2014年8月のメッセージ

インフェルノ

日本の人口が減り始めています。若者の数が減ることはすなわち子供を産む人の数が減ることであり、次の世代の子供の数はさらに減少します。2040年には、なんと日本の自治体の半数が消滅すると言う報告もあります。

それは、天下の大問題! というわけで、人口維持のためのさまざまな政策(無駄使い?)が提案・実施されています。

しかし、私たちが住むこの星の本当の人口問題とは、人口減ではありません。

いま地球の人口は、爆発的に増加いています。私が大学に入学した頃は総人口が35億人ぐらいであったのに、今では70億人。倍増です。この地球にドイツと同じ規模の人口(8千万人)の国が、毎年一つずつ増えている勘定です。その数は指数関数的に増加しています。これだけの人たちが安全に生きていくための清浄な水、食料、天然資源、エネルギーは、地球上にはありません。さらに人口が増える近い将来には、全ての人が生きることはできなくなります。だからといって、人口を抑えることはなく、エネルギーを節約する政策もありません。テレビは24時間放送、自動車会社は売上げ競争を続けて、エネルギーを浪費します。原子力発電は使わないと言いつつも、火力発電に加えて太陽光パネルや風力発電、シェールガスなどの代替えの新エネルギー源を探します。環境を破壊しつづける政策です。再生医学や高度治療、在宅治療などのライフサイエンスとヘルスサイエンスに科学技術予算を集中させて、老人人口を増やします。アメリカでは医療費の6割は、余命半年以内の人たちのために使われているそうです。日本では統計がないので分かりませんが、もっと酷い気がします。

この人口爆発問題を、日本政府やマスコミはどう考えているのでしょうか。

限られた地域において特定の動物が増えると、彼らが必要とする食料(餌)が足りなくなりその結果としてその種が絶滅してしまうことは、自然科学の世界でも複雑系数理学の世界でもよく知られることです。繁殖性の高いネズミの一種であるレミングが周期的に集団で自殺(事故死)するのは、人口(ネズミ口?)をコントロールして種族を守るためではないかといわれます。自制がない種は繁殖を続けてえさを食い尽くして、絶滅せざるを得ません。戦後に極端な植林をした日本の森は、「間伐」をすることが追っつかずに荒廃しています。人口が急増する地域・時代には疫病が発生し、戦争が起きます。伝染病や戦争も、人類という種を残すための神による「間引き」なのでしょうか。

「ダビンチ・コード」、「天使と悪魔」のダン・ブラウンが、この人口爆発問題を題材に小説を発表しました。またあのロバート・ラングドン教授が活躍します。主題はダンテの『神曲』、舞台はベニスです。10年前の今月のメッセージでは、「ダビンチ・コード」の発刊日に本屋さんに買いに行った時のエピソードを書きました。彼の小説はマイケルクライトンほど直裁的ではないけれども、エンタテイメント小説でありながら国家権力や科学者、環境利権団体への皮肉めいた内容が含まれていて、痛快です(ラングドン・シリーズはそうでもないですが)。今回も考えさせられること、大です。

最新作「インフェルノ」は初版を買ったものの、半年ほど読み遅れました。この半年、内外の様々な学会の手伝いをしていて本すら読む時間がありませんでした。以前に「夏が教授の師走」ですと書いたとおり、今年の夏もブラジルに2回、アメリカに1回、中国に1回、北海道に2回(これも海外)に出かけて、いくつもの講演とたくさんの議論をしました。移動時間も書類に目を通して会議の準備をして頼まれ原稿と研究論文を書いていました。仕事が年々、倍増している気がします。これでは、私自身が絶滅します。まもなく来る定年の日が絶滅の日にならないように、その後も自分の経験が社会に活かせるように、仕事を間引きしたいと思っています。と言うわけで、このメッセージもかなり遅れがちに書いています。

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