第1編第3話居住政策のない日本

まちもり叢書 街なかで暮らす 第1編あぶないマンション 伊達美徳

第3話 居住政策のない日本

1.民主党の政策は大丈夫か

●時代遅れの民主党公約

8月末の選挙に向って政局があわただしい。この選挙の結果で、もしかしたら民主党が内閣を組織する立場になる可能性もあるとかで、政治にあまり関心のない私も、ひとつだけ気になることがある。

高速道を無料化するという公約が民主党の目玉らしいが、はっきり言って、これはおかしいと思う。 これまでにもこれがおかしいと言う人は多いようだ。

その理由は、第1にCO2削減の環境政策に反していること、第2に財源問題の不明確さ、第3に負担の不公平、第4にむしろ渋滞が進む可能性があることなどだが、どうもまだ言われていないことで、実は都市計画上での重大な問題があるのだ。

◆◆

民主党ウェブサイトに、政策に関するQ&Aのページ(2003年10月)があり、高速道路無料化についてこんなことが書いてある。

「Q:東京近郊はわかりますが、地域経済はどうなのでしょうか?

A:地域経済も活性化されます。日本の高速道路は、料金が高い、そして出入り口の数が少なかったため、極めて使い勝手が悪かったと思います。ちなみにアメリカの高速道路の出入り口は、約3kmに一ヶ所ありますが、日本は約15kmに一ヶ所です。そこで、料金を無料にするだけではなく、出入り口の数を増やしたいと考えています。高速道路が利用しやすくなる、つまり生活道路になれば、高速道路の出入り口に街ができることになるでしょう。住宅建設だけではなく、商店も進出することになります」

また、同じく民主党のウェブサイトに、動画による政策解説があって、そこでこの件に関して、長妻昭政調会長代理がこうしゃべっている。

『パーキングエリアなどが誰でも入れるようになるので、例えばそういう土地を使って、工場を誘致するとか産業を誘致する、あるいは遊園地などなど、地域振興の要になる可能性も出てくるし…』

◆◆

21世紀の日本の都市計画は人口減少社会に向けて、20世紀の人口増加時代に拡大拡散した生活圏を、コンパクトにまとめて再編成し、都市の適切なる縮退をすすめることが主流になっている。

民主党の言う「高速道路の出入り口に街ができ、・・・住宅建設だけではなく、商店も進出することになります」とは、都市郊外に拡散している産業施設や都市施設を、高速道路インタチェンジ付近で更に拡大増設して、郊外開発を進める20世紀型の都市計画そのものである。

いまごろ「地域振興の要」などとインタチェンジを持ち上げるなんて、時代遅れもは甚だしい。

郊外のインタチェンジ付近の山林田畑をつぶして大規模商業施設を立地させる都市計画が、都市の中心市街地の衰退を招いて、都市住民の生活の不便さをもたらしていることは周知のことである。なかでもイオングループがその最大の元凶である(ちなみに、イオンの社長は民主党の岡田さんの兄である)。

高速道路が無料化するということは、これらの商業施設の市場エリアが広がることであり、この政策で民間企業としてもっとも利益を受けることになるはずである。それは今の都市問題の深刻さを更に推し進めるだろう。

空洞化した中心市街地の再編成をどう考えているのだろうか。わたしは商業政策には興味はないが、それにしても自民党と公明党という今の与党公約の中には、商店街振興について言及しているのに、民主党にはそれさえない上に郊外開発促進とは、いったいどういうわけか。

思い出したが、民主党には知人の都市計画家・若井康彦さんがいるはずだが、彼はなにをしているのだろうか。

政治に興味のないわたしにも、民主党のこの政策だけは、その基本的考えが気に入らないから、政権とるならぜひとも改めてほしい。

ついでに言うが、インタチェンジは街への玄関口でもあるはずだが、どこのインタチェンジ付近も醜い商業建築と汚らしい看板だらけで、これがこの街の玄関の風景かと嘆かわしいばかりである。(090816)

