連載〈SOKAの現場〉 ルポ・変わりゆく社会の中で㊤
訪問・激励に歩く淀縄聡さん(地区部長)㊧と藤田克英さん(支部長)
創価学会員の「価値創造の挑戦」を追う連載「SOKAの現場」では、取材ルポと社会学者・開沼博氏による寄稿を掲載する。今回からのテーマは「変わりゆく社会の中で」。研究学園都市である茨城県つくば市には、最先端の研究を担う学術部や医療に従事するドクター部のメンバーが数多くいる。科学や医学の発展に尽くす友が、なぜ信仰を選び取ったのかに迫った。(取材=掛川俊明、加藤伸樹。ルポ㊦は後日掲載予定)
淀縄聡さん
■わずかな空き時間を見つけては、訪問・激励へ
「最近、血圧はどうですか?」
地域の壮年部員宅を訪問する淀縄聡さん(地区部長)が声をかけると、農作業をしていた壮年が手を止めて答えた。
「だいぶ調子が良くて、畑仕事もこの通り!」
淀縄さんは、個人医院の副院長。しばし、壮年と健康談議で盛り上がり、次のお宅に向かった。
勤務先の医院では、内科と外科の全般的な診療に従事。土日は訪問診療にも携わり、多忙な毎日を送っている。
それでも、わずかな空き時間を見つけては、壮年部員の訪問・激励へ。メールやLINEだけではなく、直接会って話し合うよう心がけている。
「訪問先は年齢も、話題もさまざまです。その中で感じたり、教えてもらったりしたことが、私自身が患者さんと向き合う時にも生かされます」
訪問した先では、何げない会話に笑顔が
学会員の妻と結婚した当初、淀縄さんには学会への偏見もあった。
転機は、12年前に息子が虫垂炎をこじらせたこと。正月だったこともあり、自分で手術を行ったが、状態は悪化。自然に回復するのを待つしかなくなり、何もできない無力感に打ちひしがれた。
その時、地元の多くの学会員から励まされ、初めて題目を唱えた。
「医師としては、何もしてあげられない。そんな時でも『祈ることはできるよ』と言われて、妙に納得したんです」
真剣に祈る中で、息子は無事に回復。その後、淀縄さんは、学会活動に励むようになった。
■協議会で飛び出す専門用語
筑波大学や気象庁気象研究所、JAXA(宇宙航空研究開発機構)の筑波宇宙センターなど、国や民間を合わせて約150の研究施設が並ぶ茨城県つくば市。
総人口約25万人のうち、およそ2万人が研究に従事する日本最大のサイエンスシティー(科学の街)である。
そうした地域柄、創価学会の組織にも、学術部やドクター部のメンバーが多い。淀縄さんが地区部長を務める地域の壮年部は、両部の同志が1割を占める。
日頃から国際会議や学会発表などで飛び回る友も多く、資料作成はお手のもの。オンラインの地区協議会でも、中心者がプレゼンテーションのように資料を画面で共有し、要点をまとめて伝える。
ある日の協議会。話題の中心は、未来部が楽しめる座談会の企画だった。
淀縄さんが地区部長を務める松代本陣地区の座談会。参加者がお薦めの書籍を紹介し合った(本年5月、つくば文化会館で)
参加者から、さまざまな案が出る。
「今日、医療者の勉強会で『ポピュレーションアプローチ』という理論が話題になって。これを未来部のメンバーとのコミュニケーションに当てはめると……」
時に専門用語が飛び出し、専門家たちの議論が熱を帯びていく。その内容には全くついていけなかったが、協議会の終盤、一人の女性部員が口を開いた。
「いろんな意見が出ましたが、未来部のメンバーに何をやりたいか、直接、聞いてみてはいかがでしょうか?」
この一言を聞いて、皆が「それが一番ですね!」とまとまった。
後日、開催された座談会では、高等部員の提案を受け、皆がお薦めの書籍を紹介し合う企画で盛り上がっていた。
■ひたすら音読し合う壮年部の勉強会
淀縄さんの地域では毎週日曜日の夜、支部の壮年部で小説『新・人間革命』のオンライン勉強会を行っていると聞き、参加した。
最初に指名された人が、2ページ分を読む。次の人が読む。その次も……。40分間、ひたすら音読し合って終わった。
この方式で、皆で全30巻を読み終え、今は2回目の第3巻まで、研さんが進んでいるという。
地域の女性部員に聞くと、「私たちだったら、もっとおしゃべりの時間を増やしたくなるところですが(笑)。仕事柄か、皆さん、学ぶことへの集中力がすごいんです」と。
この勉強会を主催しているのは、藤田克英さん(支部長)。日本最大級の公的研究機関で主任研究員を務め、100万分の1ミリ単位の微小な工業材料が、人や環境にどのような影響を与えるかを研究する。
「一生を懸けて突き詰めたい。そんな研究テーマを見つけることができて、夢のようです」
藤田克英さん
そう目を輝かせる藤田さんは、紆余曲折の人生を歩んできた。
民間企業で働いていた時に研究の面白さに目覚め、30歳で会社を辞めて大学院に進学。博士号を取得し、現在の研究テーマと出合った時は、40歳を過ぎていた。
この間、結婚し、2人の子どももできて生活は苦しかったが、藤田さんには貫いてきたことがあった。
「信心です。どんな状況でも、学会から離れないで心を磨いていけば、自分にとって一番良い道が開けると信じてきました」
45歳で現在の職場に採用され、今は研究のために海外にも赴く。
「研究者にも、さまざまな悩みがあります。自分の関心と異なる研究をすることもあるし、成果を出さなければ仕事も続けられない。私は遠回りをしましたが、人生を懸けて探究したいテーマと巡り合えて、その研究を行う仕事に就くことができました。信心の功徳を確信します」
■学ぶほどに納得した、仏法の深遠な生命観
