2007年2月のメッセージ

納豆はダイエットに効くと思う、、、。

先日、バンコックの会議に招待されて行ってきました [1]。10年前に来たときと比べて、道路も町もタクシーもはるかに綺麗になっていました。開発途上国の進歩の早さにはいつも驚かされます。サイアム駅に直結したファッショナブルなビル群には高級ブランド店や高級レストランが並び、円安の国から来た私はその値段の高さと豊かさに、しばし呆然としていました。

ビルの裏に出ると、縦横に走る狭い路地に果てしなくトタン屋根の様々なお店や屋台が並んでいます。表通りの100分の1の値段の服や靴が、所狭しと積み上げられています。裏の路地を歩いて、やっと10年前の記憶が蘇ってきました。1月だというのに気温は35度、湿度は多分100%近く、屋台には虫が飛び回っていて、それを手で払って食べ物を売っています。いろんな種類の犬や猫が店の前で寝入っています。鶏は所狭しと走り回っています。こんな不衛生な環境にありながら、タイの子供達は元気いっぱいです。これこそアジアのパワーだと得心して帰国したら、不二家の食品が賞味期限切れの材料を使っていたとのニュースで騒然でした。私は、ちょっとしたカルチャーショックに陥りました。バンコックの露地裏で売られている食べ物には賞味期限のシールなど貼ってあるはずもなく、怪しげで不潔そうな食事を屋台で食べてみな元気に生きているのに、日本では賞味期限をたった1日超えただけの食材を使っていただけで、お菓子は全部処分されるのだそうです。ペコちゃんもさぞやへこんでいることでしょう。

ついこないだまでは、私たちの国もいまのバンコックとそんなに変わらなかったような気がします。賞味期限のラベルなどは無く、口にして味がおかしいと思ったら捨てていたと思います。賞味期限の表示が当たり前になっても、少々賞味期限が過ぎていたからといっても捨てるのは「もったいない」と言って、食べていたんじゃないかなと思います。逆に期限前でも妙な味がしたら食べませんでした。ラベルよりも自分の舌を信用したのです。

賞味期限やJIS規格等、国や協会の権威が決めた期限や規格を、私は頼りにしません。いま日本中の大学や学校で耐震補修工事が行われています[2]。耐震に必要な建物の基準は0.6以上なんだそうです。0.6以上なら大丈夫で、0.6以下なら阪神大震災級の地震がきたら建物は倒壊するそうです。ほんとうかなあ?誰がどうやってこの値を決めたのか知らないけれど、こんな数字を頼りにしていいのでしょうか。地震はこんな値お構いなしに建物を壊すのでは?逆に、この値より低くて問題になった耐震強度偽装のマンションは、あちこちで地震があっても一棟も倒壊していません。

日本人は、いつの頃からか自分で自分の危機管理をしなくなり、国や協会などの権威が決めた規則や新聞やテレビ局が騒ぐことを、無条件で信じるようになってしまっています。新聞が「あの会社はいい会社だ」と書くと、学生はこぞってその会社に就職しようとする。テレビで「あいつは悪いやつだ」と騒ぐと、その人を悪い人だと思ってしまう。研究者は、有名な学術雑誌に掲載された論文の内容を、正しいと信じる。私はひねくれていますから、自分で確認して納得するまでは、人の言うことや書いたものを信じません。権威ある学術誌に掲載された論文であっても、その内容を信じることは全くないし、国の規格や保証だって当てにしません。教科書だって、しばしば疑います。自分の舌とか眼とか耳を頼りにし、自分の頭で理解して納得したことだけを信じます。自分自身のこれまでの経験と勘を、もっとも大切にします。流行っているサイエンスやテクノロジーも、誰かが意図的に流行らせているのではないかと疑い、自分自身で考えて納得しない限りは、それが優れているとか将来性があると安易には思いません。

