患者の自殺未遂
1.職業
訪問看護師
2.業務分類
在宅でのターミナルケア
3.施設内看護の年数
4.訪問看護の年数
5.経験内容
90歳男性のGさんは2004年、胃がんにより胃全摘、2006年3月、狭窄部にステント留置、腹膜播種による腸閉塞を併発し、同年6月10日からIVH(中心静脈栄養法)管理に入った。
Gさんは長男夫婦と三人暮らしで、五年前に妻と死別した。元会社経営者で、現在は息子たちがその会社を引き継いでいる。85歳までゴルフをし、5ヶ月前まで車を運転していた。感情を表面に出すことが少なく、家長としての誇りを持っている。嫁には遠慮し、直接的な介護は拒否している。70歳の内縁の妻が同居状態でGさんの介護をしている。
長男は父親を尊敬し、「最後まで父親らしく生きてほしい」との思いが強い。父親が一番心を開き、気を使わない相手が内縁の妻であるため、長男は二人の関係を認めている。IVHの指導も一緒に受け、父の内縁の妻と雑談ができる関係を築いている。しかし、次男は内縁の妻を認めず、家に寄り付かないとされる。
主治医は2004年、胃がんの確定診断時に本人に胃がんであることを告げたが、Gさんはその後の病状経過については、長男に説明してほしいと述べた。それ以来、息子が主治医から父の病状について聞いている。
Gさんは病状が悪化し、身体的苦痛と共にスピリチュアルペインも加わったことで、隠してあった刃物で自分の手首を切ろうとした。彼は「死なせてくれ。やることはすべてした。辛いばかりだ。」「いつまで自分をこんなみっともない状態で生かしておくのか。」と述べて暴れた。
患者は、身体的苦痛が増しているにもかかわらず、苦痛の緩和が不十分であったことから、苦しさに耐え切れず、絶望と怒りの感情から自殺しようとしたと思われる。彼は「誇りを持って生きてきた人間として自分らしく最後まで生きたい」と望んでいたが、その願いと現実との葛藤に苦悩してきた。このケースは、改めて終末期ケアの難しさを実感させるものである。
6.出所
財団法人 日本訪問看護振興財団(監修)、角田直枝(編集)『訪問看護のための事例と解説から学ぶ在宅終末期ケア』中央法規、2008年1月、p.150-165.