2話:都計審初出演と生産緑地の不思議

第2話

都計審初出演と生産緑地の不思議

傍聴する立場から審議会の委員になった

横浜市で市民委員の公募に応募したら当選

委員となって初の審議会への対応に戸惑う

1.横浜市都計審委員として初出席

横浜市都市計画審議会の委員になって、初めての議案の場所に下調べに行くと、いきなり問題に直面した。これから開かれる審議会で、その土地の利用の変更を審議することになっているのに、現地ではすでに変更後の土地利用に変わっていた。しかも違反ではなくて、どうどうと開発許可も建築確認も表示があるのだ。こんなことが許されるのかしら。

このところ神奈川県や近くの市の都市計画審議会の傍聴をやってきた、その審議内容と運営に疑問が出てきた。

・第1に、審議会の学識経験者委員の欠席が概して多いが、審議会の委員の選定はどのように行われているのだろうか、ということ、

・第2に、審議会委員と事務局との初歩的な質疑応答に多くの時間を割かれて、実質的な内容審議にいたらないことが多いこと、

・第3に、自治体によって審議会の公開が不十分であるところが多いこと、

・第4に、審議会は、都市計画法に定める調査と建議の機能を実際に果たしているのだろうか、ということ、

・第5に、都市計画審議会と関連する他の審議会・審査会等との相互に横の連携があるのだろうか、ということ

・第6に、審議会の傍聴者への対応が不親切であるところが多いこと、特に平日昼間開催は一般傍聴を阻害していること、

・第7に、審議会による法定事項の議決が首長を拘束する参与機関であるのか、議決が首長を拘束しない諮問答申機関であるのか、その法的位置づけを不明解のままに審議しているフシがあること 。

そこで横浜市が、都市計画審議会の市民委員枠3名のうちの2名を公募していたので、応募して選考を経て委員となった。これらの疑問を背景として、横浜都計審に出席することとした。

その初参加の審議会は、2008年11月18日14時からであった。冒頭に新任委員挨拶として、上のような疑問を感じたのが都市計画審議会に応募した動機であると述べておいた。この疑問の一部は、市民委員公募のときに応募の動機として書いてだしておいたから、市当局は知っているはずである。

2.都市計画審議会の事務的諸問題

この最初の審議会の議案資料が手元に届いたのが、11月12日であるから、審議会まで中5日間しかない。

見れば、議案はたったひとつ(生産緑地地区の変更)なのに、決定する地区は24地区もあるのである。この短い間にそれらを見て回るには、都合が簡単にはつかない。

しかし、都市計画は土地に関する制限であるから、現場を見ないことには判断はできないものである。せめて2週間か10日くらいは前に、委員に届けるべきである。

やってきた資料の内容も、場所の一覧表はあるが、それを見ただけでは一体どこなのか分からない。仕方ないので事務局に電話をして、住宅地図に書いたものをくれと頼んでメールで送ってもらった。現場を見るべきとわたしは思いこんでいるのだが、ほかの委員はどうなのだろうか。

グーグルアースの航空写真でその場所を確認し、日曜日に朝から夕方まで乗用車で回った。広い横浜市全体に散らばっているし、ほとんどが狭い道を入った裏地や山林にあるから、アクセスに手間取る。結局14箇所で日が暮れた。あとは見る時間がない。あきらめた。

そもそも審議会開催の公開についても、開催の5日前に横浜市都市計画課のウェブサイトに掲載され、横浜市都市計画審議会ウェブサイトには前日の掲載である。

あまりに遅い。傍聴しようとしてもそれでは日程の繰り合わせが難しいだろう。

それに平日の午後の開催では、勤め人の傍聴は不可能に近い。現に今回の傍聴者はたったの2名だった。そんなことでよいのかと思う。平日の夕方あるいは休日に開催してはどうか。

次回は2009年2月19日の月曜日の午後であるという。どういうわけか、委員の都合を聞かないで、事務局から一方的にお達しであった。変である(会長の都合か)。月曜日は大学に行く日であるが、こちらを優先しよう。

