第1編あぶないマンション暮し第1話名ばかりマンション

まちもり叢書 街中で暮す 伊達美徳

第1編 あぶないマンション暮し

阪神淡路震災であんなに被災して大変だったのに

もう忘れて分譲マンションが流行する

それも何百戸もあるような超高層建築である

どうしてそんな危険なものを造って売り

どうしてみんな大借金してまで買うのだろうか

どうして政府はそんな危険な物に助成するのか

どうして借家には助成をしないのか

第1話 名ばかりマンション

●はびこる偽マンション

世の中には危険と分かってるのに、どんどんとはびこる変なものがある。

煙草とか酒とかのことではない、分譲型(区分所有型)共同住宅である。これを日本ではマンションというようだ。しかし、もともとマンションとは庭は当然のことにある大きな屋敷の大邸宅のことだから、日本の不動産屋が宣伝文句でつけたのは偽マンションであり、わたしは名ばかりマンションというのである。

こんな危険なものを買ってほんとにあなたは大丈夫なんですか、地震で大変なことになりますよ!

1995年の阪神淡路大震災のあとで、被災した分譲型の共同住宅(区分所有型共同住宅ビル)の建て替えや修理が、所有者の利害関係が複雑で非常に面倒なことになったことは、みんな知っているはずなのに、いつの間にか忘れて、またどんどん建てて、売り買いしている。

阪神淡路大震災から10年後、今度は人為的な震災が起きた。建築の耐震偽装設計事件である。姉歯という建築士が法的には耐震性の無い設計をして、その設計で建てた建物が危ないかもしれないと分かり大騒ぎになった。

この件でもホテルや賃貸共同住宅は比較的早く建て直しに至ったが、分譲共同住宅(いわゆるマンション)は解決が難しく、いまだに一部した解決していないようだ。分譲共同住宅は問題があることが、改めて証明された。

それなのになお、いまだに毎日、分譲共同住宅の広告が新聞等を賑わわせており、超高層の巨大なものもどんどんと建っているし、買っている人がいる。

おい、もうすぐ関東とか倒壊とかに大地震が来るってのに、そんなもの買っていいのかい?

●名ばかりマンション

名ばかり管理職とかいって、平社員なみの権限しかないのに管理職に指名されて、残業代を支払ってもらえず、平社員より収入が少ない労働者がちかごろ話題になっている。

名ばかりといえば、その超第一級品はなんといっても「名ばかりマンション」である。これほど名ばかりに値するものは、ほかに見当たらない。

マンションとは英米語辞書では大邸宅やお屋敷のことである。以前にアメリカ人女性から聞いたことがあるが、アメリカでマンションといえば大統領一家が住むホワイトハウスのような、広大な庭と豪壮な建築の住宅だそうである。

日本のマンションは、不動産屋用語で3階建て以上の不燃建築の共同住宅、しかも区分所有型つまり分譲型のものを言うらしい。

2階建てのそれはアパートというらしいが、それは分譲でないかららしい。

では、日本語マンションは英米語ではなんと言うかというと、コンドミニアムというらしい。日本では聞かないなあ。

とにかく、大邸宅でもなければお屋敷でもない、どんな小さなウサギ小屋でも、共同住宅ならそれをマンションというらしい。なにしろワンルームマンションなんて、ホテルなみ以下の小部屋もあるくらいなもんである。

これはmansionを語源としてかっぱらった和製英語らしいが、物が似て非なるものの典型でありすぎるのが困る。ほんとに名ばかりmansionである。

らしい、とばかりいうのは、不動産業界用語で調べても明確な定義がないからである。

なんにしても、外国語のマンションの定義を詐称して、日本のウサギ小屋につけたという、不動産業者の販売用のほら吹きから始まったとしか思えない。(081006)

