【エッセイ版】あなたの街の都市計画はこんな会議で決めている

あなたの街の都市計画は
こんな会議で決めている

都計審委員独り相撲物語

伊達 美徳


 このエッセイは、雑誌『建築の研究』(2013年10月号 建築研究振興協会発行)に掲載したものである。

 元はと言えば、わたしの自家製ブックレット「まちもり叢書」のなかの一巻として、同じ表題のものがあるのだが、それを読んだ「建築の研究」誌編集委員の知人が、エッセイとして書き直して掲載することを薦めてくださったので、あまり都市計画に縁のない人でも読めるように、平易かつ短く書いたものである。

 ここに書いていないさらに詳しいことは下記を参照のこと。https://sites.google.com/site/matimorig2x/tokeisin

◆市民として都市計画審議会の委員になって独り相撲

  まちづくりは市民参加で進める時代です。これは、ひとりの市民が自主的に、巨大都市・横浜市の都市計画行政に愚直なる参画をして、多くの考えさせられる問題に直面した2年間の物語です。横浜市固有ではなく、日本各地の大都市の問題かもしれないと思うのです。
  わたしは長らく都市計画を専門としています。主として行政からの委託により、既成市街地の整備についての計画を市民と行政の間に立って進める仕事で、全国各地で経験を重ねました。
 ながらく続けていた日本都市計画家協会の常務理事事務局長を退任し、東京のわたし個人の仕事場を閉じ、都市計画の仕事から半リタイアして時間にゆとりができたので、純粋にひとりの市民として専門的な知識を生かし、自分が暮らす地域社会に役立ってみようと思いつきました。
 そこで2008年、わたしの住む横浜市が公募していた都市計画審議会の市民委員に応募したところ、2人の枠に応募者30人で15倍もの競争率の中から幸運にも委員に選ばれました。

 都市の生活環境や生産活動の相互に問題が起きないように、土地の使い方に規制や誘導をし、道路や公園などの配置を決め、都市空間を整備するのが都市計画です。この都市計画は、都市計画法によって知事や市長が定めますが、決定するときには必ず、都市計画審議会に諮らなければなりません。
 横浜市の都市計画審議会の委員は、市議会の正副議長と各委員長、関連分野の学識のある専門家、公募して選ぶ市民など25名で、年間に4回の審議会を市長が招集して議案を出します。

 わたしが任期中の2010年半ばまでの2年間に計7回の審議会があり、議題数は計50余、地区数は計150余でした。毎回毎回、念入りに事前調査し、積極的に意見を述べ、議案のひとつやふたつに反対の挙手をして、20余人の無口な委員を相手にたった一人の反乱のようでした。
 はからずも演じてしまった、ドン・キホーテあるいは車寅次郎のようなドタバタの独り相撲をお読みください。

◆都市計画では農地のはずが現地は住宅地とは

 初出席する都市計画審議会の通知と資料が届いたのは会議6日前でした。議案は1件なのに中身は24地区もの生産緑地についての変更・指定・廃止です。通知には現地視察日程が書いてないので問い合わせると、事前視察会はしない、行くなら勝手にどうぞとのこと、え?
 都市計画はその土地利用に大きな影響を及ぼすので、わたしの仕事経験からは現地を見ずに決めることは、絶対にありえないことなのでビックリ。仕方ないので、ひとりで4日かけて、広い横浜に散在する全地区を忙しく訪ね回りました。他の委員もそうしたのだと思っていましたら、誰ひとり現地を見ていないと審議会でわかり、それもまた驚きでした。

 議題の生産緑地とは、市街化区域の中で農業を営む農地を都市計画で指定する制度です。指定すると営農を義務付けられますが、固定資産税がゼロに近くなり、相続税猶予の優遇措置があります。
 生産緑地は都市農業の維持と、密集した市街地の緑の空間としても役立ちます。その現地を訪ねてみたら、農地といっても多様で、田畑、樹林地、庭木畑、果樹園、牧畜場、観光果樹園兼ミニゴルフ場、なかには草ぼうぼうの荒れ地もあります。

