不可逆的な知識欲

序章

黄色い木々の中、


眠った鳥の前で3人は話す。




「しかし、奇妙ね」




「どういう意味?」




「これほどの魔力は自然には発生しない」


「つまり、誰かの手によって暴走させられたと」


「ええ」




四角い枠に埋め込まれた、赤い石から、


声が聞こえる。




「聞こえるか」




隊長の声が聞こえる。


「聞こえるか」




「ええ」


「近くに不自然で大規模な魔力を検知した」


「座標を指定するから向かってほしい」




「わかった」




歩みを進めるとそこには小屋があった。


小屋は紫色の屋根で、木製だった。


小屋には扉があり、


私は小屋に入った。


小屋の中には階段しかなく。


私たちは階段を下りた。

第Ⅰ話

廊下。


長い廊下。


階段。


長い階段。


小屋の地下は大きな研究施設で、


壁の素材は石。


壁には地下であるのにもかかわらず、


窓があった。


窓の奥には、無いはずの海があった。


そうここは海。


海底へと向かう大きな螺旋階段。




奥に進むと広い円形の空間だった。


中央には機械があった。


機械は魔物を模した姿をしていた。




「気を付けて」


「あれは機械」


「魔力の傀儡」




機械は赤い光を放った。


幽六花隊の剣士 トルエノは赤い光を斬り。


光はバラバラとなり、力を失った。


機械は私に突進してきた。




私は魔法で機械を回避し、


機械へ魔力の槍を放った。




月の使い オスクリダドは機械に氷の弾を放ち。


戦いは始まった。

第Ⅱ話

機械は赤い光を放ち、


トルエノを狙う。


私は薙刀で光を反射させて。


トルエノは空中から機械を斬る。


機械は攻撃を回避しようとするが。


オスクリダドが継続的に氷の弾を放ったために。


氷の弾は氷の壁となり。


機械は真っ二つになった。




「よくやったな」


「ええ」


「そうだな」




廊下。


長い廊下。


階段。


長い階段。


どんどん窓の先は暗くなる。


海底へと進んでいた。


道は2つに分かれていた。


1つは茶色の扉。


もう1つは青い扉。




「私は青い扉に」


「トルエノとオスクリダドは茶色の扉へ」


「うん私もそう思う」




「何故だ」


「いいから、いいから」




青い扉へと進む。

第Ⅲ話

白。


白。


視界は暗く。


生命を拒む六花の刃。


青は死の扉。


茶は生の扉。


魔力は生を拒む。


ここには魔術師にふさわしい、死へと誘う白が躍る。


私は氷の魔力を吸収し、


赤い花を咲かせた。


美しく、


なおも命を否定する花。


けれど、


赤さは命を肯定する炎。


矛盾する2つの力が魔力の傀儡を否定する。


白。


白。


白は力を失い。


私は急いで茶色の扉に向かった。


茶色の扉の先、


空間は破壊に満たされていた。


やはり戦力は茶色に集中させるべきだった。


青は氷の魔力。


茶は土の魔力。


さっきの機械は。


赤は火の魔力。




空間は破壊に満たされ、部屋は激しく揺れ続ける。




「ねえ、あなた達は大丈夫?」




「ああ」


「そうね」




3つ目の魔力の傀儡。


猛獣を模した魔力の傀儡たち。

第Ⅳ話

「トルエノブレード!」


そう言うと機械に上に男がいた。


機械は力を跳ね返し、


攻撃を無効化した。




「なるほどね」


「あれは土の魔力で物理的な力を無効化している」


「オスクリダド!」




「ええ!」




オスクリダドは土の魔力を吸収し始めている。


私は幽六花で空中に移動し。


機械の頭上で魔力の槍が躍っている。


トルエノは壁をけり、


宙返りをしながら螺旋状に攻撃する。


機械は少し物理的なエネルギーへの無力化に失敗し。


機械の上には私の薙刀があった。


幽六花を纏った薙刀は土の魔法を無効化し。


空間に機械は無かった。




扉がある。


扉の上は水色。


扉の中央は黄色。


扉の下は緑色。


これが何を意味するかは、2人はわかっていた。




「行きましょう!」


「ああ!」


「ええ!」

第Ⅴ話

3つの模型があった。


猛獣を模した3つの魔力の傀儡が。


周りは全てガラスで、


魔法の明かり以外は黒だった。


黄色はトルエノが。


水色はオスクリダドが。


そして緑は私が。




緑は風。


羽をもつ機械は、とても素早い。


機械が突進してくる。


花は壁となり、風を奪う。


けれど、


花は散った。


もしそれさえも私の意志だとしたら?


