2013年7月のメッセージ

群れるーネットワーク

少し前のこと、大学時代の同級生があることで私を祝ってくれるために会合を開いてくれました。そのときの挨拶で、私に会合を断わられるんじゃないかと思ったと言われました。河田君は群れるのが嫌いだったから、とのこと。そんな風に思われてたんだ。別の機会。別の同級生と飲む機会がありました。何十年ぶりのことです。河田君はカラオケが嫌いだったよねと言われました。学生の時にカラオケなどなかったはずですが、その時からそんな風に思われてたんだ。団体行動ができない人と見られていたようです。

ところが最近、学生たちに「Effective Scientist Life through Network Making」というタイトルで、アジアの学生たちのシンポジウムで講演を頼まれました。学生さんたちには、私はネットワーク作りが上手だと思われているようです。確かに、私にはいろんな職業やいろんな立場の友人が多いように思います。「平成洪庵の会」や「科新塾(科学者維新塾)」を創設し、学内にも機構やセンターを創り、会社も起業しており、仲間が多いと思います。私のネットワークは広いのでしょう。科学者の世界でもアメリカやイギリスなどのいわゆる先進国はもとより、発展途上国にも信頼できる親しい友が大勢います。

群れるのが苦手なのか、ネットワーク作りが上手なのか、どっち?

昔の仲間が指摘するように、私は集団行動が苦手だと思います。臨海学舎や林間学校、修学旅行、この類いは面倒でした。知らない人が大勢いる宴会やコンパに行くのは、非常に気が滅入ります。2,3人でカウンターで飲む方が好きです。皆はあまり信じてはくれませんが、、、。

最近になって、この気性は科学者に向いていると気づきました。いつもいつも大勢と一緒に仲良く行動していては、独自の新しい科学は生み出せないのです。科学とは個人の頭の中から生まれます。他の人と同じことを同じように感じていては新しい科学は生まれず、科学は進化しません。皆が当たり前だと思って納得していることを否定したところから科学は生まれるのです。一人山にこもり、社会から隔離したところから科学は生まれると思っています。だから、私は共同研究だとか産学連携だとか何とか連携の類はすべて苦手です。それなのになぜ産学連携の拠点長をしているのかと叱られそうですが、私のやり方は一人で産業と学問の両方をやり、一人で物理と化学と生物の壁を無視して科学を創ることです。

科学者とは、変人・奇人です。

私の好きな標語は「赤信号みんなで渡れば怖い!」です。「長いものには巻かれるな!」というのもあります。科学者の正義とは民主主義ではなく、たった一人の抵抗であると信じています。人があり得ないと言うこと、人ができないと言うこと、人が間違っていると言うことを、一人で実証してみせるのです。

でも、実際には先生のネットワークは広いじゃないですか、と言われます。私は、人見知りというわけではありません。人が大好きです。ただ、人が多数になって組織となり、その一人一人が見えなくなったときに恐怖を感じるだけです。一人で言い出した企画に多くの人が共鳴をしてくれれば、結果としてネットワークができます。一人で言い始めた科学を多くの人が認めてくれれば、結果としてネットワークができます。

今、ドイツのBad Honnefという小さな町にいます。ドイツのどこなのかよくわからないけど、フランクフルトから電車で2回乗り換えて着きました。多分200人ぐらいの会議です。講演会場も食事も宿泊も同じ建物での、全員泊まり込みの会議です(会場の写真をご覧ください。元女学校だという古いお化け屋敷のような建物です)。知っている人はほとんどいません。日本人は私一人だけです。私の世代も私一人だけです。私がとても苦手とするパターンです。だから実はこの会議に出席するのは憂鬱でした。このようなあまりに、私はいつも登校拒否症になります。

しかし、会議では朝食から深夜の飲み会まで全員が同じ建物に暮らすので、お互い親しくなります。私も、いろんな国からの世代の異なる友人が大勢できました。ネットワークが構築されたのです。

私は、この会議の直前には白浜で研究室のサマースクールに、さらにその前には淡路島で科新塾のサマースクールに参加しました。合宿が苦手だといいながら、私がこの3つの学校に参加したのは、なぜなんでしょう。

私は赤信号をみんなで渡ることはできません。集団行動が苦手です。だけど人見知りではありません。いろんな人とネットワークを構築しています。この指止まれ、と手を上げれば仲間が集まってきます。新しい科学を生み出して論文で発表すれば、自然と多くのフォロワーが集まります。思うことを今月のメッセージに書き続ければ、知らない人からたくさんのメールをいただきます。この国を変えたいとの思いで塾を始めれば、大勢の仲間が集まってくれます。ネットワークとは結果だろうと思います。

追記:先月のメッセージに書いた「選挙に行こう:参議院のここだけの話」の討論会は、残念ながら成功とは言えませんでした。大学生が千人ぐらい集まって大騒ぎになるとの思惑は外れて、集まってくれたのは私のネットワークの学生二十数人だけ。信号機が壊れているのに、誰も渡れないのです。参議院とか選挙とかの話をする奴はKYな人だそうです。周りが引いてしまうのに空気が読めないんだそうです。空気を読めない人は友達を無くして、ネットワークには入れない?そんなネットワークには入らなくても大丈夫。自分で手を挙げて、ネットワークを創りましょう。

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