ユニセフ杢尾雪絵さんの活動を追って(2002)

タジキスタンでアフガン難民救援をしている友人

杢尾雪絵さんの活動を追って(2002年)

伊達美徳

杢尾雪絵さんは、国連の機関のひとつであるユニセフの職員である。わたしの友人でもある。

その杢尾さんは今、世界の大事件のアフガニスタンの隣の国、タジキスタンにいる。ソ連の崩壊後の独立から内戦が続いた後の1998年、選挙にあたって国連監視団として赴いた秋野さんたちの殺害事件があった国だ。

その国へ転勤したのが去年の夏、タジキスタンの子どもや女性のために活動するはずだったのに、アメリカの同時多発テロの報復とて、秋から隣国で戦争が始まって、国境地帯に逃げてきたアフガン難民を救援する仕事で、今は大忙しである。

タジキスタン転勤の前は、ユーゴ紛争の真っ只中のコソボにいたのだから、そこでも難民救援の仕事で大変だったようだ。そもそも湾岸戦争のときには志願して、緒方貞子さん率いる国連難民高等弁務官事務所.のもとでトルコに行き、イラクからきたクルド難民救援をしていたのだから、筋金入りの紛争地女である。

彼女の行く先々で国際紛争がおきるので、「君は雨女ならぬ戦争女だねえ」と冗談を言っていたが、今や戦争はニューヨークでさえも起きるありさまで、世界中どこでも起きている時代に私たちはいるので、彼女が特別ではないかもしれないと、恐ろしいことに気がついた。

問題は、彼女が子どもを支援するために赴任するのは発展途上の貧しい国々なのだが、そこに国際紛争がおき、困窮がさらに進むという現実である。

実は杢尾さんは、かつて私と一緒の職場で都市計画の仕事をしていた人である。15年程前だろうか、国際青年協力隊でフィジー政府に勤めたことから、途上国支援を仕事にしたいと思い立った。

アメリカに留学して途上国に関する大学院を修了して、国連機関のユニセフに就職した。湾岸戦争の難民救援に出かけたのは、その留学直前だった。今は世界各地の途上国をわたり歩いて、子どもや女性たちのために働いている。たまに里帰りしてくると、なんだか行った先々の国の人になりきっている。

そのような友人を持っていることを、わたしは誇りに思っている。もっとも、彼女のために何もしてあげていないところに、われながら忸怩たるものがあるが、。

ここに彼女の許しを得て、今年になってからのタジクー日本間のメイルのやりとりを紹介しよう。なお、掲載文の前後にあるプライベイト部分は省略してある。

●杢尾さんからのメイル2002.1.31

私の近況ですが、実は昨年の9月にタジキスタンに転勤してきました。

ご存知かもしれませんが、タジキスタンはアフガニスタンと国境を接している、中央アジア旧ソ連邦の国です。こちらに赴任以来、アフガン攻撃事件の影響で大変忙しい日々に追われ、ついご連絡が遅くなって申し訳けありません。今年に入って、ようやく仕事も暮らしも少しは落ち着いてきました。

こちらへの赴任は夏の間に決まり、特にアフガン攻撃事件対策のために来たわけではありませんでした。ところがなぜかコソボのときと同様に、行く先々でいつも大きな紛争にまきこまれています。

幸い、タジキスタンは97年に終結した内戦からの立ち直りも早く、安全で快適に暮らしています。

アフガン難民救援にもっぱら追われているところですが、本来は、最貧国であるタジキスタンのためのプログラムが私の仕事の中心なのです。タジキスタンの貧困度は、アフガニスタンとかわらないくらい、といってもよいかもしれません。

わたしももう40歳をこえて、人生の節目かななどとおもっています。あい変わらず仕事に追われるばかりですが、これからは少し余暇も充実させたいと思っています。

●伊達からのメイル 2002.2.1

お久しぶりですね。お元気のようで、嬉しくもまた安心しました。

こんどはタジキスタンですか。なんだかやっぱり、あなたは戦争女ですね。いや、そうじゃなくて、今は戦争は地球のどこでも起きている時代であることを、改めて認識したというほうが正しいのですね。