 議案では新たに指定や変更する生産緑地のほかに、既に指定したところでの農業を持ち主の都合等でやめるので、指定を廃止する場所も多くあります。これを訪ねて驚きました。既に農地ではなくなっていて何軒もの家が建って入居済みか建設中の場所ばかりなのです(図1、図2)。
 
これから審議会で廃止の都市計画決定をするのだから未だ農地のはずなのに、これは違法行為だと憤慨しつつ見て回ると、開発行為許可済みとか建築確認済みの掲示がしてあります。おかしなことがあるものです。

 
そこで生産緑地法と都市計画法を読み、市の担当課に聞きに行きました。違法行為ではないのです。簡単にいえば、生産緑地法の手続きで解除すれば、都市計画法で解除しなくても開発ができることになっていて、両制度が連動していないのです。その昔、この制度を決めるとき、農林省と建設省のいがみ合いで?こうなったようですが、何のために都市計画で決めるのか分りません。

 わたしは審議会でこの実情を話し、制度の矛盾を訴えて、この都市計画決定は意味がない、法がそうならば市の運用で両制度が連動するように対応を変えよと提案しました。
 市は分かっているが無理と言い、委員はただ沈黙で、実質審議がないままに議決に入り、やむなく反対の挙手をすれば、わたし一人だけで、他の委員が現地を見ないでなぜ賛成なのか不思議でした。はりきって出席したわが初審議会は、こうして驚いてばかりに始まり終ったのでした。

 この1年後の審議会に、別の地区の生産緑地議案が出てきましたが、全く同じ経過でした。実はわたしは生産緑地には興味ありませんでした。委員になったので現地に行ったのですが、現地を見たから明確に問題が分り興味がわきました。
 今後はどんな議題でも必ず事前に現地踏査をするぞと決意し、実際に実行しました。しかし都市計画議案の対象地区は広いし、あちこち散在しているし、その周辺地区との関係も見なければならないので、けっこう時間がかかります。議題の地区数が多いときは、毎日忙しくて困りました。

 そしてこの後は毎回の審議会の事前作業として、現地視察、都市計画図書一式と関連調査資料の閲覧、市の担当者に質疑して回答をもらう面談をしました。横浜市の議案関係の担当課の職員たちは、丁寧に対応してくださって助かりました。
 他の委員は事前になにもしないで、審議会の場で初めて資料を広げて見る人も多いようで、現地を見れば小学生でもわかる質問をします。日当を受け取っていて、それでよいのでしょうか。

◆半世紀も前に決めた都市計画事業をいまだに

2回目の大きな議題は、1962年に都市計画決定したJR東海道線の戸塚駅を中心とする、約22ヘクタールの土地区画整理事業の変更です。JR東海道線の地下に国道1号を通して踏切をなくし、駅の南北に広場をつくり、土地を有効利用しようとする大規模な市街地の整備事業です。
  当初決定から半世紀後の今も工事を続けていますが、この間に社会情勢が変って当初決定の通りには進めなくなり、何回も事業区域を大変更する紆余曲折を経ています。
  特に南北両駅前地区は、区画整理をやめて再開発事業に切り替えたので、今回の議題になった段階での区域は、当初の半分以下の10ヘクタールに縮んでいます。 それをもっと縮めて、国道1号と鉄道の立体交差関係だけの区域7ヘクタールにする(図3)議案です。
 3ヘクタール分は区画整理をあきらめて半世紀の制限を外すので、あとは勝手にどうぞというわけです。最後の変更でしょうが、これを書いている今も工事が続いています。

 この超長期都市計画事業をどう考えるか。 半世紀前の都市計画決定の審議がおろそかだったので、大変更が何度も起きて長期になり区域も縮んだというべきでしょうか。
  それとも、広い区域を都市計画決定しておいたから、長期になっても他の事業もとり入れて変更しながら街の改造ができたと考えるべきでしょうか。
 どちらの評価をとるべきか分りませんが、都市計画審議会は半世紀以上も地域を大きく揺るがし続けることをも決めるのだから真摯に取り組むべきと、心を引き締めたのでした。