●的はずれ緊急住宅対策

今日の朝日新聞夕刊に「持ち家支援、利用4割 補正2600億円、大半残る」という見出しの記事がある。

緊急経済対策のために「住宅金融支援機構」から住宅ローンを借りやすいように、09年度補正予算に盛り込んだ住宅取得支援策が、実際は4割しか効果を発揮していない。緊急対策になっていないのだ。

あいかわらぬ持家政策偏重で、住宅政策を景気対策の経済政策にしていている。

そもそも不景気な時代そしてこれからの低成長時代に、個人に巨大借金を奨励する政策が誤っている。今借りている住宅の借金返済ができなくて、住宅難民が出ている時代である。

住宅を単に戸数だけで見ると足りているが、地域偏重、高額価格などで、実際は居住需要状況とマッチしていないのだ。住宅づくりが社会政策ではなくて経済政策だった誤りが出た。

誰にでも必要な居住という権利の基本となる住宅を、西欧のように社会政策としてしない日本がおかしい。住宅建設という物的な経済政策であって、居住政策といわないところからいて間違っている。

公営住宅を建てず、住宅公社を廃止し、都市機構の賃貸住宅を民間に移行しようとか、とにかく住宅賃貸住宅政策をないがしろにして、大借金国民を増やすのが景気対策なのか。

このところ新聞をにぎわす賃借人「追い出し屋」なんて商売が成り立つのも、賃貸借住宅が少ないから、つまり政策がないままに市場任せだからである。

わたしの住む県公社賃借住宅は、追い出し屋はなさそうだが、それまがいのことがある。3年くらいごとに家賃改定、つまり値上げをするのである。その言い分は、周りの賃貸住宅が上がったからこちらも上げるという。

その根拠資料を示せと言いに行ったら、なんと「入居者には見せないことになっている」と回答。こちらは大いに腹を立てて情報公開請求をしたのだが、こんどは資料がないと回答してきたのであった。そんなことをもう2度も繰り返した。全くオハナシにならないのである。追い出したいのだろう。言っておくがわたしは家賃はきちんと払っている(いつまで払えることやら)。

今度の選挙に向って、この住宅政策を転換して社会政策としての居住政策を打ち出している政党は、ない。

各党の党首でも誰でも、いちどは民間の木造賃貸アパートなるものに住んで見ればよい。日本の住宅政策の至らなさがわかるはずだ。大邸宅に住んでいては本当の居住政策は見えないだろう。(090821)

●気になる民主党の都市政策

高速道路をなぜ無料化するのか、都市政策面から民主党の言うことを、WEBサイトを見聞きしてみた。

「例えば地方において、インターチェンジというかパーキングエリアなどは誰でも入れるようになりますんで、例えばそういう土地を使って、工場を誘致するとか産業を誘致する、あるいは遊園地などなど、地域振興の要になる可能性も出てくるし…」

また、こんなことも書いてある。

「Q:東京近郊はわかりますが、地域経済はどうなのでしょうか?

A:地域経済も活性化されます。日本の高速道路は、料金が高い、そして出入り口の数が少なかったため、極めて使い勝手が悪かったと思います。ちなみにアメリカの高速道路の出入り口は、約3kmに一ヶ所ありますが、日本は約15kmに一ヶ所です。そこで、料金を無料にするだけではなく、出入り口の数を増やしたいと考えています。高速道路が利用しやすくなる、つまり生活道路になれば、高速道路の出入り口に街ができることになるでしょう。住宅建設だけではなく、商店も進出することになります」

