第4話:附帯意見作戦も失敗

第4話

附帯意見決議作戦も失敗

これまでの意見提出不採択の失敗に懲りて

議案に対する附帯意見決議を提案する作戦

それもあえなく独り相撲で敗退

そのかわりに審議会運営にあれこれ提案

1.「意見を聴く」と「議を経る」の違い

横浜市の都市計画審議会の公募市民委員になって3回目の審議会が、2009年7月3日に開催された。この前が1月19日だったからほぼ半年振りである。

議題は、横浜市景観計画について景観法第9条第2項の定めによって都市計画審議会の意見を聴く案件が2つと、廃棄物処理施設の新設増設に関して建築基準法51条の定めによって都計審の議を経る案件が3つ(事実上は2ヶ所)だった。

どの議案の関係地区もこの目で見てきた。

景観計画は内容について、私は特に言うべきことはなかったが、「都市計画審議会の意見を聴く」の法文の意味にひっかかったこれはこのあとの議事の建築基準法51条にある「都計審の議を経る」とどう違うのだろうか。

委員からいくつかの意見があり、会長は「ではこの景観計画はご異議なしとしてよろしいか」と議決に入ろうとしたので、急遽わたしは発言を求めた。

委員の意見は景観計画にどう反映されるのか、景観計画を承認するという議決だけが審議会の意見なのか、意見を聴くだけなら議決は不要かもしれない、と疑問を呈した。

事務局、会長、発言者の間でいろいろとやりとりがあっって、異議なしと議決したのだが、実はわたしの疑問はどうなったのか分からないままである。結論がどうなったのか頭が理解できないのである。もしかして耄碌したか。

廃棄物処理施設の案件の2ヶ所のうちの1ヶ所は、現地を見てきて問題があった。

工業地域の中に現に廃棄物処理施設に設備を増設して新機能もつくので、建築基準法の定めでは新設となるので都市計画審議会の議を経て設置許可しなければならないのである。

わたしが現地を2回も訪ねて見てまわったところ、施設そのものは議案にあるように騒音や臭気の面で問題ないとしても、その施設の周辺との関係に都市計画上の問題がある と判断したのである。

そこで、審議会当日にこの件を訴えることにして、次のように提案したので、その発言原稿を載せる。

2.第855号及び第856号議案について

(市民委員・伊達美徳発言全文)

本議案につき、提案があります。

建築基準法第51条に基づいて当都市計画審議会に付議された本議案については、議決にあたって次のような附帯決議をして原案通りに可決することを提案いたします。

まず、附帯決議案を申上げます。

「第855号及び第856号議案の施設の敷地を含む磯子区新磯子町1番、6番、10番の街区について、その現在の都市計画用途地域指定を工業地域から工業専用地域に早期に指定変更すること、もしくはそれにかわる住居系用途の土地利用を禁止する都市計画による措置を早期に講じること」

ここまでが附帯決議案の文面です。

次に、その理由を申上げます。

当該議事資料の3ページ右上の図(次ページ上)をご覧下さい。

第855号及び第856号議案の施設の存する敷地は、磯子区新磯子町10番の街区にあり、この街区はその北西部に位置する同6番、同1番、更に国道357号の北西のJR根岸線に挟まれる同29番は、都市計画用途地域指定は工業地域となっています。

この国道357号から南東部の新磯子町1番、6番、10番の区域の周囲は工業専用地域指定となっています。

すなわち、この3街区が工業専用地域内に楔状に入り込んだ形状となっています。

委員のみなさまも現地をご覧になってご存知のことでしょうが、都市計画の立場から、現状土地利用の問題点を申上げます。

この3街区内の土地利用を現地で詳しく見てまいりましたところ、民間の小規模な廃棄物処理施設がいくつもあって、それらを合わせて騒音と臭気が現実に発生しているし、議案の施設の隣では道路上で廃棄物の分別をしている状況です。

このような集団的な処理施設エリアを見ると、個別に51条許可がよいのか、都市計画的には制度自体が気になるところですが、その件はさておきます。

そのような現況土地利用の中で、1件を除いて全てが工業専用地域に存するが適切なる用途でした。その1件は、当該議案施設の敷地から85m北西の6番地街区内にある5階建ての共同住宅です。もちろん工業地域内に共同住宅を建てることはできます。

この共同住宅は、横浜市資源循環局職員宿舎です。郵便受や洗濯物など見ると、ほとんどの居住者はいないようでした。

この共同住宅は資源循環局の塵芥運搬事業所の付属施設ですから、もしもこの地域が工業専用地域指定であっても、建築基準法第48条12項ただし書き許可相当施設でしょう。

ところで、国道357号の北西の、JR根岸線との間の同29番の工業地域指定の街区内には、最近になって建設販売されたと見られる高層の新築共同住宅が既に建っています。

この共同住宅の敷地は南と東を工業専用地域に、そして高速道路と鉄道に接する環境にあります。

このままの用途地域指定であると、大小の民有地のある357号の南東の同1番、6番及び10番のエリアにも、今後は共同住宅が建つかもしれません。工業地域指定のままではありうることです。

しかしそれは、居住環境としても産業環境としても決して適切でなく、両面から著しく問題を引き起こすおそれがあります。それをあらかじめ予防するのが都市計画であります。

本議案のように廃棄物処理施設が集積して立地するこのエリアを、工業専用地域に指定変更する等の住居系用途の土地利用を禁止する都市計画的措置を講じることは、現況土地利用からも、周辺エリアとの整合性のうえでも適切であり、この地域のあるべき都市計画の姿と考えます。

