旋律の雲海

序章

 私は“回想”する”月の管理者”の記録を。


 「ベンティスカ、貴女は月に来るのですか?」


 幽六花の城、幽六花姫は琴を爪弾く。

それは古代の旋律。

幽玄なる月を眺めて。


 「いえ、私はこの地に残ります」


 「そう…」


 「じゃあね、私は月に帰ります」


 月。

桜咲き誇る回廊を歩く。

妖怪はオスクリダドの石を主食とする者だ。


 「妖の岩に六花を描け」


 私は”真偽の国”に向かった。

僕は”回想”する”雷の管理者”の過去を。

“鎖琴”織りなす炭の雷の地。

 回廊続く廊下を歩みて、

細い糸のような鎖は、

琴の音色を奏でるのでしょう。

 “鎖晶”続く地にて、

筆を払い、炭の雷を描く。


 「例えこれが偽りの記憶でも」


 「僕は実感する、この感触を」


 鎖の回廊を歩み、雷が走る。

炭色の廊下。

回廊を巡るは灰色の雷。

僕らが雷の管理者だ。


 その者の兄をトネール、弟をトルエノと呼ぶ。

歪む鎖がシャンシャンと音を立てて、

細い水の糸をつまんで放す。

これこそが基の根源の音なのだろう。

第Ⅰ話

 タプル。

因子の集合からなるコラージュの和。

時空は時間と空間のタプル。


 タプル状態。

感電と群舞のタプル。

雷の力はタプルの力。

いずれ天候が変わっても、

再び晴れる時が来るのだろう。

 踊る鎖は魔界の使者を消滅させる。

城門を潜ってたどり着く先は、

ブランの村


 「歪冪な数だなトネール」


 「”鎖琴”よ!」


 鎖琴はタプルの妖術。

調べと鎖のタプル。

境界は破れて、魔物が現れる。


 「禁断の書を解放するか」


 「トルエノ!ダメだ!」


 「俺たちは”雷の管理者”だろ?」


 「まかせろトルエノ、俺は"魔法剣士"だ」


 「禁断の妖術 タプルの法」


 「『毒の回廊』」


 トルエノの旋律の花は無風に侵食され、

理性を失う。


 「トルエノ、悪いな」


 トネールはトルエノの魔力を吸収するとトルエノは意識を失う。


 「旋律の花は眠り、理性も眠った」


 「花を開こう」


 トネールは旋律の花を開いた。

開の旋律の花に城門を繋ぐ。

 旋律の国にアクセスする。

鎖の螺旋を落ちる。

僕は旋律の宝石に触れた。

 すると宝石から幽字があふれる。

空間の境界である鎖晶は幽字とのタプルを成し、

幽字次元空間に変化する。


 「今助ける、トルエノ」


 トネールは管理者の権限を使って、

自らの鎖晶を変化させ、継承武器を創造する。

継承武器は杼を成した。


 「しかし、トルエノが俺の言う事聞かないとはな」


 「俺はお前が嫌いだよ」


 炭の雷を鳴らして、継承武器は旋律の花を開く。


 「旋律の領域、”雲海”に行こう」


 トネールはトルエノの肉体を雷の国に移動した。

そして旋律の領域、”旋律の雲海”に意識を移動する。

第Ⅱ話

 旋律の雲海。

ベージュ色の反物が泳いで。

連続な位相の抽象化された領域。


 柔らかい触れられない大地を飛んで、

そこに各々の花が咲く。

これより下の”層”、下のレイヤーは、

幽世、つまり死の世界。


 現世の座標と雲海の座標をリンク、

雷の国のアドレスに移動。

共鳴の使用、”トルエノ”の検出。


 トネールはより深い領域、

旋律の花の下層に移動する。

花々が咲き誇る旋律の雲海、

 その姿を地上の民は知らない。

この領域に踏み入ることが出来るのは一部の者だけだ。

トネールはトルエノの旋律の花と共有、

 つまり旋律の花が繋がっている。

トネールはトルエノとトネールのタプル、

幽字次元コラージュ世界に移動する。

炭色の花、炭色の雷。


 「花が枯れる前に真実の力を」


 「我が弟よ、眠りなさい」


 トネールは嵐を呼ぶ。

旋律の国に嵐が来る。

天候は変わって、世界が移ろう。


 「恵みを与えよ、雷鳴よ、雨よ」


 「…出よう」


 「枯れた旋律の花を戻す方法」


 「旋律の花を癒せるのは幽六花姫と人魚姫だけだ」


 「だが人魚姫は混沌に飲まれた」


 そしてトルエノは私と出会い、幽六花隊となった。


 「これが記憶に眠った彼の解…」

第Ⅲ話

 禁忌なる反魂の力。

雋永なる幽字、

噩噩とした儀式を行う者が存在した。

 閘門の門番と"独立者"さえも彼らを止める事は出来なかった。

ディミニッシュの響きが轟く。

虚数空間内の"管理者"は"計画"の完遂を試みる。

 されど勇者の光が届かぬ闇の世界で。

カタストロフィーの響きだ。

旋律が眠る匣を開く。

 そこに秘められた論理演算は、

混沌を生み出す。

群舞する終焉を見やる別の時間軸の者さえ、

運命は不変だ、

 可変な心を導いて、

勇者の光とカヴンの魔法は完成する。

第Ⅳ話

 「おかしいわね」


 「エラーが発生しました、エラーが発生しました」


 「何事!?」


 「”プロトコル”が書き換えられた」


 「”プロトコル”?」


 「ああ、データの通信は”プロトコル”によって決まる」


 「言わば通信の型の事だな」


 「型?タイプか!」


 「その通り」


 「そして”リクエスト”が不正だ」


 「リクエスト?」


 「旋律の花から来る、要求」


 「この時空のリクエストが全てリジェクトされている」


 「おや、困っているようですね」


 管理者達は驚く。


 「もしかしてあなたは…」


 「私は舞踏家、モンタニャの管理者です」


 「今の世界は混沌が群舞している」


 「これではモンタニャの舞さえも踊れません」


 「このプロトコルは離散化した混沌を通信するための物」


 「おそらく混沌は時空を乗っ取るつもりでしょう」


 「情報は得られなかったか」


 「ですが安心してください」


 「私は”時空の移動”について知っています」