これらのうちの前者は、「民主党MANIFESTO(政権政策)Q&A・高速道路の無料化 財源と維持費はどうするのか?」(動画)において、民主党の長妻昭政氏(厚生労働大臣になった)がしゃべっている言葉。

http://www.dpj.or.jp/special/manifesto2009/manifesto_qa.html

後者は、「民主党参考文書集2003/10/20「高速道路無料化」政策に関するQ&A(未定稿)』の当該項目である。

http://www.eda-jp.com/dpj/2003/highway-qa.html

この前後には渋滞が減るとか、経済効果があるとか述べてあるのだが、それらは一般メディアにも登場するから、賛成反対論があがっている。

ところが、これをみてわかったのだが、民主党は地方都市の郊外に遊園地やショッピングセンターあるいは工場団地などの開発を誘導をしようとしているのである。これではまるきり自民党型の利益誘導型政策である。

郊外開発が今や地方都市の疲弊を招いていることは、周知に事実であるが、民主党はそんなことも知らないのだろうか。

典型的な例をあげると、イオンという流通グループ(経営者は民主党の岡田さんの兄)は、各地の地方都市において郊外の田畑をつぶしてインターチェンジ付近に大規模なショッピングセンターをつくり、その結果はその都市の都市中心部の衰退を招いている。

このような困った現象に対して、中心市街地活性化法や都市計画法の改正までして、その対策をしつつある時代である。

今、人口が減少する時代に対応して大きく都市政策の方向転換をしようとしているのである。歴史ある市街地を、まとまりが良い暮らしやすい生活圏として再度都市形成をすることが、ようやくにして政策として方向が決まってきたのである。更に都市計画法も、この時代の流れにそって今、抜本的な改正をしようとしている。

この民主党の考えには、現代の都市政策として見逃せない大きな問題を含んでいる。地方において都市の郊外開発を誘導することで地域活性化をしようとしているが、これは明らかに今の都市政策の流れとは異なる。

20世紀の人口増加時代に拡大する都市政策を進めてきて、とうとう生活圏が拡散して都市が疲弊するまでになったのである。地方都市が郊外開発を進めた結果は、歴史のある中心市街での空洞化が進み、生活圏としての魅力が衰え、ますます人口流出が進み、人口減少がそれに追い討ちをかける。その行き着く先は、地方都市の衰退から消滅である。

わたしからみれば単なる大衆迎合人気取り政策である高速道路無料化という政策の陰になっていたが、実は民主党の時代錯誤な都市政策が潜んでいることを発見したのである。

その政策が自民党政権のもとで決まったことだからとして、反対方向を唱えているのだろうか。そうとすれば、これは都市の未来を見ない政党である。

例えば、どこでもよいが歴史ある城下町に行くとしよう。その街の玄関口であるインタチェンジを降りると、そこに待ちかまえるのは緑をつぶした商業開発群であり、けばけばしい広告や醜い看板建築だらけの風景である。このような風景が今よりも増えて、その結果が地方都市の衰退だとしたら、民主党を選んだ選挙民の責任である。

わたしは民主党に期待しているが、この点では民主党政策の変更を強く望むものである。

なんにしても、今のところ政権与党についたばかりの民主党の都市政策が見えてこないのが、いちばん気になる。(090920)

●民主党の居住・住宅政策は?

2009年9月から国交省に民主党の大臣が座って、ダムやら道路やらちょっと目先の派手な話題ばかりだが、もっとも基本的な居住政策については、なにか変えてくれるのだろうか。

日本では55年体制の自民党政権下では、基本的人権としての社会政策であるべき居住政策が存在しなくて、住宅政策と言いつつ実は経済政策で住むところをつくってきたのである。

居住政策は持ち家建設促進政策という経済政策であって、ちょっと景気が悪くなるとローン優遇なる借金政策を進めるのである。借りたくもないのに大借金して持ち家にしないと、屋根の下に暮らせない政策なのである。