不二家事件に続いて、「あるある大事典」の捏造疑惑が大騒ぎになりました。「納豆を食べればダイエット効果がある」という番組の内容を皆が信じて、スーパーで納豆が売り切れたとか。ところが、ダイエット効果の科学的根拠はなかったというのです。「公共の電波」だとか「公正な報道」だとか叫んで、ホリエモン攻撃をしたあの「フジテレビ」が番組捏造をしたものだから、報道のモラルにまで議論が発展しています。私は、テレビなど所詮視聴者が喜ぶように「嘘」でも「やらせ」でも何でもやりうると思っていたので、こんな騒ぎになるのは不思議で仕方がありません。

もし納豆がダイエットに効くという番組が許されないなら、「青汁」健康法の番組はどうなるのでしょうか。コラーゲンで美しくなる、コンニャクを食べたら痩せる、寒天ダイエット、ピンクグレープフルーツのダイエット効果、怪しげな番組はいくらでも「あるある」大事典です。「血液さらさら」なんてのもひどい詐欺だと思うし、最近は「緑茶成分」の抗癌効果とか肥満防止効果っていうのもあります。「化粧品」はほんとうに女性を美しくするのでしょうか。マルチビタミンも妙です。でも、みんな分かって騙されているんだから、目くじらを立て無くったっていいじゃあないですか。

私は、納豆を食べる人にはきっとダイエット効果は出ると思います。美白化粧品を使う人も、きっと白くなるだろうと思っています。

納豆にダイエット成分があるかどうかは、分かりません。しかし、ダイエットや美白にお金を使って痩せたいとか綺麗になりたいと熱望する人たちは、決して大食いをしないだろうし日焼けに気を遣って肌を大切にするだろう、と思うのです。ダイエット効果や美白効果を科学的な証明はとても困難ですが、統計的な結果は得られます。寒天ダイエットをした人のウエストはしなかった人よりも何センチか細くなった、という類です。でも、痩せたい人は大食いはしないので、痩せたと言ってもそれが納豆を食べたからとは限りません。昔、味噌汁には癌予防効果があるという話がありました。味噌汁を飲む人の方が飲まない人よりも癌発生率が低かったのです。でも癌とみそ汁の因果関係は証明されていません。むしろ味噌汁は塩分が高くて、良くないという逆の話もあります。味噌汁を飲む人が癌にかかりにくいのは、味噌汁を飲む人が和食党であって、カロリーが高い洋食を好まないからなのかもしれません。それでも、ダイエットできればいいじゃないですか。私は、納豆はダイエットに効くと思います。みなさん、納豆を食べて下さい。

追記:ところで、私は生まれてこれまで納豆を一粒も食べたことがありません。関西人の私にはあれは食べ物だと思えないのです。糸を引いて気持ちが悪い、汚ならしくて食べ物に見えない、臭ってる、ゴミ箱の臭いがする、貧しそう、納豆を食べなくても死なない、、、、言い出せばきりがありません。でも身体にいいしダイエットには効くと思いますので、皆さんはしっかり納豆を食べてください。SK

[1] 町はクーデターの直後とは思えない落ち着きぶりでしたし、会議も1年間タイの研究者たちが準備したとおりのプログラムで進み、クーデター後に新しく就任したばかりの科学技術大臣が、タイのナノテクノロジーとバイオテクノロジーへの国の支援政策などを説明されました。大臣は品が良く知的でハンサムで、完璧な英語を話し科学への造詣も深く(ついこないだまで科学者であったそうです)、日本のいまの文部大臣や科学技術担当大臣のおふたりと思わず比較してしまいました。

[2] この国主導の耐震工事というのは曲者で、土建業に仕事を与えるためだと私は思っています。もしほんとうに危険なら人の命が掛かっているので、直ちに工事をするべきです。でも阪大では10年計画で耐震改修をしています。今後10年間は地震が来ないのではなく、10年間毎年土建業者に仕事を与えるのが目的だろうと思います。少子化で学校の新規建設工事が無くなったので、耐震工事という仕事を作ったのだろうと思います。教育そのものに金を使わず箱ものに金を使うのは、悲しいかな役人の発想の限界です。それに一緒になって改築計画の図面を嬉々として描く教授達の姿には、教育よりもお金に群がる人の空しさを見ます。

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