歪冪筆

序章

 ここは可動エレベーター。


 「この下に”混沌”が…」


 「4次元アドレスの検知、深部に移動します」


 「不変の深淵」


 「”未定義”の検出」


 不明な魔物が襲ってくる。


 「この数…」


 「律動よ!」


 スオーノは律動に乗り未定義を消滅させる。


 「空間公理の崩壊」


 「警告、無風です」


 水中花照らす無風の海。


 「管理者権限取得」


 「上位クラス “歪冪筆の守護者”継承」


 「…」


 花が咲き着陸する。


 「クランリーダー命令は?」


 「下がっていろ」


 「ふっふふ」


 「ドライバーインストール開始」


 「テレキネシス」


 念力による筆の攻撃は命中した場所に花を残す。


 「システム、OS、この力は?」


 「不明」


 敵は減らない。


 「やあ弱きクランの者よ」


 「自らの身を守りたいならば取引をしないか?」


 混沌の反応はアイツからだ。


 「いや私は戦う」


 「その力もまた混沌の力」


 「強者が差し出した罠かもな」


 「契約しないのなら」


 「お前はここで消滅する」


 空間は空虚なる混沌に満たされる。

斬撃がくる。

私は消え…


 「ほう、まさか女神の加護を受けるとはな」


 !?


 「これは…?」


 「それは”終わりの杼”」


 「賢者が持つ”始まりの杼”の対なる物」


 「だが世界樹は混沌に飲まれ暗黒に閉ざされるだろう」


 「ふっふっふっふっふ」


 男は去っていった。


 「何だったんだ?」

第Ⅰ話

 不変の深淵


 「不明な生命体の検知」


 「警告無風状態です」


 「”意識”を維持できません」


 「”旋律の花”に移動します」


 菖蒲の花が咲いている。

風に揺れて菖蒲から朝露が落ちる。

このまま、この場所で…

菖蒲は枯れ、私は息苦しさを感じる。


 「警告”旋律の花”に異常が発生」


 深い深い海の中。

意識の外側は意思と思考の領域。

そして意思の外側が感情の領域。

感情は霊力となり、意思が念力となる。

思考は言葉となり呪いとなる。

呪いは魔力を織り魔法となって、

妖の妖力となる。


 …これは?

沈む私を照らすのは…

“終わりの杼”

杼は旋律の花に”印加”を行った。

杼から織機が作られ、糸が生まれ道ができる。

糸の場

 場とは理。

つまり世界の界。

世界は理の場と時空の世からなる領域。

錦織りなす糸の場を進んで、意識の領域にたどり着く。


 「あれは?」


 「大昔の話で言うと”竜”とか?」


 「いやそれは伝説の…」


 竜は”無風”の超能力を扱う。

第Ⅱ話

 空間を幽字が満たす。

幽字に接すると無風を受け、旋律の花は枯れる。


 「なに考えこんでるんだい」


 「アヤメ」


 「律動よ!俺たちを守れよ」


 律動は私を幽字から守る。


 「行きなよアヤメ」


 「ああ」


 終わりの杼と歪冪筆で連撃を放つ。


 「パイロキネシス!」


 竜は消滅した。


 「簡単簡単っと」


 「時空の歪みを検知」


 「なんだぁ、次から次へと」


 !?


 薔薇。

薔薇が咲いている。

半透明な薔薇が。


 「ここは?」


 木?