「幽六花の吹雪よ」


機械は凍り、動きを止めた。




私は黄色に向かった。


黄色は雷。


風のような破壊が空間を揺さぶった。


耳を塞ぎたくなる音ともに。


けれど、


緑のような素早さも。


茶のような力強さも。


機械からは感じない。




私は花を咲かせ、


黄色から力を奪った。


トルエノは宙返りをして、


機械を真っ二つにした。




残すは水色。


それが面倒であった。

第Ⅵ話

「何故?」


「魔法が効かない!」


水色。


水色の機械。


攻撃はしてこないが、


こちらの攻撃もまた、


意味を持たない。


扉に触れる。


けれど、


扉は開かない。


全ての属性を試す。


雷は反応があったが、


ほんの僅かにすぎない。




試みる。


躍るような剣術で。


試みる。


誰よりも高度な魔術で。


試みる。


実戦で洗練された無駄のない技で。




時間の経過で得られた物は、


焦りと僅かな疲労のみであった。


水色への正解を導くのには時間がかかった。




様々な方法を試みる中、


2人同時で攻撃した時。


機械から火花が散った。




今度は何度も、


何度も。


機械を斬る。


ただしこのやり方では時間がかかる。


すぐにでも任務を完了させる必要があった。




「これで決める!」

第Ⅶ話

ようやく、


機械の仕組みに気が付いた。


機械は力を受け流す。


土のように受け止めるのでは無く、


水のようにすり抜ける。


水は姿を変える。


ただ機械のような小さな器では。


水はこぼれ落ち、


機械は消滅する。




私は不可視の魔力の衣を纏い。


薙刀に幽六花を宿す。


まず最初に魔力の槍の雨が降る。




次にトルエノによる落雷のような一撃。


オスクリダドは休みなく魔法を唱え。


最後に私の薙刀の舞いにより。


そこに機械は無かった。




扉が開き。


私は幽六花隊の隊長に連絡する。


「道は開かれた」


「戦力が欲しい」


「残すは過剰な魔力を生物に与えた者のみ」


私はその人物が許せなかった。


どうせ理由も大した事では無いと推測できる。


「わかった」


「隊員が来るまで時間を稼いでくれ」




「うん」


私たちは扉の先に向かう。

第Ⅷ話

「最適化された位相空間への一般化によるアルゴリズムを適用すれば

パフォーマンスを大きく向上させて、これに圏論的プログラミング

パラダイムでコードを圧縮し。メタプログラミングによって動的に

オブジェクトのメソッドを変更できれば。抽象魔法属性論の理論の

真偽がわかる!それはつまり代数的構造の1つである環を発展させた

抽象属性環の性質を見つけることができるぞ」


「はっはっはっは」




「うるさい」


男がいた。


銀髪でショートヘアー、虹色で半透明のウィッグを着けていて。


大きな眼鏡をしている。


服は白く、眼は緑。


「へ?」


「わからないかね君」


「魔術的写像の合成により、動的に型を最適化し。オブジェクトの

抽象性ができる、つまりそれは合成属性論の魔術群の一般化、

初等魔術幾何学でもそれは自明なこ...」


「うるさい!」




「幽六花隊の隊員が向かう」


「お前の罰はきっと重い」


「は?」




「いいかね?」


「君は...」




「お前、最低だな」




「へ?」




「人間だけが得することは許されない」


「お前の知識欲はもはや不可逆的」


「お前の心はもはや狂気の海底」


「つまり闇の深淵」


「人は知識が心のすべてではない」


「お前もまた無知」




「き...貴様ら!」




しかし誰もいなかった。