●さすが名ばかりマンション

パークタワーグランスカイ、パークホームズ○グランテラス、パークリュクス○、パークシティ○、ファインコート○プライムスタイル、○パークハウスザプレミアコート、ブランズ○、シーサイドコート○、ブランズ○オーシャンフロント、ブランズガーデン○、ライオンズグラマシーハウス○、ライオンズ○マスターレジデンスファインステージ、ライオンズ○ニュータウンフォレストフォート、ライオンズ○レスティアコート、ライオンズ○プレミアム、サングランデ○ドアシティ、サングランデアルフィーヌ、ザブランディス○、ルネ○、リージェントハウス○、ハートビートベース○、ルネ○レジデンシャルヴィラ、ルネプレイズコート○、リビオ○アリアフォート、○ウェルウィンガーデンヴィレッジ、○isaac○D.C.、クレヴィア○、○メープルヒルズ、Brilla○、イニシア○、グランフォーム○、ウェリス○、アズベリーヒルズ、フランサZ、ルティアス、リライズガーデン○、リバーフェイス、ファーストレジデンス○、レクセル○フォレスタ、レクセル○サザンフェイスプレミアムステージ、レクセル○シティエクセレントステージ、リーフィア○テラス○、プラウディア○プラウドタワー○、プラウドシティ○ガーデン、プラウド○サウスフォート、プラウドタワー○、シティタワー○、○ウェストシティタワーズ、シティタワー○ウェストゲート、シティタワーズ○ザツイン、MID OASIS TOWERS、BELISTA○、グランドメゾン○、○ALL PARKS(ザシーズンズ)、アイランドグレース、ユニヴェルシオール○、ノブレス○、パークフィールド○、ユトリシア、センターフォート、オーベル○ラチエン○、○フェイシア…、 (○のところには地名が入る)。

書き写すのがもうイヤになった、某日の新聞の全面不動産広告に載っている名ばかりマンションの名前である。

どーでもいいけど、なんだかすごいね。書き写していて気がついたことの第1は、フォートやゲートが意外に多くあって、これは今話題のゲイティッドコミュニティ(安全を売り込みにして、囲い込みして周囲から孤立させる新開発住宅地)をネーミングにしたのだろう。安全が売り物である。

第2はガーデンとかコートのような広場や庭を意味する言葉が多く、緑が売り物なんであろう。

第3は、めちゃめちゃ長たらしいものがあることだ。セールスマンも買った人も覚えられないし、大丈夫か。

第4は、よくは分からないが語源は英語がほとんどで、フランス語、イタリア語、スペイン語らしいのが混じり、ドイツ語や中国語、ロシア語ましてやハングルはないことだ。ひとつひとつにバカ翻訳つけようかと考え始めたが、アホらしくなった。

ウェルウィンなんて、元祖イギリス田園都市の名前を、ちゃっかりいただいているのには笑った。

まったくもって「名ばかりマンション」の名に恥じない、実に立派な名づけ方である。わたしなら、こんな名前でなんだか恥ずかしいと思って敬遠する。

横浜市南区にある真金町と永楽町の真ん中あたりにある集合住宅ビル群の名前を採集した。

グリーンハイツ大通り公園、コスモスクエア大通り公園、ホーメストハイツ大通り公園、ライオンズマンション大通り公園南、ジュネス伊勢佐木、センチュリー伊勢佐木、東横イン横浜関内(これはホテル)。

ここは大通り公園からは200m、伊勢佐木町からは500m、関内駅からは800mも離れている。しかも、いずれも南区ではなくて隣の中区の地名である。詐称になるような気がする。

ちなみに、真金町と永楽町は1958年までは永真遊郭と呼ばれる赤線地帯であった。

●法律でいうマンションとは?

もとは業界のほら吹き広告から始まったとしか思えない「マンション」なる用語が、なんと日本の法律で定義されているのである。

「マンションの建替えの円滑化等に関する法律(平成14年法律第78号)」という、法律の題名にマンションとついている。その第2条に用語の定義として、マンションとは「2以上の区分所有者が存する建物で、人の居住の用に供する専有部分のあるもの」となっている。

つまり、持ち主が2人以上で住宅のある建物は、木造平屋貧乏長屋でも100階建て超高層でも法律上はどれもマンションである。

となると、いまに平屋の2連戸住宅とか、今までアパートといっていたヤツを、マンションでございという住宅事業者が出てきて、混乱を招くかもしれない。

ちょっと、どうも、そういうもんで、よいかしら、英米の常識とも、日本業界の常識らしきものとも、いずれとも乖離しているのを法律で決めてよいもんかしら。

法律屋さんは硬いお方ばかりだろうに、「名ばかりマンション」におけるマンションを法律用語にしてしまうとは、どういう神経だったのだろうか。ここはお堅く「区分所有型共同住宅建築物」とでもいうべきであった。

