2016年11月のメッセージ

The times, they are a changin'


先月述べた様々な研究助成や国のプログラムの採択と異なり、ノーベル賞は誰が選んでいるのかが不明です。評価基準も分かりません。ですからノーベル賞を予想しても、滅多に当たりません。それだからこそノーベル賞は、話題性が高いのでしょう。だれも予想しなかった人が受賞されると、世の中は大騒ぎになります。今年のBob Dylanの文学賞受賞もそうです。受賞者の予想と期待感が加熱すると、審査委員会はわざと冷や水を浴びせるのでしょうか。


ボブ・ディラン60年代のフォークソングのリーダーです。村人たちが歌うフォークソングではなく、カントリー&ウエスタンから発展した若者のポピュラー・ソングでした。アコースティック・ギターとハーモニカで語りかけるように歌います。Blowin' in the Wind(風に吹かれて)」に代表されるように、体制に対する若者のメッセージ・ソングです。しかし彼はこのようなプロテスト・ソングを2年ほどしか作っていません。フォークソングにプロテストしたかのようです。アコースティック・ギターも捨ててエレキ・ギターで「Like a Rolling stone」と歌ったのも、皆の期待に対するプロテストだったのかもしれません。


さて、ボブ・ディランのどの曲がノーベル賞審査委員の心を打ったのでしょう。たとえば先に述べたLike a Rolling Stoneはとても詩的です。彼の曲は韻を踏んでいるとの評論を見ましたが、音楽においては普通のことでしょう。John Lennonは「Revolution」でrevolution, evolution, destruction, solution, contribution, constitution, institutionと韻を踏み続けます。桑田圭祐さんも多用しています。


アルバムのタイトルで曲のタイトルでもある歌を思い出しました。


The times, they are a changin'


反戦歌です。1964年に発表されました。当時、アメリカはベトナムで戦争をしていました。私が高校生・大学生の頃には、アメリカの学生達も日本の学生達も戦争反対を訴えて、デモ活動をしていました。彼らは、ボブ・ディランの曲に影響を受けていました。サイゴン陥落という形でベトナム戦争がようやく終結したのは1975年、私はすでに大学院生でした。


The times, they are a changin'」。ジョン・バエズやPPMなど多くの人がこの曲を歌いました。日本でも高石ともやさんが「時代は変わる」と訳して、中川五郎さんが歌いました。フォークソングの多くは特定の歌手の曲ではなく、みんなの歌でした。ジャズと同じです。


さて時代は変わって、ボブ・ディランがノーベル賞を受賞した今年、イギリスは国民投票でEUからの離脱を決めました。コロンビアは革命軍との和平交渉をやはり国民投票で否定し、フィリピンではDuterteさんが大統領に選出されました。アメリカでもDonald Trumpさんが大統領になります。争いごとは止めてみんな仲良く世界平和を目指しましょう、という時代は終わったかのようです。まさに、The times, they are a changin' です。


トランプさんはAmerica Firstといっています。私が子供の時、アメリカはずっとベトナムに行って戦争をしていました。その後も、中東に行ってたくさんの戦争をしました。かつては、太平洋・東アジアまで来て戦争をしました。世界の警察を自負していました。トランプさんはそれを辞めようというのです。右翼の代表のようなトランプさんが左翼の憧れのディランさんと同じことを言っています。時代は変わります。しかし日本のメディアは、この変化に悩んでいます。EUという統合は間違っていたのか、革命軍との和平は間違っているのか、麻薬犯罪者を射殺することは正しいのか、国民が国民投票で選択することは正しいことなのか、、、。


いまの変化はこれまでのグローバル化への反発のように見えます。ヨーロッパを一つにまとめるのではなく、多様化させろと要求しているように見えます。グローバル・スタンダードとは、世界中で皆が差別なく同じコカコーラを飲むことができて、同じ味のマクドナルドを食べれることなのかもしれません。しかし、私は全国展開するチェーン店での食事は好きではありません。そのお店でだけしか食べられない小さなお鮨屋やビストロが好きです。同じ味は退屈です。


時代は変わります。オバマさんは「Yes, we can」と言いましたが、上から目線だったかもしれません。自分たちが時代を変えることができる? ボブディランは「為政者やマスコミ等、人が時代を変えるのではない。時代が変わっていくのだ」と言いたかったのです。時代がイギリスのEU離脱を促し、ドゥテルテさんやトランプさんという人を生み出したのです。そう考えると、ボブ・ディランのノーベル賞も悪くないなあ、と思えるようになってきました。そういや、トランプさんが選挙に勝った後、株価も為替も絶好調です。


中島みゆきさんは「時代」は回ると唄いました。テレサ・テンさんは時の流れに身をまかせて、沢田研二さんは時の過ぎゆくままに堕ちていくと唄いました。時代は流れ流れて、人々と社会を変えていくのかもしれません。私たちは時代と言う乗り物に乗ってそれを眺めているだけなのかもしれません。


2016年11月25日、キューバの革命家で議長のFidel Castroが亡くなりました。本土から遠く離れた中東・アラブ、ベトナム・朝鮮そして日本にまで来て戦争をしてきたアメリカは、その喉元のキューバとは戦争をしませんでした。カストロさん、お疲れ様でした。ケネディー大統領が亡くなって53年です。合掌。


The times, they are chainging.


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