大使館に逃げ込んだアメリカ人大使館員を救出するために、主人公のCIA職員は大使館員たちが「アルゴ」という映画の撮影隊であると欺き、彼らを出国させようと試みる。実際に起こったこの占領事件は、同年2月のイラン・イスラーム革命を背景としている。革命により失脚したイランの元国王は、アメリカに移住していた。元国王の引き渡しを求めるイラン側に対して、アメリカがこれに応じなかったため、一部の国民の怒りをかい大使館占拠へと発展したというのがその経緯であり、作品冒頭ではそうした政治・宗教的背景が短く紹介されている。


桜桃の味

1997年、イラン、監督:アッバス・キアロスタミ、舞台となる地域:イラン

イランの首都テヘランで自殺を希望する男が主人公の話。男は自殺を手助けしてくれる人物を探していた。手助けの内容は、男が自分で掘った穴に入り、首尾よく死んでいたら、土をかけて穴を埋めてほしいというもの。しかし、誰も引き受けてくれない状態が続くのであった。イランはイスラム教シーア派を国教としているが、本作ではその教えから離れた宗教観も垣間見える。


おじいちゃんの里帰り

2011年、ドイツ、監督:ヤセミン・サムデレリ、舞台となる地域:ドイツトルコ

1960年代にドイツに移り住んだトルコ人移民一世のフセインは、50年間ドイツで働き、多くの孫たちにもめぐまれた。ある日、フセインはトルコに土地を買ったので、家族みんなでトルコに戻ることを提案する。ドイツの生活しかしらない子供や孫たちは反対するが、フセインの故郷への思いに押し切られ、トルコ行きを決意する。トルコ系ドイツ人二世である監督が実体験を基に作成しており、移民と宗教の問題も端々でうかがえる。


カンダハール

2001年、イラン/フランス、監督:モフセン・マフマルバフ、舞台となる地域:イランアフガニスタン

9.11前に作られたため、それ以前のアフガニスタンの情景を意図せずして映し出している作品。作品中には、アフガニスタンにおけるイスラム教徒の生活や習慣が垣間見える。主人公でアフガン人ジャーナリストであるナファスはカナダで生活をしている。アフガニスタンのカンダハールに住む妹から自殺するとの手紙が来て、急いでアフガニスタンに向かう。タリバーン政権下では、女性の一人旅は困難をきわめる。ナファスは色々な人に助けてもらいながらカンダハールに向かうのであった。


奇跡の教室―受け継ぐ者たちへ―

2014年、フランス、監督:マリー=カスティーユ・マンシヨン=シャール、舞台となる地域:フランス・パリ、アウシュビッツ

様々な人種の生徒が通うパリ郊外の高校のクラスを舞台に、ベテラン熱血教師が「問題児」の集まるクラスを導いていく物語。教師アンヌは、ナチスの強制収容所での凄惨な出来事をテーマに、クラスで研究コンクールへ参加することを提案する。コンクールを通して民族や宗教について真剣に考え、変わっていく教室と生徒たちが描かれていく。作品は実話に基づいており、実際に生徒の一人であったイスラム教徒の青年の提案により制作された。移民が多く住むと言われるフランス郊外の学校の様子を通じて、現在のヨーロッパで生きるイスラム教徒の日常生活も描き出されている。


君のためなら千回でも

2000年、アメリカ、監督:マーク・フォースター、舞台となる地域:アフガニスタンアメリカ

1979年のソ連によるアフガニスタン侵攻前のアフガニスタンを舞台に物語は始まる。主要人物となる2人の少年は、一人がパシュトゥーン人(スンナ派)のアミール、一人がハザラ人(シーア派)のハッサン。2人は仲が良かったが、ある時ハッサンが性的暴行を受けそれをアミールが見て見ぬふりをした。アミールはハッサンを避けるようになり、お互い離散したまま時が経つ。大人になりアメリカで生活をしていたアミールは、ある電話をきっかけにハッサンを探しにアフガニスタンに向かう。そこにはタリバーン政権による残虐な統治があった。イスラム教の理念と現実、民族間の対立の過酷さなどが詰まった作品である。