 この議案の土地区画整理事業を廃止する3ヘクタールが4つに分かれていて、うち3地区はやむなしと考えましたが1地区は問題があります。
  そこはほとんど公有地であり、密集市街地に隣接しているので、公有地を活かして良好な環境に誘導するように隣接地も含めて地区計画指定して廃止するべきと、単に廃止するだけに反対意見を述べました。でも、だれひとり委員発言がなくて議決、またもやわたしだけ反対挙手、これで2連敗です。

  入念な事前調査をもとに万全を期して発言も原稿を書いて一生懸命に反対理由を述べたのに、誰にも相手にされずに議決とは、ショックでした。
でも、2連敗くらいでくじけていては、15倍の競争で選ばれ、1回1万3千800円(税別)をいただく市民委員としては申し訳ないと、われながらけなげに気を持ち直します。

◆地域内で摩擦が発生しそうな都市計画とは

 委員になって3回目の審議会の議題は5件、現地を全部見てきました。そのひとつの既設の廃棄物処理施設の設備を増設する許可を求める議案があります。
 その街には既にいくつかの小さな廃棄物処理場があり、道路で廃棄物分別している工場もあって(図4)、騒音や悪臭を発しています。そのような街に増設しても、当面は支障はないかもしれません。

 しかし問題は、この街の都市計画の用途指定が工業地域であって、住宅の建設が可能なことです。現に中層や高層の集合住宅ビルが3棟あります。今後も建つ可能性が十分にある駅前に近い立地なので、そうなったら居住者と事業者の間にトラブル発生の心配がぬぐえません。ここは住宅禁止にする提案をしようと考えました。

 さてこれを審議会で訴えても、また審議されずに終るおそれは十分にあります。実は調べて分かったのは、審議会は議案の修正はできないことになっていて、問題ある議案は否決するか、付帯決議で条件付き賛成にするしか方法がないのでした。

 そこで今度こそはと、作戦を考えました。現地の実情を述べて、「用途地域指定を工業から工業専用に変更または地区計画で住宅禁止の指定をする条件で同意する」旨の付帯決議案を提出しました。さすがにこれは審議にかかりました。
 しかし、そこまでやる必要はないとの反対多数、つまりわたし以外は全員反対で否決されました。3連敗でへこむわが心を、審議してもらっただけでも大進歩だったと奮い立たせます。

 議案処理が少し早く終わったので、審議会運営についてお願い提案をしました。
 まず審議会は公開なのに傍聴者がいつも数人なのでは公開の意味がないので、休日か夜に開催する提案です。
 これは否定されました。理由は、職員の残業代がかかる、傍聴者が多いと会場設営に困る、議事録を公開しているので必ずしも傍聴の要はない、これまでそのような要請がないとのことでした。都市計画の一般説明会や公聴会は夜間に開催なのに、審議会はなぜかと納得できません。委員を夜や休日によぶとは人権無視であると、副会長に叱られました。

 もうひとつは開催日程調整の件です。こちらの都合を聞かないでいきなり次の開催日を指定してくるので、事前調整してくれとのお願いです。これもダメでした。議会日程と会長の都合で決めるのだそうで、一介の市民の都合は聞いてもらえません。道理でいつも市議委員はほぼ無欠席、学識委員は3割欠席なのです。
 委員定数は25名で、学識経験者12名、市会議員10名、市民3名ですから、都市計画の素人が審議会の過半数を占め、特に市議委員が実態的に決定権を持っているのです。
 よその市でも市議がおおいのかと調べたら、たとえば藤沢市2名、川崎市4名、千葉市7名、さいたま市4名です。横浜市の審議会は市議委員が多すぎます

