2016年6月のメッセージ

東海沖と南海トラフと活断層

今、羽田空港の函館行きのゲートの前でフライト出発の案内を待っています。時間は2016年6月16日午後2時40分。函館に震度6弱の地震が発生したとのアナウンスがあり、足止め状態になりました。今日は、熊本の地震からちょうど2ヶ月目です。熊本にもようやく仮設住宅が竣工しytsところでした。

5日前の6月10日、政府の地震調査委員会が今後30年以内に震度6弱以上の地震に見舞われる確率を示した予測地図(2016年度版)を発表しました。皆の関心事ですから、各紙社会面のトップ記事としてに大きく報道されました。今震度6弱で揺れた函館の30年以内に震度6弱以上の地震が起きる確率は、この予測では3%以下です。30年以内に3%どころか、発表の1週間後に震度6弱の地震が100%発生したのです。ここまでひどい予想は他には見たことがありません。国の機関が発表するので、一般の人々がそれを信じて命を落とすところが戦時中の大本営発表に似ています。

同じ発表記事では函館は3%以下ですが、横浜に30年以内に地震が起きる確率は81%、東京が47%です。千葉は85%、埼玉は55%です。要するに地震は首都圏に起きると断定しているのです。ちなみに静岡は68%です。この予想は2016年1月を基準にしているので熊本の震災の前の予測です。では、熊本市に30年以内に震度6弱以上の地震が起きる確率はいくらでしょうか。この発表によれば7.6%です。平然と新聞発表していますが、自分たちの予測はその後の熊本の地震でもって見事に外れましたという発表なのです。皮肉なことです。予測地図で安全とされた地域に地震が起きるだろうと予想した方が、むしろ正当確率が高いのです。

これまでの地震予知の一貫した信念は、「東海沖」に地震が起きるとする考えです。「南海トラフ」が危険だというのです。私に記憶のある限り、日本の地震予知は一度たりとも当たったことはありません。東海沖に地震が起きると繰り返しアナウンスしたことにより、静岡県や関東地方では地震対策が繰り返し行われましたが、それ以外の地区は安全とされて地震対策はあまり行われませんでした。現実には、1995年に地震確率0%の阪神地区に大震災が起こり、当時の村山首相の無関心とそれまでの対策不足もあって5千人の人が亡くなりました。その後も想定外の新潟・中越地方で地震が起こり、大きな被害を与えました。その次は、東日本大震災でした。2万人の人が津波にさらわれて命を落としました。今回の熊本の地震もまた予知されていない地域での地震でした。熊本ではとくに短期間の予知までも間違いました。本震前の揺れを本震だと考えて、その後に来るのは余震であると発表しました。そのために避難先から家に戻って翌日の本震で命を落とされた方が大勢おられました。

地震の予測は人の死の予測と同じです。私は自分の母がいつどんな病で死ぬかなど、予知できませんでした。たった数ヶ月前ですら、まさか彼女がそんなに急に死ぬとは思いませんでした。日常に世話になっていたお医者さんですら、全く予知しておられませんでした。早くに亡くなった父の場合も同様でした。人と同様に、地球もまた生きています。その地球のどこでいつ地震が発生するかは、人がいつどこでくしゃみをするか予知するようなものだと思います。人が地震という自然現象を予知できると思うなら、それは人の思い上がりです。自然とは強い相互作用の複雑系であり、人間如きには計り知れない難しさ、深さ、怖さ、尊さを持っています。その自然を予知できる人がいるとしたら、その人はかつては魔術師として神のごとくあがめらたものです。その多くはインチキでした。予知連の科学者や役所の方々も、自然に謙虚であるべきです。自然の前では人はちっぽけな存在です。横浜に30年以内に85%の確率で地震が起きるという人たちにアインシュタインの言葉を伝えたい。「神様はサイコロは振らない」です。神の行いを確率で予測することは神への冒涜であり、そして科学に対する奢りです。

私は地震に対して無策になれと言っているのではありません。むしろ、地震はどこにでもいつでも起こりうると考えて、東海沖だけに注意を向けるべきではないと言っているのです。明日にも自分の町に地震が起こると考えれば、数十年後に完成する堤防や耐震改修などは全くの手遅れだと分かることでしょう。十年後ではなく明日に地震が発生しても生き延びる避難対策を考えるべきです。地震予知に金をかけるよりも、建物が倒れても人が死ぬことなく脱出できる技術を開発するように発想を切り替えるべきだと思います。国は30年、百年、千年先に訪れる地震に対する対策にお金を使うのではなく、予想外の突然の地震から生き残るための対策にお金を使うべきだろうと思います。

東海沖にのみ関心を向けさせるのと同様、活断層に関心を集めさせるのも良くないと思います。地震が起きたら、そこは活断層があったと専門家たちが騒ぎます。しかし、事前にこの活断層に地震が起きますと予測して、地震が起こったことはありません。日本はどこもかしこも活断層なんです。活断層があろうがなかろうが、地震は起こってます。原発が活断層の上にあろうがなかろうが、原発には地震に対する安全対策は必要です。福島の原発の事故は津波がもたらした事故であり、活断層の上ではありませんでした。

大事なことは予測することではなく、解決することです。病気を仮に予知できても治す方法がなければ意味がありません。予知より治療方法の開発が大切だと思います。いつ地震が起きてもいつ家が壊れても、人が死なない家を開発することが大切だと思います。壊れない家を作るのではなく、人が死なない家です。いつ地震が起こってもそして仮に壊れても、放射能が漏れない原発を開発することにお金をかけることが大切だと思います。

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