今や全国に528万戸、1300万人が名ばかりマンションに住むらしいから、もう名ばかりといってもいられないと思ったのだろうか。法律は分かりやすくっていうことだろうか。

それにしても、これだけ大量な震災危険住宅をいまだに建設の規制をしないのは大問題だと思うがなあ。次の関東大震災が来て、建て替えもできず修理もできない立ち往生名ばかりマンションが林立してからようやく、名ばかりマンション規制が始まるのだろうなあ、日本は人柱と外圧でしか政策は変わらないのだ。

そういえば、アパートってのも変である。なぜ2階建てならアパートなのか。かつて東京には野々宮アパートとか代官山アパートというのがあったが、これらはみな今で言うなら豪華マンションであった。いつから貧乏共同住宅の代名詞になったのか。(081006)

●姉歯事件があった

姉歯なる1級建築士の資格を持つ構造設計屋が、設計の手抜きで構造計算を偽造して、たくさんの高層ビルが地震耐力不足ということが判明して大騒ぎになったことがある。

あの事件で建築士はすっかり信用を失って、それまでは建築士は善人である前提で建築基準法も建築士法もできていたのに、悪人を前提に改定されてしまった。

姉歯が構造計算偽造して建設されたビルのうち、ホテルや賃貸ビルはそれなりに建て直しが進んでいるが、分譲区分所有型集合住宅(通称マンション)は、建て直しがなかな進まないようだ。欠陥商品だが、なにしろお金がかかりすぎることがまずあるだろう。

それよりも問題なのは、マンションというものはひとつのビルを貧乏人と金持ちが共有しているから、建て直すにはどちらも合意しないと壊すこともできない。そうなるとどうしても貧乏人が金持ちの足を引っぱる。

東京都心部ばかりか地方都市の都心部も、マンションミニブームと言われるらしく、高層・超高層ビルの区分所有住宅がどんどん建ち、どんどん売れているようだ。

これは困ったもんである。

姉歯事件の後でも耐震偽装事件は起きているし、偽装ビルじゃなくても大地震が来たら、大修繕や建て直しが必要になるに決まっている。

そのときがきても本当に大丈夫かどうか考えて売り買いしているのだろうか。

(この件では第2話参照

●怖い超高層・大規模名ばかりマンション

今日の朝日新聞の生活面に「将来の展望不良?超高層」とて、超高層建築の分譲共同住宅について、その規模と形態からして膨大にかかる修繕費と、数百世帯の合意の難しさ等の諸問題を載せている。

結論として、「超高層の未来を語ること、それは業界のタブーでもあるんです」と、業界人に言わせている。おい、大丈夫か?

2007年末までに完成した分譲の超高層共同住宅は、403棟だそうである(不動産経済研究所調べ)。そこに何戸の住宅が入っているか書いていないが、これを少ないというか多いというか難しい。

超高層住宅は、まだ建設からそれほど年数はたってはいないが、古いものでは15年経ち、修繕に3億円もかかったこと、そして当然にもめたことが記事にある。

超高層に限らず、近年は100戸を越すような大規模で権利者の多い分譲型共同住宅(私に言わせると名ばかりマンションMANSIONSとは庭のある豪邸のこと)が売りに出されている。

そこでは超高層と同じような問題がわかっていながら、誰もタブーにして問題を先送りしているが、いつの日か突然に全国的に大問題になるに違いない。

特に近いうちに確実に起こるとされる東海や関東の大震災が、先送りを許さなくするだろう。そのときなってあわてても知らない~っと、。

未来じゃなくて、阪神淡路震災でも、姉歯震災でも起きたし、今も問題があちこちが起きているのに、普通の人たちは買ってみて初めて分かるのである。でも、そのときはもう遅い、家を買うような巨額の投資をやり直すことのできる人は、世にほとんど居ないからである。

分譲名ばかりマンションは、日本の潜在的不良資産の巨大な巣窟なのである。今のうちに規制か禁止するしか、世を救う方法はないのだ。日本の戦後住宅政策の貧困による破綻は、もうそこまで来ている。