◆都市計画審議会が決めたことの責任は

 暑い夏の日、わたしの4回目の審議会でした。議題は3件で、うち1件は単純事務的事項、実質2件でいつものように現地や資料の事前調査をしました。今回は特に問題がないので、いつも口数が多いわたしも発言が少なくて早く議案処理が終わったので、前から気になっていた質問をしました。
 それは、都市計画審議会の根本にかかわることで、この審議会が議決ししたことは、市長が絶対に守るべきことになるのか、それとも参考にする程度のことなのか、その法的根拠がどうなっているのか、ということです。

 行政庁が設ける審議会には、法的には諮問機関と参与機関とがあり、前者はその意見や答申に市長は拘束されませんが、後者ならば拘束されます。さて都市計画審議会はどちらなのでしょうか、それによって委員たるわたしの責任度合いが大きく異なります。たとえば都市計画決定に反対する訴訟が出てきて、敗訴したら委員も損害賠償を求められる対象になるのでしょうか。現実に敗訴した事例がいくつか出てきています。

 驚いたことに、議案を出している市側が答えられません。どちらであっても審議会の結論に従うといいますが、こちらは法律上どちらかと聞いているのです。法律家の学識委員は、議案によって異なるだろうとの意見です。
 これまで何百回も審議会を開いただろうに、審議会の法的責任について市も委員も誰も考えたことがないのです。どうにも不思議なことです。結局は次会までに国交省に聞いて回答するとなりました。次の審議会で分かったのは、諮問機関であるとのことでした。ちょっと気が軽くなりましたが、いまだに釈然としません。

 事務局に提案をしました。前回の議事録を発言者に事前に見せないまま公開したので、わたしの発言が何か所も同音異語で別の意味になっています。公開前に発言委員のチェックを受けるのは常識だと言いました。また、公開まで3カ月もかかっていては、傍聴に替わるとする意味がないから10日以内にせよと提案しました。
 事務局回答は、これからは事前チェックを行う、公開は10日以内は難しいが努力するとのことです。その後、事前に原稿が来るようになりましたが、公開まで3か月から半年もかかっていて、いまだに提案は無視されています。
 今回もわたしの独り相撲で、実質的には敗退しました。

◆郊外の開発を抑制する時代のはずなのに

 5回目の審議会は、「生産緑地」の案件で、これについては1年前の最初の会と同じ問題を指摘しました。今回は54地区もあり、やっと20地区をまわって、問題がある17地区について意見を述べました。
 これまでの審議会で意見を言っても、現地を見ていない委員には全く分っていないようでしたので、今回から事務局の議案説明と同じように現地写真を大きく映写して説明しました。

 生産緑地を解除した後の広い農地のほとんどは、小宅地にコマ切れされて、木造小住宅が密に建ち並ぶ「ミニ開発」となっています(図5、6)。
 
日照やプライバシーなどの居住環境に問題あるところも多いので、解除に当って開発コントロールを行うべきと提案したところ、農業関係団体からの学識委員が、そのような農家を規制することには反対するとの意見を述べました。この審議会は業界利益を擁護する場であるのかと、意外でした。今回もまた、わたし一人が反対挙手で5連敗です。

 次の6回目の審議会の議案は市街化調整区域の市街化区域への編入と、その用途地域指定についてであり、対象地区はなんとまあ100以上もあります。
 しげしげと資料を見て主要な12カ所を現地視察しましたが、市域の端っこばかりで忙しいことでした。いろいろ問題があり、審議会前に市の担当者にそのことを話しました。
 これまでもそうですが、事前に担当課に問題点を確かめていますので、審議会で市側に質問する必要はありません。委員の方々に議題の問題点を指摘して、審議してほしいとお願いするのですが、誰もほとんど乗ってくれません。代わりに事務局がもう分っている答えを言ってくれます。これが毎回のことで困惑しました。市議の委員は議会と間違えているらしく、あまりしない発言をしても市側に質問するばかりで、最後は必ず賛成です。