その結果は、日本人の家庭はどこでも大借金返済を数十年もかけて、ほかの生活費を犠牲にして暮らしているのである。

生存権という基本的人権のひとつの居住の場を、借金で買い取らなければならないという奇妙なことが、先進国といわれる日本では起きている。

だから、今の100年に一度のような不況が来ると、目に見えてその矛盾があらわれて、住宅戸数は統計上では十分に足りているのに、借金が返せなくなって住宅が無い人が出てくるのである。

では借家に入ればよいはずだが、日本では借家には全くといってよいほど促進政策がないのである。だから狭くて環境の悪い高家賃の賃貸借住宅しか、一般向けには無いのである。

低家賃の公営賃貸借住宅はもうほとんど建設をしないから、なかなか入れない。公社や都市機構(UR)のような公的賃貸住宅も新規建設をやめて、しかも現在の賃貸住宅の家賃を民間なみに高額にしているのである。

全くこの国は、人間の居住権という基本的なところに政策が欠けていることおびただしい。

戦前は都市では借家住いが普通であったのに、いまは名ばかりマンションなどの持家ばかりがもてはやされる。

だから賃貸借住宅業界は、寡占的な立場にあって強気の商売である。家賃滞納者のブラックリストを作って、その者の入居を排除するシステムを共有する家賃保証会社の団体をつくるそうだ。ちょっとでも滞納すると業界に知れわたって、家を借りることができなくなる。サラ金みたいである。

悲惨なアジア・太平洋戦争が終わって既に65年、衣食住のうち衣と食は戦後復興したが、住はいまだに戦後復興から置き去りなのである。

居住政策を経済政策担当の国交省ではなく、社会政策担当の厚生労働省の所管にしてはどうか。トンカチ屋ばかりの国交省には社会政策は無理である。

民主党さんよ、社民党などと共にご努力いただき、賃貸借住宅促進策の展開を期待している。(090930)

●住宅政策は変わったか

昨年末に政府の2010年度予算が発表された。その中で鳩山内閣になってからの住宅政策において、賃貸住宅への対応がどのように政策として出てきたかを見た。

まず、「民主党の政権政策マニフェストManifesto」には、住宅政策はどう書いてあったかを、引用しておく。

44.環境に優しく、質の高い住宅の普及を促進する

【政策目的】○住宅政策を転換して、多様化する国民の価値観にあった住宅の普及を促進する。【具体策】○リフォームを最重点に位置づけ、バリアフリー改修、耐震補強改修、太陽光パネルや断熱材設置などの省エネルギー改修工事を支援する。○建築基準法などの関係法令の抜本的見直し、住宅建設に係る資格・許認可の整理・簡素化等、必要な予算を地方自治体に一括交付する。○正しく鑑定できる人(ホームインスペクター)の育成、施工現場記録の取引時の添付を推進する。○多様な賃貸住宅を整備するため、家賃補助や所得控除などの支援制度を創設する。○定期借家制度の普及を推進する。ノンリコース(不遡及)型ローンの普及を促進する。土地の価値のみでなされているリバースモーゲージ(住宅担保貸付)を利用しやすくする。○木材住宅産業を「地域資源活用型産業」の柱とし、推進する。伝統工法を継承する技術者、健全な地場の建設・建築産業を育成する。 つぎの引用は、国交省住宅局が2009年12月25日に発表した「平成22年度住宅局関係予算決定概要」の中の、賃貸住宅関連の部分である。3.新規制度等

Ⅰ.高齢者等が安心して暮らせる住宅セーフティネットの充実

(1)高齢者等居住安定化推進事業の創設

高齢者世帯等の入居する生活支援施設サービス付き賃貸住宅に対する助成制度を拡充し、新たに、医療施設等の併設に対して助成するとともに、賃貸住宅の共同施設に対する直接補助制度を創設する。

また、既存の公的賃貸住宅を改良・増築して行う施設整備に対する支援措置を設ける。

さらに、子育て世帯や障害者に配慮した住まい・住環境の形成に資する先導的な取組の促進措置を設ける。

(2)地域優良賃貸住宅(高齢者型)の床面積基準の緩和

高齢者向けの優良な賃貸住宅の整備を促進するため、地域優良賃貸住宅(高齢者型)の床面積基準について、地方公共団体が定めた計画に基づき緩和された基準を満たすものを助成対象とする。