「分譲マンションの未来を語ること、それは政治のタブーでもあるんです」って、誰か思っているのか。(081104)

●超高層大規模で大丈夫か

超高層建築のマンション、つまり分譲区分所有型住宅ビルがたくさん建ちつつあるが、どうもこれは厄介な問題をどんどんと貯め込んでいるだけのように思うのだ。

最新技術の超高層ビルだって、いずれは老朽化して建て直さなければならないし、予期しない大地震で壊れて建て直すことになるかもしれない。建て直しでなくて大規模修繕が必要にある。

その金額は膨大なものになるに違いない。

そのときに、数百戸、いや千戸を越えるような大規模超高層ビルが出現している現在、そこには住宅の区分所有持分者がいるのだが、その大金を調達するのに全員が合意しないとできないが、はたしてそんなに大勢の全員合意が可能だろうか。

簡単ではないだろうから、被災して住めないままに、修繕も建て直しもできないままに、ビルは朽ちていくし、多数の住宅難民はどうするのか。

現在その超高層マンションを買う人たちは、先のことは分からない、そのときはナントカなるだろうと、頬かむりしているのだろうが。それとも、売り逃げをかんがえての購入だろうか。

売るほうは専門家だからその辺は分かっているのだが、何か起きてもマンションは売ってしまえばよそ様のものだから知らないよって、ことなんだろうか。

「超高層の未来を語ること、それは業界のタブーでもあるんです」

これは業界人の言葉として朝日新聞の記事に載っていた。いやもう、怖いことである。

●赤の他人のリスクも背負い込むマンション

高い金を払って、分譲マンション(本当は「mansion」とは戸建豪邸のことですがね)なる危険きわまる生活空間を買ってはいけません。

マンションビルは、大勢のいろいろな事情のある人々が所有している。ところが戸建住宅みたいに隣とは切り離されていないから、自分の住戸だけではなくそれを支える柱や梁、基礎、電力や給排水の設備は、みんなで共有している。そのみんなには、金持ちもいれば貧乏人もいる。

ということは、このビルを持っていることは、他人のリスクも互いに背負い込んでいるってことなのだ。

大地震が来たとしよう。

仮定のように言ったが、じつは数年、数十年のうちに関東、東海、東南海地震が確実に来ると科学的に予測されているのだ。

建物は大地震でも倒れないように構造計算して設計して、その通りに建てるのだが、だからといって絶対に大丈夫とは言えない。

なぜなら、姉歯事件のような構造計算偽造事件もあれば工事手抜き事件がおきているし、実は、それがなくても大地震で建物は倒壊しなくても、大揺れでかなり痛むことは十分にありうるのだ。そのように設計してある。なにがきてもどこも壊れないようなビルは作れるが、ぼう大な建設費でそんなものは売れっこない。

そこで、そこそこに壊れて地震エネルギーを吸収して、それでも倒れてしまうことはない様に設計してあるのだ。

柱・梁の構造体や共同設備が壊れて大修理をしなければならないことは、地震だけではなく時間の経過による老朽化でも必ず起きる。これを修繕する、あるいは建て直しするには莫大な費用がかかる。

このときにその共同住宅ビルを共同所有する者全部が、修繕費や建て直し費用を簡単に負担できないのは、現にその事件が起きている通りである。

特に超高層共同住宅ならば、大規模だから費用も大きいが関係者も多いから、それは大変である。すぐに建て直ししたい・修理したい人もいれば、したいけれど金銭負担できない人がいる。

つまり、見も知らぬ他人と建物を共有することは、互いに見も知らぬ他人のリスクも背負い込んで建物を買ってしまうことなのだ。

区分所有型共同住宅(いわゆる分譲マンション)を買うとは、何千万円も出して人様のリスクを背負う、そういうことなのである。

その覚悟もできないどころか、そのことを知らないままに不動産屋の宣伝に乗せられて買うのが止まらないのは、一体どうしたことだろうか。

政策的にもそれを規制しないのはどうしたことなのだろう。

「分譲マンションの未来を語ること、それは政治のタブーでもあるんです」って、誰か思ってるのか…。

●新型大地震か

どうもこれまで分からなかった大地震があるらしい。

2009年2月のNHKTVでやっていたが、なんだか新しい地震らしい。いや、地震はいつも新しいか、いや逆か、地震は大昔からあるなあ、どっちだろ。

普通は地震ってやつはドドドッとゆれて、壊れるもの倒れるものがガラガラガシャガシャンってなるもんだと思っていた。

ところが近頃の鯰は進化してきて、フワ~リユラ~リソロ~リと揺するのだそうで、それがだんだんよくなる法華の太鼓で長い間揺れつつどんどん揺れ幅が増していくのだそうだ。この揺れが高層ビルにチョウ危ないそうである。