 さて、2つの問題地区がありましたが、ひとつだけ報告します。そこは郊外の町はずれの市街化調整区域内にありながら、開発許可行為ですでに住宅地になっています。ここを市街化区域に編入し、初めて用途地域指定をします。
 広い幹線道路に沿っていて、その道路から8~10mほど高い崖の上の台地に、2階建ての小規模な木造建売住宅が密に立ち並んでいます。(図7、図8)
 
議題となっている新規指定案は、幹線道路に沿って幅20mの帯状に準住居地域で容積率200%、中高層ビルや大型商業施設等を建てることができます。これは幹線道路沿い地区の開発誘導策にほかなりません。そこから奥は第1種低層住居専用地域で容積率100%、高さ制限10m、これは現在の状況に対応しています。現地でこの両指定の境界線に立ってみると、どちら側も同時期に開発した同じ形の小規模木造住宅地です。
 この用途指定の問題は、
第1に将来は現在の居住環境を乱す開発が出て紛争になるおそれがある、
・第2に郊外の幹線道路沿道部の開発誘導は現代のコンパクトシティ政策に反する、
・第3に各地の幹線道路沿いに見るような乱雑な郊外商業景観を誘発する、
・第4にそもそも崖上なので沿道利用を誘導すべきではない地形なのです。
 
どちらも第1種低層住居専用地域にするべきです。 

 審議会ではまた現地写真を映写して分りやすく説明し、議案に同意できない旨を述べました。市の説明は、用途地域指定基準に従っているので適正とのことでした。それでは指定基準の使い方を間違っているとわたしは指摘しました。
 学識委員が、地元住民の意見はどうかと質問、市側から自治会代表に説明しチラシを各戸に配布したが意見はなかったとの返答です。住民は将来の開発問題あるいは土地価格差の発生などを理解したでしょうか。
 別の委員は、おかしいと思うが手続きの誤りがないから賛成との意見でした。というわけで議決は22対1の圧倒的賛成、いや、またもや圧倒的敗退でした。

 腑に落ちなかったのは、この議題の対象地区は100地区ほどもあるのですが、わたしが反対するのはそのうちの2地区だけなのに、採決は全部一括なのです。分けて採決をしてほしいと会長に頼みましたが、聞き入れてもらえません。わたしは賛成する地区にも反対せざるを得ない羽目になり、6連敗目は不愉快でした。

◆最後の審議会で前代未聞?のことが

 さて7回目、今回はわたしにとって最後の審議会で、議題は8件です。今回は1議題で奮闘するのですが、その前にちょっと面白い議事があったので紹介します。
 横浜市営地下鉄は、駅施設や線路用地の位置や幅などを都市計画決定しています。工事の都合でその範囲から一部はみ出したところがこれまでに10か所あり、それらをまとめて都市計画変更する議案がでました。中でも一番古い工事は25年も前のことでした。
 都市計画法には、変更は遅滞なく行うべしとの条文があります。市営地下鉄は四半世紀もの間、都市計画法違反で走ってきたのかと質問したら、市側はまことに苦しいお顔でした。

 さて、今回は前代未聞?のことが起きました。その議題は、東京湾沿いの段丘上に大規模な住宅団地の開発計画です。大型リゾートホテル撤退の跡地約11ヘクタールの土地に、総戸数1230戸の中高層共同住宅ビルを13棟と商業施設1棟を建てるのです。
 その計画全体を詳細にコントロールする地区計画の案を事業者がつくり、都市計画提案制度によって市に提出したものを、市が議案として都市計画審議会にかけたのです(図9)。資料を基に現地を見て、担当者に聞き、公聴会にも行きました。
 問題点がいくつかあるので審議会で指摘しましたが、ここではその中の都市計画の根幹にかかる問題を報告します。

