第6話:都計審は何を審議するのか

第6話

都計審は何を審議するのか

第2話に書いた生産緑地案件がまたでてきた

この前とまったく同じ問題をむしかえしたが

あえなく今度も敗退、こんなことでよいのか

1.無力な都市計画審議会

もしかしたら都市計画審議会はバカにされているのではないかと、つくづく思うのである。2009年11月9日は、横浜市の都市計画審議会であったが、一段とその思いを深くした。

なんだか11月は各都市で都市計画審議会が開かれる様子である。近隣では横浜、藤沢、鎌倉がそうである。

どうも生産緑地案件を、毎年この月にまとめて都市計画審議会にかけるように、各都市が談合して決めているらしく、それで11月開催なのである。

今回の議題は、道路廃止関係が7件、生産緑地地区関係が1件である。ただし、生産緑地地区議案はなんと54地区もある。

生産緑地地区は、都市環境に寄与するように市街地内の農地を保全する都市計画の地区指定制度である。新たに指定するところ、廃止するところ、名称を変更するところ計54地区が議題である。

このうち名称変更の20地区は単なる手続きだから言うことはないが、そのほかだって全部で34地区もあるのだ(実はこの34地区も単なる手続きと分かるのだが)。

全部の映像を使って話をしていると時間を食うので、問題あるとみられる地区17箇所を映しつつ意見を発表した。

特に廃止地区が問題である。現地に行って見ると、今回の都計審の議題になっているように、都市計画の廃止決定は未だ行なっていないにもかかわらず、これらは既に建物が建っているか工事中であったのだ。

都市計画審議会議案として、これらの地区の廃止あるいは縮小の議案を都市計画として承認するか否か提出されているのだが、現地はそれとは関係なく、すでに建物が建ち、人が住んでいるのである。

その条文の適用とすれば、都市計画決定前にこれらに建物が建とうが 荒地であろうが適法であることは確かなことである。

しかしながら、いくら適法であるからといっても、現実が合法的に先行しているなかで、都市計画審議会がこの議案の可否を後追いで審議することに何の意味があるのか。たとえば廃止案件を否決したとしても、現地にはなんの効果も無いのである。

都市計画審議会はいったい何を審議するのか。単に都市計画としての地区指定を廃止するという手続きとして、全くの形式的に審議するに過ぎない。本件に関して都市計画審議会は無力であり、あえていえば無用の長物でさえある。

この問題は、昨年11月の都市計画審議会でも既にのべたことなのだが、それで今年はどうしたということでもないのである。

都市計画課長の話では、都市計画関係の役人の全国会議でこの件も話題になったが、国のほうで制度を変えてくれなければ仕方ない、というのであった。地方自治とか分権とか言いながら、国に頼ったままで何もしないのではなく、自ら方法を考えてはどうか。横浜市独自の政策だってありうるだろう。

法律では、都市計画審議会は都市計画決定権者の市町村長に、都市計画について建議することができるのだから、その制度をつかってはどうか。

2.ミニ開発予備軍の生産緑地

廃止となる地区では、建物が既に建っているところ、工事中のところ、あるいは開発準備中のところなど、ひとつを除いて全て宅地を細分化して数件の住宅を立てる、いわゆるミニ開発の戸建分譲地となっていた。

行き止まりの突っ込み道路、旗と旗ざお宅地、そこに建つコケティッシュなデザインの建売小住宅をたくさん見た。

なかには丘陵地のてっぺんや斜面地で、急な坂を登らなければならないようなところもある。その制限解除した生産緑地地区に接して、急な坂に取り付くミニ開発住宅地があって、ここでもこれらに連続するミニ開発が起きるのであろう。

宅地を細分化して戸建住宅を密集させて建てるミニ開発は、もちろん開発許可も建築確認申請もすんで合法であるのだが、優良な住宅地とは言いがたい。

土地が高価であるために細分化しないと買えない住宅価格となるような、日本の都市策あるいは居住政策の貧困の表れなのである。

そしてまた、そのような開発でもOKとしなければならない日本の都市計画の貧困でもある。

これが都市計画審議会の審議の中の映像で登場し、ここでの都市計画議案となっている場所でありながら、それにたいして都市計画の専門家もいれば建築家もいながら、直接的にはなにを言っても無駄な都市計画審議会なのである。

わたしのミニ開発問題指摘は、昨年の11月の都市計画審議会でもしたのだが、今回も同じことをしゃべった。

これに対応して学識員のひとりが、住宅の艦橋としては好ましくないので、何らかの規制を行なうべきことを発言した。

これに対して農業団体代表の学識委員から反論が出た。もともと市街化区域と調整区域線引きのときの被害者の農家であるから、農地の跡地利用に制限をかけるべきでないというのである。線引き指定のころと今とではかなり社会状況変化していることを考慮しない発言であることと、生活環境の維持よりも業界利益を守る姿勢に、大いに疑問を感じた。

都市計画審議会は業界利益を守るための場であるのか?