(3)公営住宅等ストック総合改善事業の拡充

公営住宅を身体障害者向けのグループホーム・ケアホームとして利用するための改良工事費を、助成対象に追加する。

Ⅳ.住宅・建築物の安全・安心の確保

(1)略

(2)家賃債務保証業の適正化支援等

民間賃貸住宅入居者の居住の安定確保を図るため、賃貸住宅に係る家賃債務保証業等の適正化支援、賃貸住宅関連の紛争処理の円滑化支援及び居住支援協議会の活用の促進を行う。

このような制度の文書は常識的には悪文の見本であり、読み慣れないとなにがなんだかわからない。だから解説の表の様なものも併せてつくって出しているのだが、実はこれを読み解くのもけっこう難しいのである。

とりあえず、新たにできた制度である「高齢者等居住安定化推進事業」について、高齢者世帯等の入居する「生活支援施設サービス付き賃貸住宅」助成制度を拡充する内容について、箇条書きに直してみた。

1.新たに、医療施設等の併設に対して助成

2.賃貸住宅の共同施設に対する直接補助(国から事業者に直接補助するらしい)

3.既存の公的賃貸住宅を改良・増築して行う施設整備に対する支援措置

4.子育て世帯や障害者に配慮した住まい・住環境促進措置

要するに高齢者のための賃貸住宅制度を充実して、生活支援施設をもつ賃貸住宅をつくるようにするらしい。そこには生活相談や医療や介護等の施設を設けて、それに国から建設費を補助するのである。新設住宅ばかりでなく、特に既存の市営や県営住宅にそのような施設を増築して設けるときには補助をするというのである。

どれくらいの予算で、どれくらいの規模ができるか分からないが、いずれにしてもその方向はよいことである。

問題はその予算をうまく使う自治体や事業者が、たくさん登場するかどうかである。つまり使い勝手がよい制度かどうかだが、そこまでわたしは制度を見抜く能力は無い。(100103)

2.片想いの賃貸住宅政策

住宅供給公社よ、がんばってくれ

わたしが住んでいる賃借住宅の家主である県住宅供給公社から、「家賃改定に関するお知らせ」なるものがポストに入っていた。

おお、値上げか、また文句をつけるかと読んでみると、こうである。

「皆さんの現在お支払いただいている家賃につきましては、平成22年度4月に改定することを予定しておりましたが、昨今の社会・経済情勢を踏まえ熟慮の結果、平成22年4月の家賃改定は見送ることといたしましたので、お知らせいたします」

ありゃ、値上げしないのか、でもデフレ時代だから値下げするのが本当かもよ。

文面で気になるのは「昨今の社会・経済情勢を踏まえ熟慮の結果」のところである。つまり公社が考えに考えた末ってことらしい。この賃貸住宅ビルだって空き家がたくさんあるしなあ。

でも、値下げするのが嫌だから、「熟慮」して「見送」ったのだろうと、意地悪く読めるのである。

これでよいのだろうか。というのは、公社家賃は市場価格と連動すると制度上の決まりがあるからだ。

実は2002年入居からこれまでに2回の家賃改訂があった。2回とも値上げである。その最初の家賃改定のとき、わたしと家主の公社の間でトラブルが起きた。

◆◆

2003年12月に、家賃値上げの知ら葉書が来た。そこには値上げ理由が次のように書いてある。

「地方住宅供給公社法施行規則の改正により、公社賃貸住宅の家賃は近傍同種の住宅家賃と均衡を失しないよう定めるものと改められたことによるものです」

この改定自体がけしからんことであると思った。でもそのことについては法制度なので、ここでじたばたしてもしょうがない。

ただし、興味があったのは、都市計画の仕事をしている身として、「近傍同種の住宅家賃」にしたのだとすれば、当然にその市場調査をした上で改定家賃を算出しているはずだから、その市場調査資料を閲覧したいと思った。

