2007年8月のメッセージ

月光仮面

私はビートルズとローリングストーンズの時代に青春を生きたので、演歌は全く理解ができず、不気味なうめき声にしか聞こえませんでした。その中でも森進一さんの歌い方は特に苦手で、本人は気持ち良く(悪く)うなっておられても、私にはただただ不気味に聞こえます。ところが、その森進一さんの「おふくろさん」という曲を書いた86歳の作詞家・川内康範さんが、あの月光仮面の原作者(主題歌の作詞だけでないんです)であることを、最近のお二人の騒動の中から知りました。これには私も大混乱です。正義の味方「月光仮面」は、子供の頃からの私の憧れだからです。「♪どこの誰だか知らないけれど、誰もがみんな知ってる~~」、どっちやねん、と突っ込みたくなるいいセリフ。「♪♪月光仮面のおじさんは~~」ええ?月光仮面は「おじさん」なんや、とまた突っ込む。少年の憧れのスター月光仮面を「おじさん」と呼んでしまう川内さんの感性に、「おじさん」連は思わず「ありがとう!」。

遠山の金さんや水戸黄門のようにドラマの後半で権力者としての素顔(入れ墨、印籠)を見せびらかすのこともなく、必殺仕掛け人のようにこそこそと闇に隠れて仕返しをすることもなく、正々堂々と現れて悪と闘い弱きを助ける月光仮面のおじさんは、自由で大胆です。しかも自分が誰なのか(私立探偵、祝十郎です)を明かさない。スーパーマンのクラークケントやスパイダーマンも名を明かさないのは同じですが、月光仮面の「おじさん」は空も飛べず壁にも上れず、それでいて謎めいていてカッコイイ!

カッコイイといえば日経新聞8月6日のコラム「経営の視点」に、「我々が戦う相手はソニーやマイクロソフトなどのライバルではなく、消費者の『無関心』だ」と任天堂の岩田社長が述べたと書かれてありました。その通り!さすが成功する会社は、カッコイイことを言う。任天堂やアップルのまねをしているソニーとマイクロソフトの人たちの反論を聞いてみたいものです。

先月、金沢の産業創出支援機構という組織に招待されて、「医療・バイオの進歩は機械産業が担う」というタイトルで講演をしてきました。参加者は北陸3県の機械産業の人たちで、最後のQ&Aの時に「新商品開発はお医者さんとの共同研究から生まれるのではなく、むしろ患者さんとの共同研究から生まれます。患者さんが内視鏡が太くて辛いと訴えれば細い内視鏡を作れば売れるし、電極に繋がれるのが嫌だと言われればワイヤレス機器を開発すればいい。」とお話したら、これまでお医者との共同研究のつきあい方に悩んでおられた医療機器開発の方々から「勇気づけられた」と言っていただきました。商品は消費者が買ってくれるのですから、お店よりも消費者の関心が一番大切です。治療はお医者さんではなく患者が受けるのですから、患者の関心が一番大切です。教育は先生ではなく学生・生徒が受けるものですから、学生・生徒の気持ちが一番大切です。

大学では最近ファカルティーデベロップメントと称して、学生の声とは別のところで教育指導が成されています。教育再生会議も然りで、古い時代に教育を受けた人や、特異なキャリアを経た先生(ついに今回、参議院議員にまでなりましたが)とか、現在の世の中の「普通」の教育現場を知らない人たちがいろんな提案をします。しかし、それぞれの方の思いこみはあっても、そのどれもこれもが現場知らずのピント外れの提案なので、世間での評判は良くありません。自分の子供たちすらずーっと昔に学校を卒業してしまい今の教育現場を直接知らない人であっても、漫画やゲーム機に熱中したことのない「おじさん」「おばさん」であっても、もっともっと生徒や学生や現場の先生の親の悲鳴や不満をよく聞けば、もっとカッコイイ提案ができる筈なんですが、残念です。

それにしても、この国はなぜつぎつぎとこうカッコ悪い人が出てくるのでしょう。ばんそうこうを貼ってヒゲも剃らずに記者の前に出てきてその説明ができない大臣とか、「原爆はしょうがない」と言ってしまう防衛大臣とか、「女性は産む機械」と言う厚生大臣とか、還元水のウソで自殺してしまう大臣などなど、どれもこれも不格好すぎます。「♪疾風のように現れて疾風のように去っていく月光仮面」のように、引き際はもっと格好良くしましょう。

中でも一番カッコ悪かったのは、「皆さん、お力をお貸しください」と絶叫していた総理大臣ですね。「票」をくれというために『お力』なんて時代がかった言葉がでてくるのは、有権者に媚びているつもりなのでしょうか、ひどく慇懃無礼に聞こえます。「国民の皆様との『お』約束」と繰り返しされるのも、お仕着せがましくかっこ悪いですね。国民は、あなたとそんな「お約束」などしていた覚えはありませんよ、と言う気になります。総理大臣にはもっとカッコイイ演説をして欲しかったですね。

「その時の大臣が誰だったか知っていますか、菅直人さんですよ。」とか「皆さん、私と小沢さんのどちらをを選びますか?」とか、どれもこれもカッコ良くない。「いたずらに不安を煽るだけだ」と言って、年金の質問を封じてしまうのも、役所的に冷たくてカッコ悪い。月光仮面の歌の2番には「♪♪どこかで不幸に泣く人があれば必ずやってきて、、、」と言うフレーズが出てきます。これがカッコイイのです。

月光仮面は、強きをくじき弱きを助けるのです。野党を攻撃したり国民を小馬鹿にしたり学校の先生をいじめたりするくせに、アメリカにはぺこぺこで何でも言うことを聞いて謝るし、官僚や大臣などの権力者を守ろうとするのは、カッコ悪い。実に悲しいことに、私の勤めている大学でも、『大学を守るため』との言葉の下に一生懸命学生や教員のために働く有能な非正規雇用の職員の首切り(クーリングオフと言います)を始めました。一度本気でみんなで「月光仮面のおじさあ~ん!」と助けを呼んでみましょうか。ひょっとしたら、月よりの使者・月光仮面は私たちの近くにいるのかもしれません、、、なんてね。SK

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