罪の意識を感じながらの療養生活
1.職業
訪問看護師
2.業務分類
難病患者のケア
3.施設内看護の年数
4.訪問看護の年数
5.経験内容
私は訪問看護師、62歳でパーキンソン病を発病したIさん(82歳)の看護をしている。Iさんは夫(85歳)との二人暮らし、自宅では夫が一人でほとんどつきっきりでいる。
Iさんは在宅での療養を希望し、長年、ホームヘルプサービスを週4回(1回2時間/日)利用し、デイサービスを週1回、デイケアを週1回、ショートステイを月に1回、民間の配食サービスを週3回ほど利用しながら日々の生活を送っている。薬を飲み込むことが困難であるため、酸っぱいものを口に含み唾液が広がってから服薬したり、食事を飲み込みやすくするためとろみをつけるなど、懸命に工夫しながらの療養生活だ。ここ数年、パーキンソン病の進行により、発話がほとんど困難になり、また嚥下機能の低下などのため食事は刻み食が中心になったが、本人の希望により在宅療養を続けている。
Iさんはさまざまな社会サービスを利用しているが、「在宅での24時間365日の介護」のすべては保障しきれない。結局、一日の大半は自らも老いを迎えた夫が看護している状態である。そのことに対して「こんな(身体の状態)になって自分で自分が嫌になる、いっそのこと、死にたいと思うことさえあります。それに家事をお父さん(夫)にやってもらう時には本当に悪いなと思います」と語っている。Iさんは、自分が難病の身体を生きざるを得ないことを「自己否定」的に解釈し、また看護する夫に対して「罪の意識」を持っているように見える。「自宅で療養したい」という思いと葛藤が生じ、「私のわがままでお父さんには迷惑をかけてしまっている」とときどき口にする。
6.出所
ジーサプリ編集委員会編『事例でまなぶケアの倫理』(改訂2版、MCメディカ出版)、p95.