わたしはいまこの賃借住宅に入ってるように、都市における共同住宅のあり方、なかんずく分譲型共同住宅の危険性に警鐘を鳴らし、公的賃貸住宅に期待を寄せてそのあり方に興味をもっているのだ。

横浜都心地区はどのような賃貸住宅があるのだろうか、公社住宅はあちことにあるから郊外地域での賃貸住宅家賃の状況も見てみたい。

そこで、公社の賃貸住宅担当の課を訪ねて、わたしは居住者だが、このお知らせが来たので、こここれこのような興味があるのでその資料を見せてもらいと言った。

窓口の人のそういうと、奥のほうの課長に聞いている。やがて戻ってきていうには、「公社住宅の入居者にはお見せできません」

カチンと来た。入居者には見せられないとは、いったいどういうことだ、家賃改定の契約当事者にその根拠となる資料を見せられないとは根本的におかしい、本当に市場調査したのかと、わたしは反論し抗議したのだ。

また窓口係が引っ込んであれこれ相談していたが、今度は係長が出てきて、見せるから1週間後にまたきてくれ、というので、とりあえず引き下がった。

こちらは単に調査資料に興味があるだけで無邪気なものだったが、ここからもめごとが始まったのだ。どうも、わたしが家賃値上げの抗議に来たと課長は思ったらしいと分かったのは、1週間後の再訪したときである。

◆◆

さて1週間後再訪すれば、今度は別室に案内されて課長と係長が対応してくれた。

まず、先日の「入居者には見せない」との言について、課長に質して取り消して,、謝ってもらった。

これがご要求に対する資料ですと、見せられたのは、財団法人不動産研究所から公社への調査報告書と題して、表紙ともA4用紙6枚のコピーである。わたしの住む共同住宅の近傍同種の賃貸住宅らしい3つの住戸についての実情家賃が書いてあり、それと比較してわたしの住戸の改定家賃を計算している。わたしの居住する共同住宅ビルについてのみの住戸の家賃値上げの根拠を示す計算資料である。

え、これじゃなくて、これの元になっている調査データを見せてほしいとたのんだのですがというと、キョトンとしている。

これはこれでともかくとして、わたしが見たいと頼んだ肝心の近傍同種の全調査資料を見せてほしいといったら、それは無いという。

えッ、それではこの3つを参考事例をどうやって選んだのかわからないでしょ。これが近傍同種であると判断するためには、ほかにあるたくさんの同種のものや同種でない賃貸住宅も調べたからこそ、これらが同種であると判断して選択したはずだ。

いやそれはありませんと、課長たちは言うのだ。

では、この調査委託の報告を不動研から受けたときに、当然のことながら発注者としてそのような資料を受け取っているでしょう、そう聞くと、いやそれでもありません、調査契約には資料の提出を求めていないからです、と言う。

え、それじゃあ、外注先の言うことを鵜呑みにしているだけで、資料に基づいて公社が検討をして、改定家賃の決定を公社がするのではないのかというと、外注先を信頼しているので公社は検討していませんという。

そんな委託業者任せなんて、あまりにいい加減な…。

押し問答していて嫌になってしまった。

では、次回の家賃改定のときは、きちんと調査資料を貰うように発注して、入居者にきちんと見せてください、いいですね、次回も同じことを言いにきますよ、と言って辞した。

◆◆

さてそれから4年後2007年12月のこと、また家賃改定のお知らせが来た。さっそく公社を訪ねて、前回と同じ資料閲覧をお願いした。

その回答は、前回と全く同じ繰り返しであった。先方の担当課長も前と同じ人である。前回あれほど言ったのにと思うと、あまりに馬鹿にされたので頭にきた。

そこで法制度に基づく情報公開手続きをとった。回答は、予想通り、「公開の申し出がありました文書等については、管理していないので通知します」

そこで規則にしたがって異議申し立てをした。きちんと資料を入手して検討しないのは家賃改定手続きに重大瑕疵がある、外注先には当該資料がかならずあるはずだから取り寄せろと書いた。