 どこの自治体でも「都市計画の基本方針」を定めており、これに従って都市計画を決めなければなりません。横浜市の都市計画の基本方針には、この開発用地とその崖下の駅前地区にかけての一帯を、地域の「中心商業業務地」と定めています。それは、ここに既に建っていた440室もの大規模ホテルの存在を前提にしているからです。
 ところがこの開発計画では、大型ホテルは無くなって、大規模集合住宅団地になるのです。日常の最寄り品店舗はできるようですが、地域の中心となるような商業業務施設はありません。
 これでは都市計画の基本方針に合致しないのです。

 開発計画に大規模なホテルや商業業務施設を設けるべきこと、あるいは、都市計画の基本方針を「住宅地」に変更する議案を出して可決してから本議案を出すべきであり、この開発計画は都市計画の基本方針に違反しているので、審議会は同意するべきでないと、わたしは主張しました。
 他の委員からも、地元対応、図書の不備、手続きなどについて問題点の指摘があって審議は長引き、本議案は継続審議にするべきとの意見も出ました。しかし意見を言っている委員は3人だけで、居並ぶ市議委員はそろってダンマリだったのは、地元で強い反対運動があったので、なにか言うと票に影響すると思ったのでしょうか。

 審議会の数日前のことですが、その反対運動の方からメールで、案内するので現地を見に来いとの誘いが来ました。わたしはホテルのある頃から現地を何度も訪ねているし、反対運動については公聴会や知人から聞いて知っていたので、李下に冠のたとえでお断りしました。
 実は毎回の審議会の模様をその都度、わたしのインタネットサイト「まちもり通信」に詳しく載せていましたので、市民から多くのコンタクトがあるだろうと期待半分、不安半分でした。ところが実際はこの1件でだけで、他はなにもなくて、市民の無関心にがっかりしました。

 審議は時間切れで採決に入られてしまい、賛成15に対して反対5!、なんと、わたしと一緒に学識3人と市民委員1人の手が挙がるという前代未聞?の事件です。ついにやりましたっ!……といっても7連敗ですが。
 こうして2年間の都市計画審議会で、わたしの愚直な独り相撲は連戦連敗で幕となりました。都市計画マドンナを次々と追いかけてはフラれる「男はつらいよ」でしたが、最後に少数ながら味方が登場したのが救いでした。

◆真に市民のための都市計画審議会へと改革を

 わたしはたびたび近隣他市の都市計画審議会を傍聴して、相互比較もしました。そして日本の都市計画審議会制度あるいは都市計画行政そのものについて、これでよいのかと深く考えさせられたのでした。
 都市計画行政は、広い地域や広い分野の生活や生産活動に影響を与え、専門性を有する行政分野であることから、市長や担当部局の独断専行にならないよう、特定地域や業界の利益が優先されないように、専門的な知識の裏付けをもって進めなければなりません。
 そのため、都市計画審議会には、関係者間の利害を調整する機能、議案の正当性・妥当性をチェックする機能が求められます。

 近年、行政一般に対して市民から、行政の手続を分りやすくし、情報を公開し、説明責任を求められるようになっています。少子・高齢化、環境、防災などに社会の関心が高まり、必然的に住民が自分の暮らす街に関心が高まり、身近な都市計画について住民が主体的に参画する動きがおきています。
 都市計画審議会は、都市計画の分野でこれらを受け止める場として、住民と都市計画行政をつなぐ唯一の常設の法的機関です。審議会は市民に対して、都市計画行政の透明性を高め、都市計画に対する理解を深める使命を担うものであるはずです。

 しかし、一般に、現状の都市計画審議会はこれらの機能に対応できる状況にないし、委員も使命をよく理解していないし、市民も審議会をよく知りません。都市計画審議会は、制度上はもっと積極的に働くことができるのに、その能動的機能を発揮していません。
 これは根本的な改革が必要だと、2年間の市民委員の経験でつくづく思いました。都市計画審議会が真に市民のための機関となる日が来ることを願っています。
 なお、本稿で触れていない点は「https://sites.google.com/site/matimorig2x/tokeisin」をご参照下さい。

(だて よしのり アーバンプランナー) (20130920)

●参照:まちもり瓢論:都市計画審議会を改革せよ!