禁じられた歌声

2014年、フランス/モーリタニア、監督:アブデラマン・シサコ、舞台となる地域:マリ共和国

西アフリカのマリ共和国の古都トンブクトゥが舞台。トンブクトゥには土づくりのモスクや聖廟があり世界遺産にも登録されている。この街は、2012年にイスラム過激派に占領されており、物語はこの過激派の支配下で暮らすことになった人々の生活を焦点としている。中心になるのは、郊外で幸せに暮らしていた音楽好きのギダンと妻のサティマ、娘のトヤと12歳の羊飼いの少年イサン。過激派の占領を機に、彼らの生活は音楽もサッカーも禁止された不自由なものへと変貌していく。


子供の情景 

2007年、イラン/フランス、監督:ハナ・マフマルバフ、舞台となる地域:アフガニスタン

監督の父親であるモフセン・マフマルバフ氏の著書『アフガニスタンの仏像は破壊されたのではない恥辱のあまり崩れ落ちたのだ』(現代企画室、2001年)に着想を得た作品。石仏が破壊された後のバーミヤン渓谷を舞台とし、1000以上あると言われる石窟洞に住みついた人々の暮らしを5歳の少女の視線で描く。学校に通うことに憧れる少女の一途な行動を、「タリバンごっこ」に興じる少年たちが阻もうとする。子供の情景の中にアフガニスタンの現実を投影した作品。


最高の花婿

2014年、フランス、監督:フィリップ・ドゥ・ショーヴロン、舞台となる地域:フランス

フランス人のヴェルヌイユ夫妻には4人の娘がいる。夫妻は保守的なカトリック信者であり、娘たちには教会で結婚式を挙げてほしいと願っているが、長女、次女、三女が結婚したのはアラブ人、ユダヤ人、中国人で、カトリックではないため、結婚式は市役所であげざるを得なかった。その後も宗教や食文化、歴史認識など、異文化への気遣いや婿同士のいさかいで疲れ果てる夫妻のもとに、いよいよ四女がカトリックの恋人を連れてくるが……。国際結婚を題材に、宗教間の違いや文化の違い、人種差別といった問題に、ユーモアを交えながら切り込んだ本作には、ユダヤ教の割礼式や、意気投合した婿たちが協力してハラール・ビジネスを立ち上げる場面などもあり、諸宗教や宗教文化の理解の手助けにもなる。


ザ・メッセージ

1977年、アメリカ、監督:ムスタファ・アッカド、舞台となる地域:中東周辺エチオピア

メッカの商人ムハンマドが、神の啓示を受けてイスラームを布教を開始し、メッカの民を心服させていく過程を描く。イスラームは偶像崇拝を禁止しているために、ムハンマドを主人公にした映像作品を作成することには困難が伴う。それゆえ、本作では、「預言者の具現化は、彼のメッセージの精神性を損なうと考えるイスラームの伝統を尊重する」との立場から、画面にムハンマドを登場させることなく、カメラアングルや他の人の台詞、目線によってその存在を示すという手法をとっている。


10話

2002年、フランス/イラン、監督:アッバス・キアロスタミ、舞台となる地域:イラン

イランの首都テヘランで、自ら車を運転し、離婚も経験している活発な写真家の女性を主人公に、10の物語が展開される。黒いチャードルで全身を覆い、イスラームの戒律を厳格に守っているという海外からのイラン人女性のイメージを打ち壊すような「自立した」テヘランの女性たちの姿が描かれている。