同時に、その回答もNOというに決まっているだろうと、理事長宛に質問状を提出した。前回の経緯を書いて、近傍同種の定義、3つのその事例が近傍同種であることの理由、外注委託先への委託業務完了時の資料提出義務、家賃決定システム等について質したのである。

公社のように一棟まるまる賃貸型共同ビルの経営と、民間分譲共同住宅の一部区分所有者が賃貸している混在型とは基本的に異なるものである。また、わたしのいるところの土地はもともとは戦前からの県有地だから、民間業者のように土地投資はしていないのである。

これらに対する回答は、簡単に言えば、専門の不動産鑑定士に委託しているので「貸主の恣意的な介入を排除し、公平性と客観性を確保」するため、そのもとになる資料を「取得することは逸脱行為」である、だから公社は要らないし知らないでよい、必要なことは説明を受けている、というのであった。

こちらとしては当初は、その「客観性」の資料を仕事がら見たかっただけだったのに、要求しないのに出てきた6枚ペーパーを見て、いきなりたった3例を挙げて家賃計算した内容に、かえってその客観性に疑問を持つことになってしまった。

昔のことだが、ある都市再開発計画で不動産研究所と一緒に仕事したことがある。基本的には不動産鑑定業者なのだ。不動産鑑定を外注するなら、ほかにも2~3者の鑑定士に依頼するのが、公的機関の常識である。

これではまた次回も同じようなことになるかなあ、出だしは軽い気持ちだったのに、家賃クレーマーみたいで妙なことになったと憂鬱になり、納得はぜんぜんしないながらもう面倒になってそれ以上はやめた。

◆◆

ということで、最初の話に戻るが、今回の「昨今の社会・経済情勢を踏まえ熟慮の結果」とは、「貸主の恣意的な」判断であるとしか思えないが、どうなんだろうか。

「地方住宅供給公社法施行規則の改正により、公社賃貸住宅の家賃は近傍同種の住宅家賃と均衡を失しないよう定めるものと改められたことによるもの」であるならば、今回も委託調査して、おっしゃるような専門家の言いなりになるのが制度上で必要なはずである。

あれほど言ったが、今回はまじめに調査したのだろうか。今回は外注先から「値上げ必要なし」との報告が来たのなら、そのまま店子に伝えるのがこれまでのやり方だろう。

それを今回は「熟慮の結果」とは、多分、「地方住宅供給公社法施行規則」がまた改正になったのだろう。もし改正していないならば、今回の措置は「恣意的」な定め方であり、法令違反になる。

それにしても近傍同種の賃貸住宅と家賃を同じにするというのは、あの小泉流なんでも民営のせいであろう。その結果は、いまや住宅難民がでているのである。そして大地震が近未来に来たときには、民間分譲共同住宅からぼうだいな難民が出る。

わたしは公社のような公的機関がこのような公的賃貸住宅を供給することを、おおいに賛成し、危険きわまる近未来を抱える分譲区分所有型共同住宅に反対していることは、これまでもあちこちでの勉強会や研究会で表明し、わたしのウェブサイト「まちもり通信」にも書いてきている。

鎌倉の一戸建てから、わざわざここを選んで引っ越してきたくらいである。それなのに、公社をつぶそうと県は言っているし、その公社の事務屋さんは店子のわたしに対してあまりにつれないのである。

全くの片想いの恋であるのが悔しい。(100228)

第1編第4話第4話 賃借都市の時代へ-体験的住宅論-へ

→まちもり叢書 街なかで暮らす 目次へ