3.生産緑地地区の現実

実は生産緑地に関しては、自分の仕事ではまったく関係なかったし、興味もなかった。それが都市計画審議会のために事前に現場を見てまわっていて、がぜん興味が湧いてきた。

冒頭に書いたように、都市計画による生産緑地指定が廃止に未だ決定していないのに、現場の実態は廃止した後の新たな土地利用、例えば住宅地や事務所にとっくになっているのである。

なぜそれが都市計画審議会にかかってくるのだ、法的にはどうなっているのだ、もしも都市計画審議会で廃止が否決されたらどうなるのか、これは問題をはらんでいる都市計画であるぞと気がついた。

生産緑地とはなんぞやと生産緑地法を読んだ。市街化区域内にあって継続的に農業や林業に利用する土地で、将来は公共施設等の敷地の用に供する土地に適しているまとまった広さの範囲を、都市計画で生産緑地地区と指定する。そこでは建築等の制限をするかわりに、農業利用する期間中は税の農地並み優遇措置をしようとするものである。

過密な市街地の中でまとまったオープンスペースとして役割を期待されている。

都市計画の市街化調整茎と市街化区域との線引きをしたときに、市街化区域内の農地をどうあつかうのか、建設省と農林省の駆け引きで、市街地内の農業を温存する措置としてできたものらしい。

今回の議事内容には、新規指定地区と廃止地区とがあるのだが、廃止予定地区の中の多くは、すでに宅地造成中だったり住宅が建ち並んでいたりして、それが合法の証拠に、開発許可済みや建築確認済みの掲示があるのだ。

生産緑地法には、廃止するにはその土地の営農者が死ぬか重病等になるかして後継者がいない場合であるとされていて、そのときは横浜市に買取りを請求するのである。

ところが、市が買い取らないといったら、それから3ヶ月すれば自動的に土地利用の制限が解除されるのである。解除されたら普通の土地なみに開発も建築もできる。

だから生産緑地地区指定のまま廃止する都市計画変更もなしに、現地は生産緑地でなくなっているのであった。都市計画法の骨抜きもいいところの生産緑地法である。

では、それで生産緑地地区も自動廃止かといえば、これは都市計画決定しているから、その廃止(変更)の手続きが要る。そこで都市計画審議会にかかってくるのである。

4.生産緑地地区制度の矛盾

なぜ事実上の廃止行為を廃止手続前に法が許すのか、そこが分からない。

そうなってから都市計画審議会にかけてよいのか。では都市計画審議会が廃止案を否決したらどうなるのか。その廃止議案の審議会への上程を、もっと以前の適切な時点で行うべきであるはずだ。

もしも否決しても実態は生産緑地地区のままになんの問題もないのなら、都市計画制度として意味がない。

都市計画審議会が事実上は否決ができないとしたら、議題とするべき意義は存在しない。

この奇妙な制度が何故に存在し、これまで都市計画審議会で問題とならなかったのか。 そこで今回都計審初登場のわたしは大張り切りで問題提起したが、制度に矛盾があるとの認識はあったが、これをどうこうする発言は意外にないのであった。 制度に矛盾があるなら、運用で打開するか、制度を変えるしかない。運用方法について市長から審議会に諮問してはどうか。 都市計画審議会には建議する権能も備えているのだから、生産緑地地区制度に関する制度や運用方法の変更を建議してはどうかと、審議会に提起したが 委員からほとんど反応がなかった。 5.生産緑地地区の指定の基準の不明確さ

生産緑地地区の指定要件に、「公共施設等の用に供する土地として適すること」とあるが、指定地区の現地に行って見ると、どのような公共施設等の地区に適するのか不明確な場所が見受けられる。

「公共施設等の敷地の用に供する土地として適している」とは、現時点で公共施設等の予定地として位置が特定しているものだけに限定されるものでなく、将来、公園緑地等の公共施設に活用することが可能であればよい(平成3年9月10日建設省都公緑発第77号及び「生産緑地法の解説と運用(建設省都市局都市計画課・公園緑地課監修」)とされていますと、市の担当が教えてくれた。

考えようによっては、どこでもできることになりそうだが、それにしても現地を見たら、公道からアプローチができないところ、広大な林地のなかの不規則な虫食い状の土地、広大な果樹園兼ミニゴルフコースの中の一部、広大な畑地の一部等、その部分の公共施設等への転用の予想はしにくいところも多い。