少女は自転車に乗って

2012年、サウジアラビア、監督:ハイファ・アル=マンスール、舞台となる地域:サウジアラビア

サウジアラビア初の長編映画にして、初の女性監督作品。映画は、リヤドに住む10歳のおてんば少女ワジダの物語。男の子のように自転車に乗りたいワジダだが、母親に大反対される。そこで、賞金目当てに学校のコーラン暗唱コンテストに挑むことにする。夫の多妻婚に何も言えない母親、厳格な校長など、女性の生きる現実に、少女の挑戦という希望を寄せる。 監督は、少女時代(1980~90年代)には娯楽が規制され、「音楽を聴くと魂が腐敗する」と教えられて育ったという。作品は国際映画祭で評価され、映画館のないサウジ国内でも上映会の機会を得た。


シリアの花嫁

2004年、イスラエル/フランス/ドイツ、監督: エラン・リクリス 、舞台となる地域:シリア、イスラエル

ドルーズ派というイスラームの一派を信奉する一家の娘が結婚することになる。彼女が住んでいるのは、第三次中東戦争(1967年)以来イスラエルに占拠されている元シリア領のゴラン高原であったが、花婿は軍事境界線の向こうのシリア側に住んでいた。彼らが結婚をする為には、越えてしまったら二度と戻ることのできないその境界線を越えなければならない。中東の政治情勢に翻弄される一組のカップルとその家族の困難を描く。


11'9"01/セプテンバー11

2002年、フランス、監督:(11ヵ国を代表する11人の監督)、舞台となる地域:アメリカイギリス日本中東周辺

2001年9月11日の同時多発テロをテーマに、11人の著名な映画監督の「11分9秒」の作品をつなげたオムニバス映画。米国、英国、日本、ボスニア・ヘルツェゴヴィナ、メキシコ、フランス、イスラエル、イラン、インド、エジプト、ブルキナファソというそれぞれの国の監督が、独自の視点から9.11を描く。9.11直後、多くのメディアでは米国政府の主張が大きく取り上げられたが、世界中ではそれとは異なる多様な解釈、反応、思いが存在していたことがわかる。


ハーフェズ ペルシャの詩

2007年、イラン/日本、監督:アボルファズル・ジャリリ、舞台となる地域:イランアフガニスタン

ハーフェズ(クルアーン暗唱者)の試験に合格した青年のもとに、チベットから来た大師の娘の家庭教師の依頼がくる。やがて二人は許されぬ恋におちるが、大師にすぐに知られて引き離されてしまう。ハーフェズとは、14世紀のペルシャ古典文学最大の詩人の名でもある。彼の詩をなぞりながら、イスラーム的な戒律が支配する社会における男女の愛を描いたイラン映画である。


パレスチナ1948・NAKBA

2008年、日本、監督:広河隆一、舞台となる地域:パレスチナ

タイトルにある1948は、イスラエルが建国を宣言した年であり、NAKBA(大惨事)とは、イスラエルの建国により土地を奪われたアラブ人たちの状況のことを指している。監督自らが40年にわたって現地で撮影した写真と映像を編集した作品であり、アラブ人、ユダヤ人双方に向けられた多くのインタビューが盛り込まれている。パレスチナ問題を考える上で、非常に重要なドキュメンタリー映画である。


ペルセポリス

2007年、フランス、監督:マルジャン・サトラピ、舞台となる地域:イランオーストリア

1979年のイラン・イスラーム革命、そして翌年にはじまったイラン・イラク戦争の只中を生きたイラン人女性マルジ(原作者自身をモデルとしている)の体験を描いたアニメ映画。イランで暮らすマルジが9歳の時革命がおこり、彼女は急速に自由が失われていくのを実感する。戦争がはじまり、戒律遵守が厳しく迫られるようになっていく中で、マルジの将来を案じた両親は彼女をウィーンに留学させる。革命後のイランの様子と、そこに生きる人々の姿を垣間見ることが出来る。


ぼくの国、パパの国

1999年、イギリス/パキスタン、監督: ダミアン・オドネル、舞台となる地域:イギリスパキスタン

イギリスのマンチェスター近郊の町に暮らすジョージは、イギリス人の妻をもつパキスタン系移民である。イギリスで生まれ育った彼の息子たちは、パキスタンの伝統を押しつけ、さらに勝手に縁談の話をまとめようとする父に強く反発する。母国パキスタンの伝統(イスラーム的なものもその一部)を守ろうとするジョージと息子たちとの対立、またジョージとイギリス人の妻との対立という家族の物語をコミカルに描きながら、イギリスの移民社会の現状や移民と同化の問題についても考えさせられる映画である。