大きな木がある。

私は”回廊”を進む。


 世界樹の回廊


 「ここは?」


 「おや迷ったのかな」


 「誰?」


 「まさかお前が”継承者”になるとは」


 「その筆を持つ意味を理解できるかな?」


 「筆?」


 「ああ」


 「お前に幸福の知らせは来ないだろうな」


 シャトルを持った女が来る。


 「何をしてるのですか?」


 「おや”女神”が来るとは」


 「”女神”?」


 「ああ伝承に残る女神」


 「お前の街は女神によって守られているのさ」


 「それは過去の話ですよね?」


 「?」


 「今は”賢者”の管轄のはずですよ」


 「ふふっ」


 「むかしむかし、世界には大きな樹がありました」


 樹を守る女神がそこにいました。

ある日、世界に混沌が現れました。

混沌より樹を守るためある魔法使いが戦いました。

魔法使いは戦士と協力し、

女神と共に世界樹を守る”モンタニャ戦士団”となりました。

 一方、混沌の勢力は”暗黒世隊”を名乗り、

混沌は次々と勢力を強めていきました。

魔法を操る魔王、増殖を操る歪冪。

一方、戦士団もまた混沌に対抗するために武器を作りました。

雪は”幽六花”、歌は”旋律の花”、糸は”ベガの杼”となり、

混沌と戦士争う今日に至ります。


 凪はアヤメの代数の律動の歯車を渡し、

凪の宣言を遂行するためにアヤメの旋律の花を混沌へと誘う。

第Ⅲ話

 「今日は菖蒲と薔薇の吹雪となりそうだ」


 「それはどうでしょう」


 「俺1人でも管理者複数相手とか余裕だし」


 「逃げるぞ」


 「あいつらは?」


 「多分関わっちゃダメなやつ」


 「月華、面白い事になっていますね」


 「こりゃえらい事になってますなー」


 「賢者様ぁ、どうします?」


 「行くぞ」


 “???サイド”


 「貴様、自分が何をやっているのか理解しているのか?」


 「さあね」


 「かかれ!」


 “歪冪”は歪冪花を展開する。

“月の女神”は妖力から妖怪を生み出し、歪冪を狙う。

“時の男神”は別時空からエネルギーを吸収し、魔力に変換する。

“魚の女神”は魚を形成し文字から魔法を展開する。

“糸の女神”は魔力を絡めて歪冪を拘束する。

“星の女神”は巨大な魔法陣を形成する。

“雪の女神”は死の六花を形成し歪冪を覆う。


 「真面目に行けそうにないな」


 「お前らは時空を超えられない」


 「それはどうかしら」


 月の女神は”継承武器 -ルナの筆-“と剣を呼び出し、

“門”を開く。


 「待て」


 「今がチャンスよ」


 「おっと、考え事は良くないよ」


 世界樹は幽字に覆われた。


 「何事!?」


 「じゃあね、”信頼している友人”に気をつけて」

第Ⅳ話

 「人魚姫!なんとかならんか!?」


 「いや、”歌”の力は彼女が持っている」


 「”歌の女神”不在、やばいじゃん」


 「白霧、どう言う事?」


 「この世界(ラルガ・ベアヘ)において魂を癒せるのは歌だけ」


 「でも歌を操る存在がいない…」


 「おや、私が来るべきではなかったかな」


 「魔王!」


 「勇者不在の戦士団にできる事はない」


 「なんて事や…」


 人魚姫が…

連れ去られた…

人魚姫は水の王。

世界樹で管理者が集まった時、

それぞれの王に役目を任命したのだ。


 「あの後どうなっちゃうの!?」


 「混沌の拠点に連れてかれるだろうね」


 「なんかできる事ないの?」


 「私は…」


 触れれば凍ってしまいそうなほど雪のように美しい姫は言った。


 「”竜”で混沌に抵抗しようと思います」


 「”竜”って混沌の?」


 「ええ」


 「ダメでしょ!」


 月の女神は言った。


 「まあ、彼女に任せましょうよ」


 「そう言えば”オスクリダド(月の女神)”は?」


 「”星筆”を作るわ」


  星の女神(ドルミエンテ)は言った。


 「じゃあ私が”守護者”?」


 「いや」


 「星筆は勇者に使ってもらおう」


 「だから…」


 「勇者が守護者ね」


 「ところで…」


 時の男神は城門を開き、去っていった。


 「相変わらず分からんヤツだなぁ」