あ、そうか、鯰クンも昔もそうやって揺らせていたけど、高層ビルもなけりゃ超高層ビルなんてのもなかったもんなあ、人間は別に危なくはなかったんだな。

ってことは鯰の進化じゃなくて、人間の進化?でわざわざ危険なものに仕立て上げたってことである。

特に埋立地のような土地がずぶずぶのところが危ないのだそうだ。先日チリ地震があって、その津波が日本に押し寄せるときにリヤス式海岸のような湾のなかで波が増幅する図を見たが、あれと似たような感じだ。

南海、東南海地震でおきた地震波が地中を伝わってきて、東京湾の埋立地のようなずぶずぶ地盤でしかも周りが山に囲まれたところでは、やわらかい地中に波が閉じ込められて行ったり来たり、いつまでもゆれ続けてしだいに増幅するのだそうだ。

鯰クンはそうやって揺すり続けているうちに、ビルの揺れ具合と地震波長とがピタンコ相性がよくなってケッコ~ン!?、ビルは身をよじって腰を振り揺さぶりだすそうだ。

事例として、1985年にメキシコシティで起きた15階建て高層ビルの倒壊は、まさにこれだったという。あそこは湖を埋め立てた土地である。わたしの住む横浜関外もまさにその地形である。こわい。

わたしのただの推測だが、本当は東京のどの地域のどの高層ビルがどう長周期地震波に反応するか、コンピューターでの実験にデータがあるに違いない。それを公開すると資産価値が下がると不動産業界から文句が出るとか、住民がパニックになる危険性があるとかで、放送しなかったのかもしれない。

その長周期地震波による超高層ビルの揺れの実験映像を見せてくれた。たしかに建物は倒れなかったけど、中味はグチャグチャ、走り回り倒れに倒れた家具類の下でマネキン人形が無残に死んでいる。

ってことは、このビルは構造体としては大丈夫だったけど、上下水、電気、ガス、建具類、ガラス、付属物などはめちゃめちゃだろうから、使い物にならないに違いない。

人も室内で死んだとなると、これはどう考えるか。平屋で家がペチャンコ、土地は残ったという場合と同じである。ちっとも安全な建物ではないってことになる。

どんなに安全な設計をして倒れなくとも、これでは意味が無いと思う。

それでも土地があれば、構造体があれば、金さえ都合つけば建て直しや大修繕でまた使えるようになるだろう、と考えるのが普通だが、ここにも大問題が潜んでいる。

今から長周期地震波被害予防の工事をする技術もあるそうだが、これも億の単位で金がかかるらしい。「新宿センタービル」でやった事例が放送されたが、これは大成建設の設計施工でその本社なんだから、これが倒れたら企業の信用が倒れる。面子にかけてもやる必要があったと分かる。普通はそうは行かないだろう。

金もなし、家もなし、来るならわたしが死んでからにしてほしいが、唯一備えているのは、地震が来てもわが財産の被害をできるだけ少なくしていることだけ、つまり借家住まいで壊れる財産はないってことである。これは消極的対策じゃないよ、積極的に借家を選んで入っているのだ。(100308)

●マンション不況で喜ばしい

国土交通省が2010年1月29日に発表した住宅着工統計を見ると、2009年中の着工戸数は約79万戸であった。2008年中のそれは約100万戸だったとあるから、なんと3割減である。

持家も貸家も分譲住宅も減ったなかで、給与住宅だけが増えているのは、どういうわけだろうか。

減少の中で分譲型共同住宅(日本ではマンションというが、実は名ばかりマンションのこと)は、2009年中は約7万7千戸、2008年中は約18万戸だったから、なんと58パーセント減少(内首都圏6割減)である。