学術部やドクター部の友は、それぞれ専門性も高く、物事を見抜く目も鋭い。そんな友が、なぜ信仰を選んだのか――。
「私は納得しないと気が済まないタイプ」と言うのは、1988年につくばセントラル病院を開設し、現在は理事長・名誉院長を務める竹島徹さん(副県長、関東総合ドクター部長)。
病院開設前は、大学の医学部で研究に従事。入会する前は、妻・紀美子さん(圏副女性部長)から信心の話を聞くたびに、「『医学を否定するのか』と怒っていたくらいです」。
そんな徹さんが紀美子さんに連れられ、座談会に参加したのは、50年ほど前のこと。
地域医療に尽くす竹島さん一家。左から妻・竹島紀美子さん、竹島徹さん、長女の夫・金子剛さん、長女・金子洋子さん
悩みや課題は多い。しかし、苦悩を抱えながらも、絶対に乗り越えてみせると決意を語る皆の姿が、輝いていた。前を向いて生き抜く心意気に圧倒された。
手にした「大白蓮華」をめくると、「色心不二」との言葉に目が留まった。心と身体は密接不可分であることを教える法理だ。
当時、徹さんは胃と脳の関係に注目し、心と身体の深い結び付きについて研究していた。
“私は生命の最先端を探究していると思っていたが、むしろ仏法者の方が、その実像に迫っているのではないか……”
その後も仏法の生命哲学を学ぶほど、その深遠さに心から納得し、自ら信仰の道を選んだ。
■「仏法は極めて科学的、理性的な信仰」
「私も仏法の哲理の奥深さを感じます。例えば、原因と結果が同時にそなわるという『因果俱時』は、量子力学にも通じるような法理です」
そう語るのは、アンドリュー・ウタダさん(地区幹事)である。
まいた種が芽を出すなど、通常、原因が結果となって現れるには、多少の時間差がある。
しかし、ミクロな量子の世界は違う。空間的に離れた場所にある二つの量子が「量子もつれ」という関係にある場合、片方が変化すると同時に、もう片方の量子にも変化が生じることが分かっており、注目されている。
アメリカで生まれたウタダさんは、信心に励む両親の元で育った。物理学を専攻し、世界屈指の学府・ハーバード大学大学院で博士号を取得。フランスやアメリカの企業で研究した後、生物物理学の研究者として2016年に来日した。
アンドリュー・ウタダさん
科学技術が発達した現代社会では、宗教というと非現実的なもの、冠婚葬祭といった儀礼的なものと捉える人もいる。“信仰は、科学や理性と相いれない”という考えも聞かれる。
しかし、ウタダさんは「仏法は極めて科学的、理性的であり、かつ現実を変革していける力を持った宗教」と語る。
「そもそも、科学も信仰のようなもの。実験で出た結果を重視し、その中で生まれた法則を信じるからです。仏法も法則です。その法則を信じて実践すると、必ず結果が出ます。それは科学者にとってインパクトがあり、十分に納得できるものです」
■研究と学会活動の両立――実践してつかむ納得
数理統計学の世界的な研究者で、国立大学で教授を務める久保川達也さん(県総合長、総茨城学術部長)にも、信仰でつかんできた実感がある。
20歳で入会し、これまで地区部長、支部長、本部長、圏長と、広布の第一線を走り抜いてきた。
その中で確信を深めたのは、「研究と学会活動の両立に挑戦することが、自分の力になった」ということだ。
研究は、孤独な中で真理を突き詰める作業でもある。
「研究で行き詰まった時は、自分の周りが苦しさで覆われてしまう。そんな時、学会活動に励むと、オアシスのような安心感と、頑張ろうという気持ちが湧いてくるんです」
久保川達也さん
また学会は人と関わり、人々のために生きようとする団体。
「その中で、もまれるから、新たな発想が生まれ、人間としての幅が広がる。教員として指導した大学院生も、私より立派な研究者に育っています」
これまで執筆した論文は約170本。世界有数の研究誌にも取り上げられた。
久保川さんは言う。
「学べば学ぶほど、仏法には思想としての説得力がある。でも、真の素晴らしさは、自分で実践して“ああ、本当にその通りだな”って、命の底から納得できることだと思うんです」
■「女性部の幸福博士には、かないません」
池田先生はつづった。
「日蓮仏法が説く『信』とは、どこまでも理性を重んじ、知性によって深められるものです」
「私たちは、妙法への信によって、仏の自在なる智慧を発揮し、さまざまな苦難を乗り越えていくことができる。その体験が納得と確信となり、さらに信を深めるのです。深まった信は、さらに広布への大情熱をもたらします」
それは、まさに取材した学術部、ドクター部の友の姿そのものだった。
その一人一人は、信仰を貫きながら、未来を変えるような研究に励み、人命を守るために汗を流す“知の最先端の人”である。
松代本陣地区の座談会
取材の折、そんな友の一言が印象に残った。
「いくら博士といっても、女性部の幸福博士には、かないません」
学歴や肩書などにとらわれない。社会的にどんな立場であったとしても、目の前の
人のために心を砕き、現実の人生の難問題に向き合う仏法者の行動。そこにこそ、本当の「信」と「知」の実践の姿がある。
互いに励まし合い、支え合いながら、それぞれの人生の高みを目指す――つくばの同志の温かなスクラムに、誰もが輝く創価の実像があった。
●最後までお読みいただき、ありがとうございます。ご感想をお寄せください。
kansou@seikyo-np.jp
ファクス 03-5360-9613
●「SOKAの現場」の過去の連載はこちらからご覧いただけます(電子版有料会員)。