生産緑地が過密な市街地のオープンスペースとしての役割は、高く評価してよいと思うが、指定にあたっては、ある程度はどのような範囲でどのような公共用地とする予想ができるか、最低の基準が必要であると思われる。

指定後は土地利用制限や税制優遇などの措置を伴うので、恣意的に行ってはならないと考える。

神奈川県都市計画区域方針には、「市街化区域内の緑地、農地等については、貴重なオープンスペースとして保全・活用を図る。これらの緑地・農地等が都市的土地利用に転換される場合には、周辺土地利用との調和が図られるよう誘導する」とある。あるいはまた、「市街化区域内の一団の農地で、都市環境の保全に相当の効用があり、将来の公園など公共の施設等の敷地として適しているものなどを生産緑地地区に指定する」とあるように、政策的な基本方針を明確にして、生産緑地地区の指定と廃止を行うべきである。

指定要件を見直すか、要件を厳に適用するか、適用の考え方を改めるほうが良いと、わたしは考える。

6.生産緑地地区の廃止の根拠はないのか

指定時には適していたのに、廃止時には適さなくなったのはどうしてか、その根拠を明示するべきであろう。

市の担当からの報告は、それぞれ関連各部局に問い合わせて買収の必要がないとのことであり、予算も限られているので、とのことであった。それはそうであるだろうが、それは根拠の明示になっていないのである。

そもそも、指定のための要綱は細則まで作ってあるのだが、廃止のためには要綱もなにもないのである。生産緑地法にも廃止についての規定はないから、今のやり方でよいのだと行政担当部局は審議会の場で言った。

わたしは審議会で事務局に質疑はしない方針であり、今回も質問は事前に事務局に送って回答してもらった。

こればかりではなくほかの件でも、わたしは意見を述べて審議会委員が審議してほしいといっているのに、行政の担当者がすぐにしゃしゃり出て、制度の解説をしたり、行政の手続きに遺漏がないことを言い出す(善意だろうが)。

こちらは制度の講義をしてもらいたいのでもなく、手続き瑕疵があると言ってもいない。単に、制度そのものもしくは運用がおかしいから直す方法を考えよと、委員に提起しているのである。

7.廃止後の土地利用はスプロール住宅地へ

今回の廃止予定地区の土地利用の多くが、既にいわゆるミニ開発住宅地となっている。これまでもそうであったと推測できる。

そこはいわゆる突っ込み道路の旗ざお宅地に、庭のない戸建木造住宅が密集する形態で、通風・日照・防災などの居住環境として必ずしも適切とはいえな住宅地となっている。

指定した生産緑地地区が、過密な市街地においてのオープンスペースとして有効であったことは認めるとしても、廃止後の多くがその周辺地区と同じようなスプロール型の過密市街地を拡大再生産する現実に、これでよいのかと疑問を持たざるを得ない。

密集市街地の中で生産緑地地区を指定したならば、それは将来は街区公園もしくは近隣公園としての可能性を描いてのことと思われる。ところが廃止にあたって買取り請求があったとしても、なんらの対応をしないままに3ヶ月が過ぎて制限解除となり、ミニ開発が堂々と行われるのは、都市計画法の基本的な趣旨に反するとも思う。

廃止後の土地利用をどのように規制し誘導するか、大きな課題であると思う。

この件も審議会に提起したが、あまり話題にならなかったのは、なぜだろうか。

とにかく初回出演審議会は、こんな変な制度をナントカしてはどうかと、ひとりで結構しゃべってしまったが、反対もされなかったが隣の新任市民委員のほかからは特に意見も出ず、審議会委員の議論は盛り上がらずどころか議論にならず、事務局がしゃしゃり出るばかり、提起したことはよく分からないままで、暖簾に腕押し 、ひとり相撲の感を免れなかった。

結局、生産緑地の議案の採決に当たって、わたし一人が保留(棄権に相当するか)を 宣言して、賛成の挙手に加わらなかったので、賛成多数で原案通りに可決したのであった。

反対するのも大人気ないと思ってしまって、頑固な年寄りになるには、わたしはまだ年季が足りないようだ。

注:この生産緑地に関しては、第6話も参照されたい。

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