最後まで在宅という夫の気持ちを医師に伝えられなかった
1.職業
訪問看護師
2.業務分類
3.施設内看護の年数
4.訪問看護の年数
5.経験内容
Aさん、85歳女性、認知症のため意思疎通に困難さがある。長期寝たきり状態で要介護5と判定され週2回訪問看護を利用している。食物誤嚥によりしばしば吸引を行うことがあり、発熱をたびたび起こしてもいた。同年輩の夫が介護をしているが、訪問看護師が訪問の都度、介護指導をしても聞き入れることはなく、あくまでも自分流である。
Aさんは次第に四肢が拘縮し、坐骨部の褥瘡が悪化した。嚥下機能も低下し夫に食事介助されており、摂取量は少ない状態であった。訪問看護師はかかりつけ医の指示によって褥瘡の状態は悪化するばかりでデブリドマンが繰り返し行われた。褥瘡はさらに悪化し、直径10cm・骨にまで達する深さとなり滲出液も多くなった。(NPUAP分類IV度)。訪問看護師は夫に訪問看護の回数を増やすことを何度か提案したが、経済的な理由から了解は得られていない。また、一時的な入院についても提案したが、夫は「最後まで自宅で看てやりたい」と言った。
しかし、夫は悪化した褥瘡の状態を見て次第に自宅での介護に不安を訴えるようになった。
訪問看護師は夫が不安を抱いているようだとかかりつけ医に相談すると、かかりつけ医はAさん・夫の意思を確かめることもなく入院を決定した。その後、Aさんはしばらくして入院先の病院で亡くなられた。訪問看護師には夫の遺志をくみ取れず、最期まで在宅で看取ることができなかったことについて悔いが残っている。
6.出所
杉谷藤子、川合政恵監修、医療人権を考える会著『事例で考える 訪問看護の倫理』(日本看護協会出版会)、2015年、p.60.
7.キーワード
#認知症 #インコンピテント #媒介者としての看護師 #医師・患者関係 #褥瘡 #家族 #自律尊重 #傾聴 #無危害原則 #善行原則