3.生産緑地の使い方

生産緑地はその名のごとく、農林業の生産のための草本や樹木等の植物がある土地であって、良好な都市環境に寄与する目的を持っている。

では農林業の用途なら、その土地に建物がどれほど建ち並んでいてもかまわないのだろうか。例えばその全部が農産品の集荷のための仕分け場であったり、畜産のための畜舎であってもよいのか。

しかしそれでは生産緑地とはいえない。では土地に対してどの程度の割合までなら生産緑地なのか。

これに関しては、戸塚区にある畜産場の生産緑地指定について、かなりの部分が牛舎であることを見てきたので指摘したところ、その建物面積は土地の広さに対して約25パーセントなので、適正であるとの市の担当からの回答であった。

しかし、都市公園法によれば、公園敷地の中の建物面積は原則2パーセントまで、特定の施設で10パーセントまで、重要文化財のような特殊なものについては20パーセントを上限としている。

これをみても25パーセントは多すぎると思うのである。

もうひとつ生産緑地の土地利用で、戸塚区で造園業の土地を見てきたが、ここは国道に面している部分に、この造園業者とは無関係の野点商業看板を二基たてているのであった。これは生産緑地の利用に適うものか、税の優遇措置がありながらこれでよいのか、都市景観上も問題があると指摘した。

これにたいしての市からの回答は、適切な措置を指導するとの言い方であった。これは看板をとりはずさせるという意味か、それとも注意するだけという意味か、どちらだろうか。

(注:この看板は、1年後の2010年9月も立ったままである)

4.大都市の郊外住宅地問題

こうやって横浜市郊外部の住宅地の状況を図らずも見ることになって、考えさせられることは多い。

第1に、まだまだ開発圧力は大都市の郊外部には強いということである。人口減少社会なると、大都市への人口移動が起るのであるが、それがいま、都心部の共同住宅(いわゆるマンション)と、このような郊外住宅開発となってあらわれていることが分かる。

それも、生活環境として問題のある狭小な宅地の、急傾斜地住宅やミニ開発となっているという問題を抱えている。

問題の第2点目は、その一方では高齢化が進むと急傾斜地の之住宅や、買い物に不便な住宅地ですむことが難しくなって、ここから都心部への移動が起きつつある。私が鎌倉の谷戸の中から横浜都心部に移ったのが典型的な例である。空き家化とミニ開発が同居しているのである。

3点目は、そのような居住地の移動に関して、なんらの政策もないことである。たんなる経済政策として持ち家を買うための金融政策ばかりである。つまり借金政策なのである。これでは良好な生活環境は保ちようが無い。

4点目としては、生産緑地は一方では都市生活者の菜園として、食糧自給とレクリエーションと緑の環境確保という1石3鳥の政策のように見えるが、実は都市計画でありながらも何の基本となる都市計画的な方針は無いらしいのである。

どうも市街化区域に土地を持つ農家の節税対策以上のものとなっていない様子である。これで良いのだろうか。

どうも、見えないことが多すぎる。

5.生産緑地には都市計画の方針があるのか

事務局の説明において、瀬谷区の瀬谷1丁目に新設する生産緑地について、これは街区公園に準じる緑地効果があるので指定するという。たしかに密度の高い住宅地の中で周辺には公園はないし、 近くに小さな生産緑地があるのみである。

ところで、それを街区公園として効果を期待して指定するのならば、これは横浜市の都市計画マスタープランあるいは緑のマスタープランに基づくものであって、横浜市が関係権利者に働きかけて指定することとなったのか、それとも、たまたま指定の申し出があったので、行ってみたら街区公園に準じることが分かったのか。

そのどちらなのかを質問した。回答は、たまたま申し出があったので指定するとして街区公園云々は後付けだという。

わたしの質問の本質は、生産緑地の指定や廃止は、都市計画的な基本となる方針にもとづいているのかどうかということであったが、回答は要するにそんなものは無いということである。

何か釈然としないのは、都市計画決定することに何も基本方針が無いことである。あるのはその土地の規模等が指定する基準に沿うとするかどうかという、点的な視点のみであるらしいことだ。

