患者のQOLと家族の不安
1.職業
訪問看護師
2.業務分類
在宅でのターミナルケア
3.施設内看護の年数
4.訪問看護の年数
5.経験内容
91歳の女性患者Fさんは、夫が戦死後、一人で二人の娘を育てるため病院の看護助手などをしながら生計を支えてきた。彼女は、脳こうそく後遺症のほか、狭心症と腰痛症を患っていた。また、原因不明の疼痛により、要介護5の状態が長く続いた。
Fさんは、痛みのため体を動かすことを拒み、体位交換も自分でできないほどADLが著しく低下した。内服液で痛みをコントロールしていたが、なかなかコントロールができなかった。そこで、デパス(脳神経系の薬)を処方したところ、苦痛のレベルは、5~8/10(10段階の5~8レベル)から0/10へと軽減された。しかし、夜・昼と眠っていまい、意思疎通もできない状態にまで意識レベルが低下してしまった。本人は「楽でよい」と半ば喜んでいたが、家族はこのまま話すことができないのではないかと不安を感じていた。そこで、看護師は医師と連絡を取り、デパスの処方は中止となった。
しかし、デパスの処方を中止してから、痛みは元に戻り、食事も手をつけることができなくなった。同時に、体力の低下や腹部・背部、陰部、大腿部付近にも浮腫(むくみ)の増強がみられ、徐々に悲観的な言葉が多く聞かれるようになってきた。慢性疼痛が抑うつ状態を引き起こしていた。
<まとめ>
この事例では、患者のQOLと家族の不安(意識レベルの低下)が折り合わず、後者を優先させたことにより、疼痛管理がうまくいかず、患者は最後まで苦しみ続けることになった。
6.出所
財団法人日本訪問看護振興財団(監修)、角田直枝(編集)『訪問看護のための事例と解説から学ぶ在宅終末期ケア』中央法規、2008年1月、p.134-149.