家族の希望で告知されず、本人から病状に疑問を訴えられた
1.職業
訪問看護師
2.業務分類
3.施設内看護の年数
4.訪問看護の年数
5.経験内容
Gさん、67歳男性、転移性腸骨腫瘍。腰部から下肢にかけての疼痛や食欲低下などの症状があったが、本人の強い希望で在宅療養となつた。
妻は亡くなつており、長女と2人暮らし。医師から長女にGさんが終末期にあることを伝えたところ、長女は「父にはがんであることを伝えないでほしい」と希望した。
そのため、医師からGさんへの告知は行われていなかった。痛みが和らぎ、安定した状態で過ごせることを目標に訪問看護を開始した。Gさんは「やつと帰れてうれしい」「お盆も家で過ごせる」と表情は明るかつた。長女もGさんの在宅療養を支持し、親身に世話をしていた。
しかし、間もなく右肩に痛みを来し、「なぜ肩まで痛くなるのか」「薬も効かないし、ちつともよくならない。どうしてなのか」と病気や鎮痛薬への疑間の言葉を繰り返し口にするようになつた。
訪問看護師は告知がされていないことで、Gさんの疑間に向き合えないことにジレンマを感じ、そのような自分を責める気持ちでいた。その後、Gさんは「嫌だけれど痛みをとるためなら入院も仕方がない」と言うようになつた。
再入院となつたGさんは、6日後に亡くなつた。訪問看護師はトータルペイン(全人的苦痛)について学んでいたにもかかわらず、在宅療養中に痛みを和らげることもできず、疑問や不信を抱いたまま亡くなつたGさんのことを思うと悔いが残つた。
家族の希望だけで、本人の意思を聞かれないまま病名告知が行われていない。
家族がなぜ告知を望まないのか、訪問看護師はその意思の背景にある思いを明らかにしていない。
訪問看護師は本人の痛みを和らげるために、トータルベインの視点で何が有効か、医師や家族と話し合っていない。
6.出所
杉谷藤子、川合政恵監修、医療人権を考える会著『事例で考える 訪問看護の倫理』(日本看護協会出版会)、2015年、p.86.
7.キーワード
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