沖縄の乱 燃える癒しの島
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土屋 洋 VINEメンバー
沖縄の怒りは政府と本土の日本人に向けられている
2016年11月23日
本書のタイトルに注目したい。反乱の「乱」である。その反乱の相手は日本政府であり、本土全体である。いまや沖縄は左翼だけでなく経済界や保守も巻き込んで決起している。「これまでの闘争とは明らかに違う」と著者は言う。普天間基地撤去にからむ辺古野基地反対闘争が基地全廃へと舵をきりつつあるのだ。70年に及ぶ住民の忍耐が限界に近づいている。
米軍統治の時代から40年にわたり琉球新報の記者だった著者による書き下ろしである。2009年の民主党政権樹立から現在までの沖縄をめぐる政治を主に扱っているが、基地の成立事情にも当然触れている。
唯一の本土決戦となった沖縄戦では住民10万余が犠牲になった。米軍の沖縄占領後にすべての住民と捕虜となった日本兵は収容所に入れられた。その間に普天間基地は造られたのである。他の基地は銃剣とブルトーザーで住民を追い立てて建設された。そして70年間返還されない。これは国際法にも反することである。1万2000人の米兵士の命を代償として得た貴重な「戦利品」あるが故に、沖縄は米軍が自由に使っていい土地になった。その後、日米政府は沖縄の基地を「地政学的見地」と「抑止力」から不可欠としている。したがって米軍基地や米兵が起こす様々な問題も「我慢せよ」と突き放している。地位協定が日本国憲法に優先するからである。
鳩山首相の普天間基地の代替地を「県外に」との方針(これは以前からの民主党の政策であったが)は米政府と官僚の力で潰されたが、この時に「引き受けてもいい」と声を上げたのは橋下大阪府知事のみであった。候補地に上がった徳之島などの地域では大規模な反対運動が起こった。それを見た沖縄県民の失望は大きかった。その後の県知事選、那覇市長選、衆議院選、参議院選にことごとく基地反対派が圧勝しても、政府の辺古野における新基地建設は進んだ。それに応えて県民の意識は、辺古野基地反対から全基地撤去へと向かっている。
戦後70年間も戦勝国の軍隊が占領国に基地を置き続けた例はない。ドイツでもイタリアでも米軍はとっくに撤収している。フィリピンは憲法を変えて米軍を追い出した。日本における米軍基地の現状は「わが国は独立国なのか」と自問せざるを得ない。県民の怒りを痛いほど感じながら本書を読んだ。その怒りは日本政府だけでなく本土の日本人にも向けられていることを私たちは理解しなければならない。
★一つ減は既知のことが多いからであり、本書のせいではない。