炎のアンダルシア

1997年、エジプト/フランス、監督:ユーセフ・シャヒーン、舞台となる地域:フランススペインエジプト

12世紀、イスラーム支配下のアンダルシアを舞台として、思想の自由を求めて闘った人々の物語。哲学者アベロエスの弟子となった主人公のもとに、聖典の重視、哲学批判、歌舞音曲の忌避を掲げる「セクト」による弾圧と洗脳の危機が迫る。彼は師の思想を守り抜くことが出来るのか。歌と踊りを交えたエジプト映画のもつ娯楽性を取り入れながら物語は展開していく。


マールムーラク(蜥蜴)

2004年、イラン、監督: キャマール・タブリーズィー 、舞台となる地域:イラン

イスラームの中でもシーア派が多数を占めるイランを舞台とした映画。主人公は脱獄に成功した逃走中の囚人であるが、ひょんなことからモスクの神学者と勘違いされてしまう。次第に彼の自由な説教が評判となっていき、終いには彼の脱獄した刑務所で講話を行うことになってしまう。シーア派の人々の生活と信仰をうかがうことができる作品である。


マイネーム・イズ・ハーン

2010年、インド、監督:カラン・ジョーハル、舞台となる地域:インドアメリカ

アスペルガー症候群のハーンを主人公にしたインド映画。彼は弟を頼ってアメリカに渡り、そこで知り合ったヒンドゥー教徒の女性と恋に落ちて結婚する。幸せな日々を送っていたが、「9・11」が起こりアメリカ社会はムスリムに対して非常に厳しい眼差しを向けるようになる。ハーンはムスリムの名字であるために、彼と彼の家族にも差別の目が向けられるようになる。ユーモアを交えながらも、宗教や民族の違いがもたらす差別という深い問題を扱っている。

マルコムX

1992年、アメリカ、監督:スパイク・リー、舞台となる地域:アメリカ

アフリカ系アメリカ人の解放運動家として、キング牧師と対比的に語られることの多いマルコムX。その生涯を自伝をもとに映像化したもの。悪事に手を染めていた彼は、刑務所の中でネーション・オブ・イスラムという教団に出会いイスラームに改宗する。戦闘的な主張によって知られたが、ネーション・オブ・イスラムを離れ、その後メッカ巡礼をおこなうことによってムスリムとしてのアイデンティティを再確認し、他の人種や民族とのより融和的な主張を行うようになっていく。

ミュンヘン

2005年、アメリカ、監督:スティーヴン・スピルバーグ、舞台となる地域:イスラエルパレスチナドイツヨルダン

1972年、西ドイツ・ミュンヘンで開催されていたオリンピックの選手村がパレスチナ人ゲリラに占領され、11名のイスラエル人選手の命が奪われた。イスラエル側はこれに報復する形で、パレスチナ人ゲリラの指導者たち11人を暗殺する計画を実行する。主人公はこの暗殺実行グループのメンバーであり、彼の苦悩と恐怖を描くことで、この一連の事件の意味を問いかける。


ユナイテッド93

2006年、アメリカ、監督:ポール・グリーングラス、舞台となる地域:アメリカ

「9・11」でニューヨークのツインタワーに2機の飛行機が激突した後、ユナイテッド機93便が乗っ取られピッツバーグ郊外に墜落した。同機内では、乗客が犯人に立ち向かい、飛行機が標的にぶつかることを防いだといわれる。残された資料や証言をもとに、機内の様子を描いたのが本作である。「9・11」以降、事件に関する映像作品が多数作成されているが、そこでの宗教の描かれ方については批判的に検証していく必要があるだろう。