本当は、貴方のような職業がなくなるのが、世界平和のためには良いことなんでしょうね。

こちら日本は、不景気の真最中で、仕事がなくなり設計事務所もコンサルタントも低空飛行中です。わたしたちもそのとおりです。

でも、そちらのようなことはなく、庶民はとにもかくにも平和なる生活であることを感謝しましょう。それでも新宿などの大きな駅や公園には、ホームレスが増えています。さすがに子どもはいませんが、女性もいます。

外務大臣がくびになり、緒方貞子さんに外務大臣になってと頼んで、ていよく断られた記事が、今日の夕刊にでていました。

貴方もどうですか、このへんで国際音痴の日本に戻って、国際化する日本を正しくみちびいてくれる人になってくださいよ。緒方さんに替わって、。お願いします。

●杢尾さんからのメイル2002.2.2

メイルどうもありがとうございました。相変わらずお元気そうで、なによりです。

日本の不景気は、円の下落にも現れているようで、こちらでも日本政府からの援助金をUSドルに交換するとぐっと金額が落ち込み、すくなからず痛手をこうむっています。日本は大きな援助国ですから、私たちのように貧困国で働く国際機関にとっても、そういった影響は大きいのです。

不景気といわれてもう10年になりますが、まったく回復のきざしも見えないというのは、この先日本はどう進んでいくのでしょうか。

世界情勢に関しては、伊達さんのおっしゃることにまったく同感です。どこに行っても戦争惨事に巻き込まれるなんて、一体どういう運命にあるのだろう、などとも思いましたが、実は、世界各地でこうした地域紛争はまだまだ続いており、犬も歩けば棒に当たるというくらい、この仕事をしていると紛争に巻き込まれることが多い、という悲しい世の中です。

タジキスタンは旧ソ連邦の国々の中でも最も貧しく、過去の内戦の痛手もあって、経済情勢のたちなおりはまだまだ時間がかかりそうです。

乳幼児死亡率などはアフリカの国よりも高く、学校に行かない子どもたちの数も増え、国の将来への不安は高いものがあります。

昨年はアフガン危機のおかげでアフガン難民の支援に追われていましたが、今年はタジキスタンの人道危機状況の打破のために、なんとか貢献できるようにと思っています。

注:ユニセフ(UNICEF United Nations Children's Fund 国連児童基金)とは、国連の機関のひとつで、途上国における児童及び女性を主たる対象として、保健・衛生、栄養改善、家庭及び児童福祉、教育等に関する長期的一般援助、被災地に対する緊急援助等を行っている。

ユニセフ協会(http://www.unicef.or.jp)によると、アフガニスタンの国内避難民のうち、20%は五歳未満の子供で、今後援助を必要とする住民のうち、70%が子供と女性という。

杢尾さんのユニセフでの地位は、タジキスタンでの国連機関ユニセフUNICEFで、Ms. Yukie Mokuo, Assistant Representative, Head of Officeとある。

附録:(インタネットから拾った) Yukie Mokuo, UNICEF's project officer in Kosovo, says, " So many children have no schooling, yet the teachers want to bring them back to school. Education should be treated as part of the emergency operations."(From a cover story entitled " Life, death and growing up in Kosovo" published in Friday Magazine, part of The Times Education Supplement, March 19, 1999.)

・参照

紛争地ウクライナの国連機関ユニセフで活動する杢尾雪絵さん(2014)

http://datey.blogspot.jp/2014/04/918.html

・外部関連ページ

◆いつも心に青空を ユニセフ タジキスタン代表・杢尾雪絵(NHKオンライン)

http://www.nhk.or.jp/professional/2006/1130/