家族の希望でデイサービスに行っていたが、本人は納得していなかった
1.職業
訪問看護師
2.業務分類
3.施設内看護の年数
4.訪問看護の年数
5.経験内容
Eさん、93歳男性、アルツハイマー型認知症。独居生活であったが、最近、娘夫婦が同居するため県外から引つ越しをしてきた。娘は週1回の訪問看護で行うシルバーカーでの散歩に同行し、Eさんの様子を見ていたが、Eさんは自分から外出することもないため、「外に目を向けてほしい」との思いからデイサービスの利用を希望した。
サービス担当者会議でEさんのデイサービスの利用について話し合われた。Eさんは高齢でもあり、「デイサービス」という用語すら初めて聞くことであろうし、理解できるはずもないと思われる。話に合わせてうなずいてはいたものの、納得しているようには見受けられなかった。しかし娘の強い希望によって、ディサービスを利用することが決まつた。
デイサービスに行き始めた当初、Eさんは「楽しいですよ。いろいろな話が聞けるし、ゲームもありますし……。でも耳が遠いから話はあまりわかりませんけれど」などと訪問看護師に話していた。しかしその後、デイサービスでトィレにこもることが多くなり、「トイレから出られず、ゲームにも参加せず」と、連絡ノートに記入されることが多くなった。
Eさんにそのことを聞くと「あそこのトイレは温かいし、ずっと座つていても大丈夫。入つているとゲームもしなくていいし……」という答えだった。やがてEさんの様子がケアマネジャーに伝えられ、デイサービスが中止された。Eさんは「本当は行きたくなかった。ああ、よかった。家が一番いい」「トイレにいると何もしなくてよかつた」と言つていた。
訪問看護師は「本人の気持ちや希望を優先することが一番である」と考えているものの、少しでも認知症を悪化させたくないという介護する家族の気持ちや介護負担を考えると、デイサービスやショートステイを勧めてしまう自らを省みて、どうすればよいのか迷いを感じている。
6.出所
杉谷藤子、川合政恵監修、医療人権を考える会著『事例で考える 訪問看護の倫理』(日本看護協会出版会)、2015年、p.77.
7.キーワード
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