受賞の対象になった研究は「分数電荷励起を伴う新しい量子液体の発見」。すなわち分数量子ホール効果の発見(Stormer, Tsui)とその理論的解明(Laughlin)に対しての授与。ノーベル賞というと普通は自分には関わりのないことだけど、今回はとても身近に感じ、大変うれしい。なぜなら、私自身の学位論文のための研究も量子ホール効果に深く関わっていたし、彼らの名前と仕事にはとてもなじみが深いからだ。しかも、Stormer, Tsuiが最初にこの発見をしたのは、1981年の夏、MITの強磁場施設 Francis Bitter Magnet Labの実験室 Cell 8だったが、私自身も1992-1995の間この同じCell 8で日々実験にはげんだ、という経緯もある。自分が日々実験に励んだ同じ実験室からノーベル賞につながった発データが出たというのは、ちょっとうれしい。
今回の受賞で残念なのは、Tsui, Stormerの共著者で、実験に用いられた試料を作成した A.C. Gossardが受賞から洩れたこと。3人までという制限があるから仕方ないけど、当時 Gossardグループが作っていた世界最高レベルの量子井戸試料があったからこその発見だった。少し悔しい、というのも私が測っていた試料はすべて Gossardによって作られた量子井戸で、彼とは話をしたこともあるし私の論文の共著者でもあるからだ。「測った人」が受賞して、「試料を作った人」が 受賞しなかったのは整数量子ホール効果で受賞した von Klitzingの時と全く同じ。
とはいっても、物性物理、しかも半導体物理からノーベル賞が出たことはとても良いことだと思う。トランジスタ(Bardeen, Brattain, Shockley)、トンネルダイオード(江崎)、前述の von Klitzingについで4つ目。次はいつだろうか?(当分ないか・・)
ノーベル化学賞の一人は理論物理学者の Walter Kohn.「何で化学なの?」と誰もが思うぐらい物理屋だったら実験屋でも知っている名前だと思うけど、Onsagerも化学で受賞したような気がするから、時々起きることなのかもしれない。