よって、本議案の議決にあたっては、原案のとおりに可決するには、「第855号及び第856号議案の施設の敷地を含む磯子区新磯子町1番、6番 及び10番の地域について、その現在の都市計画用途地域指定を工業地域から工業専用地域に早期に指定変更すること、もしくはそれにかわる住居系用途の土地利用を禁止する都市計画による措置を早期に講じること」を附帯決議とすることを提案いたします。

審議会会長におかれましては、この提案を審議会の皆様においてご審議いただきたくように、よろしくお取り計らいをお願いいたします。以上です。

3.今度も通らなかった

この提案を巡って審議が長く続いたが、結局のところ、わたしの附帯決議提案は、わたしだけが賛成で否決され、附帯決議なしで原案通りに可決された。否決の趣旨は、提案の趣旨は分かるがそこまで用途制限するのは地権者等に酷だから必要ない、ということに尽きる。

都市計画の土地利用に関するスタンスの違いだからしかたがないが、わたしは釈然としないままである。地区計画とか特別用途地区を使えば、現況の住宅は但し書きで存続可能なので問題は生じないはずであるし、そのほうが産業立地にとってもよいはずと主張したが、賛意を得られなかった。

実は、これまで出席した2回の審議会において、いくつかの議題について問題点を指摘して修正等を提案したのだが、それらはいずれも単なる意見とみなされて、提案内容を議事として議決にまで持ち込むことができなかった。

そこで今回は作戦を変えて、附帯決議案として提出したのが功を奏して、議決まで持っていくことができたのが、私にとってはわずかながらの進歩であった。

4.審議会運営に関してのお願い

これまでに2回の審議会に出席したのだが、運営についてどうも腑に落ちないことがいくつかあるので、今回まとめて運営方法改善のお願い発言をした。

その全文を以下に書くが、これは原稿であり、実際には時間の関係等ではしょったので、この通りに発言できなかった。

======(発言)===

審議会の運営に関して、提案がございます。

実は、前回も申上げましたこともいくつかありますが、はなはだ残念ながら今回の開催に際してお聞きいれくださらなかったので、あらためて おねがいをいたします。4つございます。

(1)審議会の開催日時を平日夕方もしくは休日とすること

一般市民に開かれた審議とするべく、その傍聴しやすい日程として、これまでのような平日の昼間に開催するのではなく、今後は、平日ならば夕刻から、あるいは休日の昼間に開催すること。

(2)審議会開催日時に関して事前に日程調整を行なうこと

審議開会開催日時について、これまでは審議会の開催日を会長が一方的に定めて委員に通知し、しかも事前に出欠確認もしない状況である。

しかし、委員の審議会への出席率を高めるため、今後は事前に各委員に日程調整をした上で、大多数の出席可能な日時に定めること。

(3)委員への議案書送付を2週間以上前に行なうこと

審議会議案書の審議会委員への事前送付日が、現在は開催日を含めて7日前となっている。

したがって、議案について事前調査する期間は事実上は5日間のみであり、委員としてはこの期間内に議題に関わる現地をすべて視察し、状況によっては決定権者事務局に内容の問合せをすることは、時間的にかなり困難を伴う状況である。

そのために現地を視察しないで都市計画の審議を行なっては事実誤認まねくおそれがあることから、今後は2週間以上前に送付して事前調査期間を確保すること。

(4)審議会に書面議決手続きを定めること

できるだけ多くの審議会委員の参加により審議会を行なうべきと考えるので、やむをえず審議会に欠席する委員は、あらかじめ提出する議案ごとに意見、賛否を記した書面を会長宛に提出することによって、議事、表決に加わることができるようにすること。

以上4つは、今日まで3回の審議会開催に関わった新米市民委員のわたくしが、実際に審議会に対応する上で当面した問題からのお願いでございますので、よろしくご審議をお願いいたします。

=======(発言終り)

これらのうちの(1)と(2)については、お願いは拒否された。

その理由は、決定権者の事務局である都市計画課長の発言によれば、(1)については、休日や夕刻開催は職員の残業代がかかること、大勢の傍聴者が来ると会場設営が困ること、議事録を公開しているので必ずしも傍聴の要はないこと、これまでそのような要請がなかったこと、であった。

これについて、私のほかの委員はご了承された。

都市計画の説明会と公聴会は夜の7時からやっているのに、こちらはなぜできないのかわたしは納得していない。副会長からは、委員を夜や休日によぶとは人権無視であると、妙な怒られかたをしたが…。

なお、今回の委員出欠状況は、学識委員は出席7名、欠席5名、市議委員は全員出席、市民委員は出席2名、欠席1名であった。

市民委員のうちの公募でない自治会町内会長枠のお方は、任命以来一度も出席していない。

(2)については、議会日程、会長日程、開催回数から日程はピンポイントに限られるので、調整は不可能とのことであった。そういうものなのかしら。

(3)については、できれば努力するとのことであり、(4)については次回までに検討するとなった。

(補)

この記事のなかの、都計審に書面表決を認めよとするわたしの提案について、国土交通省官僚の知人が、それは法的にできないと教えてくれた。

都道府県都市計画審議会及び市町村都市計画審議会の組織及び運営の基準を定める政令第5条第2項に「審議会の議事は、出席した委員及び議事に関係のある臨時委員の過半数をもって決し、可否同数のときは会長の決するところによるものとする」と定めがある。

これによると、議決権を行使できるのは、出席した委員に限定されるのだそうである。

他の組織の議決の関する法令では、たとえば、特定非営利活動法人法(NPO法)では第14条の7に、「社員総会に出席しない社員は、書面で、又は代理人によって表決をすることができる」とあって、書面表決ができるのである。

都計審では法令にこの定めがないから、できないのだそうである。そういうものなのか、定めがないことはできるのではなくて、できない、とするのが法律なのか。

ところで、委員の代理出席を認める条項があるのだろうか。現実に県の都計審では自治体首長委員のおおくが代理出席である。(090714)

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