第7話:郊外開発誘導型の都市計画はやっぱり変らないのか

途地域指定案の状況を書き込むとこのようになる。 問題は、斜めに横切る環状3号道路の左上、北西部にある計画的開発された住宅地のエリアである。

これはそこの拡大写真(図10)である。この計画開発住宅地は、全く同じ低層住宅地の土地利用現況でありながら、オレンジ色の線で2つの用途地域に分かれる。

その線の左上、北西部は現況の低層住宅地に対応した第1種低層住居専用地域指定とする案である。

それに対してオレンジ線から右下の南東部は、現状土地利用とは乖離する準住居地域指定とする案である。

この線をはさんで、南東部は北西部に比べて、容積率は2倍となり、建物高さ制限も2倍に許容され、大型の商業施設も立地が可能となる。現況とは大きくかけ離れた緩和誘導型の指定である。

図に書き込んだ数値は、1/2500国土基本図による土地の標高である。環状3号の道路面は、この写真の北東が62m、南西の光が丘交番前交差点部では59mとなる、坂道である。

ところが道路北西部の計画開発住宅地および駐車場は、標高は66~68mであるから、道路とは4~8mの差があり、住宅地が高い。

現地に行ってみたのでその写真を示す。矢印の位置から撮っている。

この写真(図11)は、左下の光が丘交番前交差点から、当該住宅地を右に見て北西方向を撮った。住宅地へは階段で登ることが分かる。

次の写真(図12)は同じく交差点から左に当該住宅地を見るように、環状3号を北東に向けて撮ったものである。住宅地が崖上にあって、沿道利用はできないことがわかる。

次の写真(図13)は環状3号を更に北東に進んで、駐車場あたりをみたものであるが、ここでも沿道からは地形的に遮断されている。

次にその住宅地の中に入ってみる(図14)。この道路あたりを境にして、左は住居専用、右は準住居となる用途指定案であり、全く同じような住宅地の中で、高さ規制は倍の差があり、大規模商業施設等の立地が可能と不可の違いになる。

(4)準住居地域指定の問題点と不同意理由

これら2件の沿道準住居指定案のエリアについてみてきたが、次のよう4点にまとめて問題点を指摘する。

第1には、現況の住居専用地域的な土地利用を乱すような商業等の誘導あるいは高層建築を誘導する準住居地域の新指定は、法にいうように「住居の環境を保護するため定める」ことにあたらないので、本2件のような準住居地域指定をするべきでない。

第2には、本2件のような現況の地形が沿道利用に不適切であるにもかかわらず、沿道型準住居地域を指定することは、その指定そのものが不適切である。

第3に、そもそも沿道型準住居指定のような、幹線道路沿いに大規模商業等の立地を促進して、中心市街地活性化の方向に反し、既存地域商店街を疲弊させるような政策を行なうべきでない。

第4に、全国諸都市において既存の沿道商業立地が景観を破壊している状況がありながら、地区計画や景観地区等をセットにして新規指定を行なうことなく、単純に沿道型の準住居地域のような規制の緩い用途地域指定を行なうことは、適切とはいえない。

参考までに、上白根町の当該地域に接する準住居地域の既指定エリアの沿道風景と、横浜ではないある都市の幹線道路の風景をここに示す。上白根町における上の写真(図15)の風景は、下の写真(図16)のある都市の沿道商業の風景のように、実に乱れたものとなろうとしつつある。

なお、これら4点のわたくしの指摘に対して、都市計画決定権者としては、用途地域等の指定基準に基づいて指定する案であるので妥当であるとするであろう。

しかし、それならば、その基準自体が間違っているので、その改正を行なうべきである。

よって、わたくしは、この2件に関する用途地域及びそれに関連する各都市計画の新指定案については、都市計画決定権者において再検討を行なうとともに、指定基準の見直しも行なうことを要望し、当該2件に関する都市計画用途地域等の指定原案には同意をしない。

委員のみなさまにお願いであるが、わたしのこの意見を聞きながさずに、このような考え方が是か非か、なにとぞご審議をいただきたいと存じます。

また会長にお願いですが、わたくしはこの2件のほかは同意するつもりです。

しかし、原案のように他の地区の件も一括議案となっていると、わたしとしては採決時の対応に矛盾が起きます。そこで、この2件とそのほかとは切り離して採決を行なっていただきたいと存じます。