大地震が来たら危険極まりないこの分譲共同住宅が減っているのは、なにはともあれ喜ばしいことだ。

しかし、着工が減ったといっても実戸数は増えているので、新たに18万戸ということは30万人以上がこの危険なものに昨年から新たに住みだしたか、住みだしつつあることになるのだろう、コワイ…。

わたしが推奨する貸家が、2009年中は321469戸で、これは2008年中よりも3割も減少しているのが、気に入らない。

統計に公的な住宅が分類として登場してこないも、気に食わない。統計に載るほどの戸数供給をしていないってことか。全く気に食わない。

とにかく、あの危ない危ない分譲型立体長屋、名ばかりマンションが売れないことが喜ばしい。あんな危険なものを売るほうも問題だが、買うほうも問題なのである。

もうすぐ必ずやって来る首都圏地震で、どんなに頑丈に作ってあるビルでもかなりの被害がかならずある。そのときに、一棟で100戸どころか500戸、1000戸もあるような分譲戸数だと、どうやってみんなが意志をそろえて建て直しとか大規模修繕とかやれるのか。

1995年の阪神淡路大震災で、その難しさがよ~くわかったはずだし、その後の姉歯震災でも念押しされるように問題がわかったはずだ。

なのに、どうしてあんなもの売るのか、買うのか?

分譲名ばかりマンションは、日本の潜在的不良資産の巨大な巣窟なのである。今のうちに規制か禁止するしか、世を救う方法はないのだ。日本の戦後住宅政策の貧困による破綻は、もうそこまで来ている。(100130)

●借家か持家か

ある日、地下鉄に乗ったらこんな広告に出会った。

曰く「このまま11万の家賃を払い続けても、後には何~んにも残らない、と、思った時から急に家賃が恨めしくなった。マンション、住み替え、一戸建て、いい人生に」

これはどうも「賃貸住宅はよくな

いよ、マンションでも、一戸建てでも、買ったほうがいいよ」ということらしい。 別にこの広告主のジャマをする気はないが、これは大嘘である。わたしはこの広告主とは考え方が、正反対に違うのである。あ、ジャマしますね。

借家では「何~んにも残らない」ので、何か残ると思ってうっかり分譲マンションを買うと、それはもうどえらいものが残るのである。

それは、借金、危ない家、個人では建て直しもできないミニミニ土地、孫子が相続から逃げるお化け屋敷、それでもかかる固定資産税などなど、とんでもないものが残る可能性が大きいのである。

それは不良資産を抱えるリスクが大きいのだ。 大地震によるマンション建て替え問題は、阪神淡路大震災で証明されているし、姉歯事件でそれは念押しされたのだ。

姉歯事件では賃貸住宅ビルと分譲住宅ビルがあったが、賃貸ビルはすぐに解決したが、分譲の共同住宅ビルはいまだに建て直しになったのは2件だけらしい。

それにもかかわらず、世の中は分譲マンションを売っているし、買っている。みんな忘れたのかしら。

短期でも長期でもボロ財産が残るのが、マンション(区分所有型共同住宅ビル)である。大地震問題もあるが、それがこなくて、管理がわるい名ばかりマンションはどんどん老朽化して、売ろうにも売れない、そのうちに空き家が増えてくる、そうすると住むのが怖いからますます空き家が増える、ますます老朽化する、そのうちに不法占拠者が入ってくる、犯罪の温床になる、てなことになるのだ。建て直しはもう不可能だ。お化け屋敷である。

となることが分かると、早いことほかの知らない人に売り逃げしようってことになる。

売り逃げ流行となると、社会資本であるべき居住環境が、金融投機対象となるというこれはまことにもって退廃社会である。実にいびつな日本の都市社会である。

政府は所有型住宅優先の政策をやめて、都市における優良な一棟丸ごと賃貸共同住宅の供給政策を打ち出すべきである。これなら地震で被災しても早期に回復ができるのだ。所有が一体化しているから管理もやりやすい。共同住宅は利用と所有を分離するべきである。高くて買えないと思案している人は、ちょうどよい時期だから考え直してはどうか。