生産緑地制度が、農林水産省と国土交通省にまたがる政策であるためであろうか、どこか不自然なのである。都市"計画"なのにマスタープランが無いのは不思議なことだ。

6.生産緑地はほとんど無税

生産緑地は、横浜市税である固定資産税及び都市計画税が、宅地ではなく農地として評価して課税される。相続税も一定の条件下で猶予の制度がある。

これが指定を受ける側のメリットである。そのかわり、指定を受けると、死ぬまで営農を続けなければならないことになっている。

ところでその課税額であるが、普通ならば市街化地域では宅地として評価して課税するのであるが、これを農地としての評価で課税するとなるとどれくらいの差が出るのであろうか。

市の担当者に聞いたところ、課税台帳から生産緑地だけを取り上げて計算することは技術的にできないとして、横浜市内での農地の平均化税額と宅地のそれとを教えてくれた。

それによれば、市内の宅地の固定資産税・都市計画税の額は平均して約570円/平米、農地の税額は平均約1.2円/平米であるそうだ。なんと農地は宅地の475分の1の税金なのである。ほとんど無税に近い。

現在の横浜市の生産緑地総面積は約340ヘクタールであるので、上記の差額をこれにかけるとおよそ年間約19億円、つまりこれが生産緑地へのおおまかな優遇税制額である。

生産緑地法の目的は、緑の空間で良好な都市環境を維持することにあるから、340ヘクタールを年間19億円で確保することは、安いのか高いのかよく分からないが、よいことではある。

ところで、これも審議会で事務局に質問して回答を得たのだが、この課税の優遇措置あるいはその廃止の措置は、生産緑地法による指定あるいは解除をもって対応することになっていて、都市計画法による都市計画の地区として指定あるいは廃止とは連動しないのだそうである。

実際に現地に行って見ると、既に生産緑地法による制限解除をされていて、ミニ開発の住宅群が建ち並んでいるのであるし、そのうえ課税も都市計画決定とは関係ないとすれば、なんのために都市計画審議会にかかってくるのか、これが本日の最大の奇妙なる議事である。

考えてみれば、生産緑地税制の固定資産税と都市計画税は、横浜市の課税するものである。当然のことながら市の条例で定めているであろうから、これを改定して、都市計画決定と この課税を連動するようにしてはどうか。これは国とは関係なく横浜市でできることであるはずだ。

この生産緑地制度のもっとも現実的な意味を持っている税制面で、都計審の存在価値が出てくるのである。

今は1年分ためておいて都計審で30件もいっぺんに審議しても何の痛痒も無いものが、 都市計画と課税が連動するようになると、生産緑地指定あるいは廃止の時期と課税時期とが大きくずれ込む事例も出てきて、課税に不公平が出てくる筈である。年に4回は審議することになるだろう。

7.54箇所もの生産緑地を1議案とは

昨年の11月から横浜市の都市計画審議会に委員として出席しているが、その初めての審議会に生産緑地の追加や廃止の議案があった。

そしてその議案の奇妙なことに気づき、審議会でも問題提起した(第2話参照)。

それから1年が巡って、ことしも11月の都計審に、生産緑地議案が出てきた。どさっと1年分をまとめて出すものだから、なんと全部で54箇所もあるのだ。

こんなに沢山一度に議題にされては、事前に現場を見てから審議会に出る主義のわたしにとっては、いくら暇だといっても大変であった。

この現地訪問のためには、その場所を正確に知る必要があるので、横浜市の担当者に事前に聴くことにして、メールで事務局に段取りをお願いした。数日後に2時間ばかりかけて5名の担当者が相手をしてくれて、現地の分かる住宅地図や住所を教えてくれた。ごていねいなことであった。

短期間にこれほど沢山現地を見るのは大変だけれども、わたしは都計審で委員は現地を見ろと啖呵をきっているので(というより見ない人への皮肉)、これはもう意地である。

議題の54ヶ所のうちの34箇所を、6日間かかってみてきた。あとの20箇所は名称の変更だけで、実態の変化は無いので視察は省略した。ほかに道路の議題の場所も見てきた。

こうして、行って見てこそ分かることがある。現地を見ないで都市計画を審議するなんて言語道断である。

事務局の映像を使っての説明は、各地区ごとではなくて全体を包括的に説明し、その中での事例として特定地区を3ヶ所を説明した。

これをどうも疑問に思ったのは、54地区を包括的に説明して一括審議とすることでよいのだろうか。

それらの地区のほとんどは互いに関係なく立地し、土地条件も異なるのに、ひとつひとつの状況説明も無く、しかも一括して議決するのは基本的におかしいと思う。この疑問は、隣に座る知人の市民委員も、他の市では各地区をそれぞれ説明しているのに横浜市はヘンだなと、言っていた。