(審議会での発言は以上でおわり)

(5)審議会はどう対処したか

第7話

郊外開発誘導型の都市計画は

いまだに変らないものなのか

市街化調整茎を市街化区域に編入

用途地域は開発誘導型にさだめるなんて

いまどきそういうことでよいのか

1.現地を見ないで都市計画を審議できるのか

横浜市の都市計画行政では、いまだに郊外開発誘導の政策が続いている。

いや、もしかしたら、横浜だけではないのかもしれないと、昨日の横浜市都市計画審議会で思ったのであった。

今回の横浜都市計画審議会には、なんと19もの議案がかかり、それに含まれる対象地区数はあまりに多くて数えようもないが、ごく小さなものまで入れると100ヶ所近くあるのかもしれない。主要な地区だけでも12箇所ある。

これだけ多くある上に、広い市内の全体にまんべんなく散らばっている。事前に審議会資料が届いてから中10日間しかないから、現地を見てまわるのは容易ではない。

それでも審議会として現地視察調査のバスを出すようなことは、全然しないのである。

しょうがないから毎度のことに自分で見てまわるのだが、今回の議案の対象地区は郊外地がほとんどだから、公共交通機関は不便だし、自家用車でもけっこう時間がかかる。この前の生産緑地も同様で約20箇所も見るのに4日もかけてどうもいそがしかった

ほかの委員はどうしているのだろうか。審議会の委員になってこれで6回目の審議会だが、ほとんどの(多分)委員が現地を見ないで都市計画を審議するのを、いまだに理解できない。

2.開発誘導型の用途地域指定はよいのか

市街化調整区域を市街化区域に編入し、そこに新たに用途地域指定する議案が出た。その事柄からいって、かなりの郊外地域である。

現地を見てきて一部にどうも問題がある内容なので、反対意見を述べた。

現地を見ていないであろう委員にも分かりやすいように、現地写真等を映像で見せながら、あらかじめ書いていた発言原稿を読んで意見を述べた。

しかし結局のところ議決では、わたし一人だけ反対、賛成多数で可決となった。

ここに画像と共に編集して記載する。

文章で読むと、いかにも説明がくどいのは、議事録には映像が掲載されないために、目で見れば分かるような画像でも説明をいちいち言葉にしておかないと、発言者が何を言ったのか分からないからである。

実は前回の審議会での生産緑地の件で、画像を見せるだけで細かい説明を省いたら、議事録では何のことかわからないという大失敗をしたので、今回はくどくどとしゃべった。

(1)準住居地域の指定に賛成できない

議題869号から874号までのうち、新たに市街化区域に編入するエリアの内の2件につき、新たな用途地域指定の案とその関連都市計画指定の案について意見がある。

「旭区市沢町・保土ヶ谷区桜ヶ丘二丁目」及び「旭区上白根町・上白根二丁目」のエリアの内の一部について、新たに準住居地域の指定を行なう案となっている。

そもそも、沿道部に準住居地域を指定する目的は、都市計画法第9条によれば、「道路の沿道としての地域の特性にふさわしい業務の利便の増進を図りつつ、これと調和した住居の環境を保護するため定める地域とする」としている。

ところが、1万㎡以下ならば大型店も大規模な駐車場を備えて立地できる。あるいは倉庫や小規模工場も可能であるから、実態としては、幹線道路沿いに幹線道路側から利用する商業施設等の利用を誘導することにある、と言ってよいのである。

このことから、この2件に関しては、準住居地域指定は問題があるので賛成できない。再検討をするべきである。

理由を述べるには、現地の実情の風景等の画像を見る必要があるので示す。

(2)「旭区市沢町・保土ヶ谷区桜ヶ丘二丁目」の現況

まず「旭区市沢町・保土ヶ谷区桜ヶ丘二丁目」の件について述べる。

最初のこの図(図1)は、今回の議案となっている当該エリアの都市計画図である。

地の色がグレーの範囲が市街化調整区域であり、赤線で囲った範囲が今回の市街化区域編入案となっている範囲である。

この中心を縦貫する道路は環状2号であるが、その西側沿道部を準住居地域に、新たに指定する案となっている。

次は、当該地区の航空写真(図2)である。

ご覧のように、市沢町における現況土地利用は、低層の住宅市街地である。2500分の1の国土基本図で地形を調べたところ、環状2号の道路路面は標高69mから63m、沿道部は62から57mである。

