在宅での重度認知症患者の暴力
1.職業
訪問看護師
2.業務分類
難病患者のケア
3.施設内看護の年数
4.訪問看護の年数
20年
5.経験内容
<インタビュアー>アンドレア・フーゴー氏にスタジオに来ていただきました。彼女は、看護師の国家資格を持ち、20年間在宅看護ステーションを経営してきました。あなたは、(介護士が施設で患者に暴力をふるった事件に関する)議論が誤った方向に進んでおり、憤慨していると、とわたしたちに意見を寄せましたが、それはなぜですか。
<フーゴー氏>はい、私は、問題の根本、すなわち、なぜこうした問題が生じたのかを把握する必要があると考えます。なぜなら、意図的に他者に危害を加える看護師や介護士はいないと思うからです。そうではなくて、わたしたちが働いている看護制度を問いただすべきなのです。このことは、先ほどの視聴者からの意見にも表れていました。つまり、わたしたちが現在、どのような労働条件で看護の仕事をしているのかを考えるべきなのです。
<インタビュアー>あなたの考えでは、こうした事件は一回限りの出来事なのでしょうか、それとも氷山の一角なのでしょうか。
<フーゴー氏>わたしたちがこの事件についてこれまでのような対応をすれば、こうした出来事は氷山の一角であり続けるでしょう。わたしたちは2年前に看護師や経営者からなる小規模な職業団体を作りましたが、介護の現状を早急に改善しなければならないと考えています。つまり、看護により多くの時間と資金を投入すべきだと思います。そして、病院でも在宅医療でも看護に十分な人数を配置すべきです。これはとても大事なことなのです。
<インタビュアー>なぜドイツでは看護の社会的ステータスは高くないのですか。
<フーゴー氏>残念ですが、その答えは私には分かりかねます。しかし、自分の経験から言えることは、スイスでは看護の仕事が高く評価され、看護師は自分の職業に満足していることです。残念ながら、ドイツでは看護関連のニュースを聞くと、このようなスキャンダルばかりが目立ちます。そして、誰が悪かったのかという犯人探しに終始しています。
<インタビュアー>介護の仕事を家族にゆだねて、看護師の仕事の軽減を図るという可能性が考えられます。しかし、あなたは、この可能性について警告していますが、どのような危険があるのですか。
<フーゴー氏>重度の認知症患者を扱う場合には、わたしたち看護の専門家ですら我慢の限界に達する時があります。介護者が認知症患者の体を洗ったり、着替えさせたりすると、その患者は決まって、介護してくれる人を口汚くののしったり、つねったり、肘鉄をくらわしたりします。そうしたことは毎日起こるのです。このように認知症患者が家で暴力をふるうと、その患者を介護する家族はどうしようもなくなります。すると、家族は介護を続けることに疑念を抱き、場合によっては、認知症を患う家族を部屋に閉じ込めて、その家族の面倒を見なくなります。
<インタビューアー>管理を強化することは、正しい方法ではないのですか。
<フーゴー氏>いいえ、それは決して正しい方法ではありません。わたしたちは既に十分なほど管理を徹底しています。わたしたちは実際に、より多くの人材と優れた教育を受けた専門家を必要としています。政治が機能しなくても、保険や看護師の努力次第で問題を解決できるという主張は、残念ながら間違っています。
<インタビューアー>ところで、今回のケースは、息子が秘密裏に母親の部屋にビデオカメラを仕掛けて介護の様子を撮影するという特殊なものでした。というのも、介護の際に暴力を受けるという母の主張が本当に正しいのかどうかを証明する必要があったからです。あなたはこのような証拠についてどのような考えをお持ちですか。
<フーゴー氏>そうですね。それは答えるのが難しい問題です。先ず、こうした事件が明らかになったことはよいことだと考えています。そして、わたしたちは、こうした問題に真摯に取り組み、問題の根本を解決することに一層努力すべき時なのです。さらに、看護師・介護士の満足度を高めて、仕事のやりがいを感じさせてあげるべきなのです。
<インタビューアー>アンドレア・フーゴーさん、今日お越しいただいて、貴重なお話を伺うことができ、ありがとうございました。
6.出所
ドイツ・ブレーメン放送局、2012年放送