この議案そのものを審議することがほとんど無意味であることを事務局は知っているからこそ、このような投げやりの議案説明にするのだろうと思ったのである。

なお後日のこと、藤沢市都計審を傍聴したが、生産緑地案件19地区について、ひとつひとつ位置と都市計画を図で示し、その指定や廃止理由をきちんと説明していた。

8.無駄な都市計画道路は廃止の時代

道路関係の議題は、都市計画道路の4路線を一部または全部を廃止、2路線の線形を変更するものであった。

廃止路線は他に代替交通の道路があるから不要とのことである。不要なものをどうして都市計画決定したのか、その決定当時の事情を聞いてみたかったが、時間の無駄なような気がしてやめた。

政権交代で無駄な公共事業を減らすのが流行みたいだが、これは選挙の前から手続きをしていたから、その時流に乗ったのではあるまい。

廃止のうちのひとつに、ゴルフ場の仲を突っ切る線があるが、廃止理由は沿道利用が見込めないからであるという。そんなことは決定するときに分かっていたことであろう。あるいは、ゴルフ場のために都市計画決定したのかもしれない。

経路変更のひとつに、大きな農業用溜池を真二つにするようにななめに縦断する路線があり、これを池を迂回するように変更するというのである。

今は農業用溜池の機能を失った池は自然豊かな市民の憩いの場となっているので、自然の豊かな都市公園として整備して、道路はその回りを通る様に変えるのである。

現地を見てきたが、葦が茂っていて自然度の高い様子の池であり、このなかを自動車を通すのはもったいない。

この変更案はまことにもっともなことであるが、これも決めたときはどんな理由があったのだろうか。

多分、道路はまっすぐにつくるものである、池を迂回させる曲がりくねる都市計画道路なんて道路構造令違反だぞ、なんて、当時のやりとりがあったかもしれない。そういう時代だったろう。

議案のうち道路関係の案件 については、委員から特に発言らしい発言も無くて、すべて異議無しで終った。

9.委員発言も映像を使って

じつはこのところ数回の審議会のいくつかの議事で、わたしがかなり問題指摘の意見をのべても、現地を見ていない委員にはよく理解ができないらしいのであった。

前々回の審議会で、廃棄物処理施設の立地と住宅立地が競合するおそれがあることに現地を見て気がついて、審議会でそれへの対処の提案を詳しく述べたのだが、分かってもらえなかったことがある。現地を見ていない人には映像で示すしかないと気がついたのだ。

そこで、今回は映像を使って意見を言うことにした。

議題となっている生産緑地の各地区について、それらの現地で撮ってきた写真、市の都市計画サイトにあるその場所の都市計画図画像、そしてグーグルアースのその場所の航空写真、これらをひとつにまとめて各地区の映像として編集したものを映写しつつ意見を言った。

それなりに議論になったのは、現地を見ていない委員もこれでよく分かったからだろう。

それにしても30箇所以上を6日もかけてみてくるなんて、自分でもよくやるものだと思う。

でも、都市計画は土地に対する制限であり、そこには人がいるのだから、その制限がどのような効果をもたらすのかについては、現地を見ないことには分からないし、現地を見ないまま審議することは、そこにいる人に失礼に当ると思うのだ。

実際には現地をみただけでもわからなくて、そこにいる人々にも聞かなければならないのだが、そこまではやっている時間がないので、そこは意見書などを参考にするしかない。

現地を見てこそ分かることがあるので、見ていないほかの委員と比べると、私の意見は当然のことに多くなる。特に今回のように30箇所以上もいっぺんに審議にかけたら、それ相応に意見が多くなるのは当たり前である。

そこのところを配慮しないままに審議日程を決めるものだから、当日は沢山議題があるので委員としての意見陳述を急いでやれと 、事務局からも会長からも言われてしまった。

どうもわたしはいつも意見を言い過ぎると、警戒されているらしい。

でも自信を持って言うが、他の委員のように現地も見ないでつまらない質問だけしかしない、なんてことは断じてしていないことは、横浜市の都市計画審議会サイトに公開されている昨年11月以来の議事録を読めば分かるはずだ。

ちかごろは、「愚直」なる言葉を座右の銘にしようと心得ているのだ。都計審委員も、毎回毎回きわめて愚直に勤めることにしたのである。任期の終わりまであと3回あるだろうが、気を抜かないでやりたい。(091116)