政府の政策も、持ち家にはローン減税があるのに、借家に家賃減税がないという大不公平である。だから、分かっていながら(いや、もしかしたら分かっていないのかな)危ない分譲住宅ばかりがはびこる。悪貨は良貨を駆逐するのである。

政府は、住宅は十分に満ち足りた、もう五カ年計画もやめたって言っているのに、先日の「日比谷派遣村」みたいに、実は住む家のない人がたくさん居るってことがあぶりだされた。ホームレスも大勢見かける。

日本では住宅政策がヨーロッパ先進国のように社会政策ではなくて、アメリカや発展途上国なみの経済政策だからだ。それは住宅政策とは言わない。だから、アメリカで経済政策としての住宅政策が大失敗して、世界不況になったのだ。

まあ、日本は世界不況を起こすほどの経済力も実力もないんだってことが、逆証明されたようなものだ。

これでいいのか?(090120)

●ドヤ街に見る貧困な住宅政策

横浜に寿町という、いわゆるドヤ街がある。東京の山谷、大阪の釜が崎とならぶ、簡易宿泊所と呼ぶ実情は超零細アパートメントビル街である。

約6ヘクタールの街に約6400人のドヤ住人たちが寝起きしているが、人口密度を計算するとヘクタールあたり1000人を超える超過密である。

わたしは寿町の近くに住んでいてよく通るし、この地域の新展開を目指すホステルビレッジ事業者に案内してもらって宿泊したことがある。

かつて若くて体力のあった港湾荷役労務者たちがその後に建設労働者となり、仕事が減り高齢化して労働能力が下がったままにずるずると暮らし続けて老いている。高齢化が押し寄せて、今や労働者の街から介護の街になりつつある。

50歳以下は極端に少なく、65歳以上の高齢化率は31.5%(2005年)、9割は男単身世帯である。高齢者が多いから病人も多いという。日雇いだったから健康保険も年金もない。8割の世帯が生活保護費を受給している。

簡易宿泊所数は118棟、8461室、宿賃は1室ネット約5㎡(3畳)で2200円/日である。実質的には住んでいるのだから月66000円、つまり1平米当り13000円の月家賃である。このあたりのワンルームマンションの家賃相場は1平米当り3~4000円だから、これは超高額である。

実態的に超高額超低級アパートメントに住む人たちに、その家賃として生活保護費を支給していることになり、つまりその超収益不動産経営者を公的資金で支えていることになる。奇妙な構造である。

この地域の歴史的背景は複雑なものがあるが、ここには日本の住宅政策が社会政策ではなくて、経済政策としてきた歪みが見事に現れている。

日本に社会政策として住宅政策があったなら、当然のことにこの地域に公営住宅を建設して、これらの人たちをいれていただろう。(090213)

●斜面地集合住宅

街の中を車で走っていたら、建物の陰からチラッと、異様に明るく真っ白に輝く巨大な丘が見えた。

とまってしげしげと眺めると、斜めに向うに転んでいる共同住宅である。

いや、転んでいるのではなくて、それは大きな丘の斜面におおいかぶさって、斜めに建っているというか、寝転んでいる共同住宅ビルが、西日を浴びているのであった。後に見えるふたつの鉄塔は、その丘の上に建っているらしい。

丘陵の斜面の緑をそっくり剥ぎ取ってしまって、住宅群に置き換えられた丘には、まるでたくさんの切り餅のようにバルコニーが積み重なっている。中央の青い縦線は、斜め昇降エレベーターらしい。(写真の上の2枚、現地と航空写真)

また別のところでも斜面地共同住宅に出会った(下の2枚、現地と航空写真)。こちらは隣に緑の斜面があるので、元はどんなところか分かる。

ところでこれは何階建てと計算するのだろうか。各階が地面についているから平屋建てなのか。

斜面地は相対的に地価が安いから、土木や建築の工事費がかかっても採算にあうのだろうが、こんな斜面マンションばかりになると、風景はいったいどうなるんだろうか。

都市化が進む中で斜面地の緑が環境を保っていたのに、こんな共同住宅を建てられては、もう市街地で緑を望むことは無理か。(100111)

第2話 耐震偽装共同住宅事件へ

まちもり叢書「街なかで暮す」目次へ