南のインタチェンジ近辺のほかは、道路と沿道部の住宅地との間には4~5mの高低差があり、環状2号のほうが高い位置にある。

現地を見てきたが、今回の準住指定案のエリアのほとんどは、谷間状の地形であり、環状2号からの沿道利用は現状ではほとんどしていないし、地形的にもできない状況にある。

次に詳しい写真を示す(図3)。新指定案のエリアの北部である。

矢印の位置からの写真を示す(図4)。環状2号に直角に向いて撮った写真であるが、住宅の背後に環状2号の高い擁壁が見える。

次は環状2号を右にして北方を向く写真(図5)であるが、右に赤屋根の工場があり、その上に環状2号の一部が見える。この工場も環状2号沿道から出入りはできない。

次は新指定エリアのインタチェンジに近い南のほうであるが(図6)、矢印のように北に向いて撮った写真(図7)である。

右の建物の右うしろに環状2号があるが、ご覧のようにここから急な坂を下っていく谷間の地形であり、この地域全体に環状2号からの沿道利用はかなり難しい地形である。

(3)「旭区上白根町、上白根二丁目」の現況

この図(図8)は、当該エリアの現況都市計画図であり、地のグレーのところが市街化調整区域で、赤線の範囲を今回市街化地域に編入する案となっている。

ここでも、斜めに横切る環状3号の沿道部を、準住居地域指定する案となっている。

編入案の区域全体の航空写真(図9)はこのようであり、新用

このように、新たに指定する用途地域のうち、準住居地域指定について、現地の土地利用現況と地形から見て、また準住居地域指定そのものの問題も含めて、その指定が不適切であると指摘したのである。

このわたしの問題提起に対して、市民委員の一人が賛意を示してくださったが、法的対応に誤りはないことを確認して、採決では原案に賛成をされた。

それはそれでわたしにはありがたい審議態度であったが、ほとんどの委員がわたしの提起した基本的な問題に真摯に対応する議論をしていただけたとは思えないのが、わたしとしては残念であった。

審議会の結論は反対1(わたし)、賛成22で原案通りとなった。つまり、あらかじめ危惧し予想したとおりに、これまでの審議会連戦全敗記録を更新したのであった。

事務局担当者は、法的にまた指定基準によりこれでよい、幹線道路の沿道部は開発誘導することになっている、1万㎡くらいの商業施設は近隣対応の小型で問題ない、現況土地利用はたまたまそうなっているだけでそれに拘束されない、土木技術の発達で10mや20mの崖地を崩して沿道利用することは普通である、地区計画等の新たな規制は、地元の動きがあれば対応するが、行政から働きかけはしない、と、わたしの異見への反論であった。

わたしの意見は、それらが基本的に間違っていると言っているのだから、かみ合う議論にならない。

実は、審議会の2日前に、横浜市都市計画課の担当者に会いに行き、この件について質問し、わたしの問題意識をあらかじめ伝えておいた。だから都市計画決定権者の市長の代理である横浜市の事務局側もこの指摘を予想していたであろう。

審議で学識経験者委員の一人が、地元住民の意見が重要であり、それはどうであったかと事務局へ質問された。事務局からは、地元自治会代表に説明し、各戸にチラシを配布したが、住民から反対はなく、縦覧に意見書もでなかったとのこである。

だからこれでよい、そう、反対がないと言う無言の市民の意見をとりいれたのだから、まことにごもっともなることであると、わたしも思わないこともない。

(6)市民の責任、委員の責任

が、しかし、である。

ひとりの平凡なる市民の立場から言えば、配布された役所のチラシをしげしげと読み込むことは、ほとんどないのが実情である。

例えば、横浜では今、開港150周年記念の博覧会が大赤字で問題となっているが、その会場の近くに住むわたしは、散歩の途中で出くわしたこの異様なものはなんだと看板を見てはじめて知った、というまことに情けない実情であるのだ。テレビを見ないから、そんなもの知らないのである。

