獣化のお面

序章

 「すみません、私は星筆に帰って良いですか?」


 「そうね、貴女は星筆を守護する者」


 「でも星筆は異なる時空に存在している」


 「星筆までは私が案内します」


 「みんな!”鎖晶船”に乗って!」


 モンタニャの管理者は鎖晶船を操縦した。


 「これは?」


 「”穴”?」


 「境界が破れている…」


 レルムには境界が存在し、

他のレルムにアクセスできないのは、

境界を超える事ができないからだ。


 「”隠し扉”ね」


 「いや」


 「これは違う」


 「元の時空に続く隠し扉はこの先だけど」


 「これは別の扉」


 「元の世界には帰らせないって事か」


 「これはただの扉ではなく」


 「同じ”世界”に存在している異なる”層”への扉」


 「あなたたちも幽世を知っているでしょう?」


 「あれは別の時空ではなく、異なる層に存在している物」


 時空は複数の"層"からなる、

異なる"層"に移動する方法が存在するようだ。


 「確かに時空は違うけど、下の層に位置する以上」


 「隠し扉を使わなくとも観測できる」


 オスクリダドは経験豊富な魔術師だ。


 「門には幾つか種類がある」


 「同じ時空の国を移動する”城門”」


 「異なる時空に移動する”隠し扉”」


 「そしてこの”門”は”水門”」


 「異なる”層”に移動する物」


 城門は同じ時空の異なる場所(国)に移動できる

隠し扉は異なる時空に移動できる。

水門は異なる層に移動できる。

これらの扉は境界を超える事ができる。


 「”ドロップ”するわ」


 「ドロップ?簡単に”水閘”を渡れるとでも?」

第Ⅰ話

 「誰!?」


 「ああ、闇の雨が降る」


 「我は独立者、この水門の門番なり」


 「”闇”?」


 「いずれお前たちにも理解できる」


 「星空は一つではないと」


 「腐朽しきった世界の旋律」


 「再定義<リミックス>はなかなか得意なようだな」


 「…別の時間の俺よ」


 「今はまだ理解しなくて良い」


 「だが、この運命…」


 「ふん!お前が本物かどうか試してみよう」


 魔法陣が展開される。


 「幽六花姫!」


 「管理者と凡人に興味はない」


 「いいでしょう」


 「ただし、この”幽字”は解放してください」


 「ふん」


 「くれぐれも水門を解放して溺れないようにな」

第Ⅱ話

 無風の幽字が展開される。

私は幽六花を咲かせる。


 「なるほどな」


 オスクリダドは王の継承武器である、

幽月霊剣を創造し、

幽字は消滅した。


 「もういい、また会えるといいな」


 “独立者”は消えた。


 「行くぞ!」


 私たちはドロップした。

ここは海?

 深い、深い海の中。

光の無い暗い深海。

 これは?

私に”知識”が流れ込む。

これは心の断片?

これは記憶因子。

アカシックレコード(圕の圏)の断片。

私は記憶を閲覧した。


 「もうダメだ!ティエラ!」


 ティエラ?


 「俺たちは暗黒世隊に完全に敗北する」


 これはいつの記憶?

未来?


 「安心しなさい、私がこの物語を開きます」


 「精霊とクランリーダー、下層にて眠りなさい」


 「これより”ラルガ・ベアへ”の始まり」


 「知恵は彼の地より来たりてこの書は開かれる」


 「知識の言葉を呼び」


 「賢者を呼び」


 「愚者はネガティブの歌に導かれる」


 「ネガティブの管理者とは”反転の管理者”」


 「彼らの技術をこの書へと」


 「三つの筆に未来を託す」


 本は開かれ、魔術を記した。

第Ⅲ話

 「賢者システムより報告、歪冪な旋律の記憶因子クラスタの検出」


 この書はもう閉ざされるのよ。

誰!?

閉ざされた時間軸の貴女よ。

私?


 「警告、強制的な旋律の花の”覚醒”と”解放”」


 それが貴女の欲望か、

貴女は”兎”となった。

 “精霊”である私の望みは再びこの書を閉じる事。

私が存在する閉ざされた書に星の音は響きない。

その欲望は独立者なる者の力。


 「いや、異なる時間軸に存在している時空の独立者はお前だろう」


 「ブライニクル」


 甘美なる眠りも目覚め、対の混沌は書を閉じる。

それが終焉に至る転調。

群舞すらも独立者の意思だ。


 「ああ」


 「これが月の管理者、オスクリダド様の意思だ」


 星々は紡がれ、六花は目覚める。

私は無意識のうちにお面を形成しそれを被る。

染まったようだな。

異なる時間軸の独立者の意思に。

第Ⅳ話

 狼が現れた。

私は兎の力を解放する。


 「月の力を、私に!」


 これは”可食石”!?

ああそれが”解放”だ。

精霊は姿を得る。


 「では一冊の本を閉じてしまいましょう」


 「来なさい、六花の兎よ」


 精霊は狼を従える。


 「狼の声は混沌を呼ぶ」


 私は可食石で妖術を発動し、

“精霊”は撤退した。