2008年5月のメッセージ

税金と罰金

世の中で分からないことが数多あるのですが、その中でも私が特に分からないのは『税金』と『罰金』の違いです。スピード違反や信号無視をすると、罰金が科せられます。犯罪には罰金が科せられるのは当たり前のような気がするのですが、この罰金で稼いだ収入が警察・国の中でどう使われているのか、よく分かりません。税収と同じように使われているのでしょうか。国や自治体の事業の予算は、国会や地方議会で決めます。でも、何人が何回駐車違反をしてそれによってどれだけの税金収入が上がるのか、そんなことは予算としては立てられないでしょう。罰金収入を予算化することは、違反を犯すことを期待(奨励)しているようで、妙です。駐車違反をしないような対策は事前に計画できますが、どれだけ違反してくれるかの収入のための計画は立ててはなりません。

税金なら初めから計画が立つかというと、これもまた無理です。景気によって所得・消費は変わります。猛暑かが来るか冷夏に終わるか、禁煙ブームが始まるかで酒税や煙草税の収入は、大きく変わります。それなのに、税金の『使い道』は先に決まります。税収があってから一年遅れて支出すれば、無駄も不足もないのですが、今の税制では収入の前に使ってしまいます。単年度会計制度だから、収入と同じ年に支出を収入と同じ額だけ使い切らなければなりません。年度末の道路の掘り返し(最近では歩道のタイル化と縁石の取り替え)は、日本の風物詩のひとつです。

煙草やビールの税率は、他の商品と比べて異常に高く設定されています。これらは嗜好品であって、贅沢品だからです。『贅沢は敵』というわけです。これって、罰金とどこが違うのでしょう。煙草は健康に有害であり、まわりの人にも迷惑を掛けます、だから税金を高くして喫煙者を減らすのだ、という政治家もいます。税金は罰金という発想です。それなら、煙草の販売を止めればいい。止めるべきです。でもそうすれば税収が減ってしまうので、煙草を吸わして『罰金』で稼ごうというわけです。煙草は嗜好品だから金持ちが吸うので、税金は高くてもいいと考えるのでしょう。しかし実際には、喫煙率は低所得者の方が高いのです。ビールも然りです。

所得税。これは国民の義務、罰金だとは誰も思わないと思います。しかし、日本の所得税は累進課税です。収入の多い人はそれに比例して税金が増えるのではなく、それ以上に税金が増えます。収入の多い人には貧しい人たちを助け、国を助けて欲しいとは思いますが、いまの制度は収入が増えれば増える以上に累進的に強制的に税金がかかります。スピード違反者には罰金が、喫煙者に高率の税金が、そして金を儲ける人にはより高い税金が科(課)されます。飲酒も金儲けも速度違反も、人として良くない行為である。だから高い税率を科(課)す。これでは働く元気が出ません。

間接経費。大学で国や企業から研究費を得ると、この呼び名のオーバーヘッドチャージが別に取られます。

この収入が大学で研究支援以外の他の目的に使われます。この「間接経費」の使途はしばしば、社保庁や防衛省、国交省での無駄使いと同様、いい加減になりがちです。苦労をして研究費を得た人達が使い道を議論するのではなく、執行部と称するところで使途が決められるからです。納税の苦労を知らず使い道だけを考える官僚と政治家が税金を無駄使いをするのと同じ構造が、大学にも見られます。

私は、参議院(昔の貴族院)の議員候補者を高額納税者にするのがいいと考えます。日本の高額納税の励みにもなるし、納税者の意見がもう少し反映されるのではないでしょうか。多数決の衆議院と多貢献の参議院が補完・相補的関係になり、いまの制度よりも互いの違いが明確になるでしょう。これに対する反論は簡単に想定できます。貧しい人たちはいい人で高額納税者は悪いことをする人、という偏見です。この偏見は良くないと思います。いまの日本の民主主義は多数決の暴力(J.R.スミス)の怖さを感じます。日本式の民主主義はマイノリティーを抹殺することであるということは、このメッセージでも繰り返し主張してきました。

ここで、やっと今月のメッセージの本論です。

ガソリンに非常に高い税率を恒久的あるいは暫定的に掛けるのはなぜでしょうか。道路特定財源であれ一般財源であれ、どうしてガソリンだけは税率が高くていいのでしょう。これもやはり罰金なのでしょうか。車に乗る奴は贅沢な奴、贅沢はいけない、だからガソリンは特別に高く罰金(税金)と取っていい、ということでしょうか。今、地方の鉄道は廃線となり駅数の少ない新幹線が走り抜けます。高速道路も増えてきています。地方では車は贅沢品ではなく日常の生活手段になりました。しかし、ガソリンには特別に高い税率を掛けます。

たった1kmに100億円以上の経費を掛けて立派な高速道路を山の中に造るのと、地方でバスを頻繁に走らせるサービスとでは、どちらがコストが掛かるのでしょうか。大蔵省出身で郵政民営化で議員になった女性政治家は、暫定税率を復活しなければ地方の零細の土建業者が悲鳴を上げると、テレビで話しておられました。土建業者の利益を考えて税金を取るという族議員の発想を、コイズミチュルドレンの女性政治家までが持っているとは、恐ろしいことです。運送業者や一般市民の悲鳴は無視して、土建業者だけの利益を公的なメディアで発言されるのは、彼女のためにも情けないことです。自民党の選挙対策委員長で道路族議員の重鎮は、地方自治体の長が困っていると発言されています。国民の声(70%が反対です)よりも、市長や知事の声が大切だと言うのです。フクダさんは、ガソリン税を「値下げしたら環境に良くない」と言われました。彼が本気で環境を心配するなら、ガソリンの販売を制限するべきです。 煙草税と同じです。総理大臣にとっては「税金は罰金」、「罰金で稼げ」という発想です。地域エゴでテカテカになっている元タレントの政治家は、「暫定税率を維持して自分の県に高速道路を造れ」と、強いメッセージを出します。日本式の金まみれの高速道路や新幹線を作るより、普通の道路を改良し在来線を改良した方が遙かに安く済むのに、高速道路が欲しいのです。誰が税金を払っているのかを忘れて、国民(納税者)の声を聞かないで、地域にばかり金を誘導する人気知事は格好良くありません。

日本の総理は、税金は罰金と考えているようです。どなたか専門家の方、税金と罰金の違いを教えてくださいませんか。税金とは何かを知らずして、税率の話について行けません。 SK

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