最近も、横浜関内・関外活性化計画とかいうものが行政において立案されていて、それに関するシンポジウムがあり、市民から意見募集を行なっているということを、県外の友人からのメールで教えてもらって初めて知った。自分が住んでいる街なのに、まことに申し訳けない。

でも、少しでもききかじったことなら調べて知ることはできるが、もともと知らないことを知ろうとすることは不可能である。

それなりに都市計画に関心をもっているつもりのわたしでさえ、まことに残念ながらこうなのだから、普通の庶民とはそういうものなのが現実である。

もちろん、これは市民の怠慢であることは確実であり、役所には手続き的な過誤はない。関心を持たない市民が悪いのである。

いや、その市民さえも悪くはない。関心なくても手続きに誤謬がなければ、それを選択したのがその住民であることなのだから、あとでそれが問題になっても、それは既にその道をしらずして選択した市民、住民のせいなのである。法は知らざるものをも罰すのだ。だんだんペシミスティックになってくるなあ。

ここで準住居地域の問題を採り上げたわたしが無謬の賢者であるとはもちろん思いもしないが、なんらかの問題意識を持っていたことを、ここで明確にしておくことだけでも、都市計画審議会の一員としてのささやかながら役割であると考えるしかないのである。

3.都市計画審議会は形骸化しているか

(1)都市計画審議会議決は市長を拘束しない

2008年8月の横浜市都市計画審議会で、わたしが指摘して都市計画審議会事務局に質問したことがあった(第5話参照)。今回その回答が出た。

その質問は、簡単に言えば、都市計画審議会はその結論が市長を拘束する参与機関なのか、それとも拘束しない諮問機関なのかということであった。

今回でてきた回答は、他の行政庁における状況を調べたところ、結論としては法的には都市計画審議会の議決は市長を拘束しない諮問機関であることが分かった、ということであった。なお、審査会は参与機関であるとのこと。

それならそれで明快である。実質はともかくとして、法的にはかなり審議会の責任は軽いものであると分かった。

つまり、その都市計画決定に瑕疵があることが後に判明し、決定権者の市長が責任を問われることになったとき、都市計画審議会の委員が連座する可能性は、無いとは言えないが、かなり低いだろう。

都市計画決定が行政処分行為として争訟の対象になりうる判例が出ているのが、都市計画審議会が諮問機関ならば、わたしが決定権者と共にその当事者になる可能性はないようだ。

これで安心したので、これからは現地も見ないで議案にいい加減な態度で同意しても、まあいいか、とは思わないにしても、個人的にはずいぶん気が楽になった。

おかしいのは、これまで全国での都計審で、こんな基礎的なことが疑問になったことがないのだろうか、ということだ。

もしかして、都市計画審議会の形骸化が進んでいるとしたら、根にはこんなこともあるのかもしれない、とは、わたしの思いすぎか。

(2)形骸化の実感

形骸化といえば、今回のように議題数が多く、しかも対象地区数が多いと、ひとつひとつまともに審議できないのである。

さらに問題は、今回の用途地域指定案件のように、ひとつの議案の中に対象となる地区数が複数あるので、問題のある地区も問題の無い地区も採決は一緒になってしまうことだ。

わたしのように現地を見てきて、これは問題あり、それは問題なしとしても、そのミソもクソも一緒にして採決しなければならないように、ひとつの議題になってしまっている。

この前の審議会の生産緑地案件だってそうであった。34箇所もあって、見てくると個別にいろいろなことがあるのだが、採決は一緒くたである。

だから今回のこの議案では、採決に当ってわたしは原案反対の手を上げたが、そのうち2地区については反対、その他については賛成であるが、やむをえず全地区について反対とせざるをえなかったことを、議事録に明確に記すことを会長に要請したのであった。

都市計画はそれぞれの地区ごとの違いをきちんと反映するべきものなのに、これでよいのか。

これまで何万回かの都計審が全国で開催されただろうが、このような審議方法ではおかしいと、だれも思っていないし、思わなかったのだろうか。

このあたりが実情として感ずる審議会の形骸化の証拠である。(100124)

〇「あなたの街の都市計画はこんな会議で決めている」目次へ

第8話「都市計画マスタープランは時代にどう対応するか」へ