【調査・研究】進捗共有の大切さ—修論の場合—
日本語支援スタッフ 地域文化研究専攻 修士課程
村瀬正紘(むらせまさひろ)(2024年3月31日)
6万字。私のいる研究科の修士論文で要求される文字数である。これを多いと思うか、少ないと 思うかは人それぞれであろうが、修士論文を書き始める前の私にとって、この数字は途方もなく大きなものに思えて仕方がなかった。自分には修論を果たして書き終えることが出来るのだろうか。幾ば くかの不安を覚えていた、一年前の春休みを思い出す。この記事ではそのような学生に向け、これから修士論文の執筆に取り掛かる上で役立つような事柄をお届けしたいと思う。
一番大変だったと感じている点は、研究のペースを保つことである。一年前後の長い期間をかけて 成果を出すのはそうたやすいことではないだろう。また、多くの修士課程の学生にとってそのような経験はほとんど初めてのはずである。とりわけ、一人で研究を進めていく場合、自分で規律を正すこと は相当な精神力を持ち合わせていない限りかなり難しいことのように思われる。私はその典型と言 えるような性格であり、一度研究が進まなくなると、精神的にも塞ぎ込んでしまい、ずるずると停滞期間が長引いてしまう面がある。しかし、修士論文を期限内に書き切るにはその状態ではいられない。 なるべくペースが落ちる期間を短くするため、私が最も強く意識したのは、「研究の状況をコンスタントに共有すること」である。具体的には、まず指導教員との面談をおよそ月に一度は行うことを心がけた。二年前に卒業論文に取り掛かる際は、進捗が生まれたら次の面談の予定を決める、という方針を立てたが、それでは進捗が生まれない限り次の面談を行うことが出来ない。そうではなく、指導教員との面談の最後に次回の面談の日程を決めてしまい、時間を基準にして面談の頻度を決定す ることで、どれだけ進み具合が悪くとも必ず研究状況の共有を行うことができる。当たり前のことであるかもしれないが、状況を定期的に共有する、ということは、プロジェクトのペースを落とさない上では極めて重要なことであろう。そうすることで、自分の行っていることを客観的な視点から見つめることが出来るし、何より他者からの助言がなされるべきなのは、絶対に、プロジェクトが順調に進行している時においてではなく、プロジェクトが思うように進まない時においてであるからだ。
また、指導教員の他に、学内の互助グループを活用した点も良かったのではないかと感じている。 私の所属していた研究科では、学生支援事業の一環として「ピアサポート事業(通称:ピアサポ)」と呼ばれる取り組みが実施されている。ピアサポでは、大学院生が5〜6名ずつグループとなり、各自 の近況や現在進めている研究に関する発表を定期的に行う。私の所属しているグループには分野の異なる院生が集まり、月に1〜2回のミーティングで、論文のピアレビュー、口頭発表の予行練習や、各自の近況報告を行っている。分野の異なる人に自らの研究状況を簡潔に伝える際は、研究の細かい進捗ではなく、修論のプロジェクト全体のなかで自分がどの段階にいるのか、ということを念頭に置いて話をするため、指導教員との面談とは違う視点から自らの研究を振り返ることが出来る。これも、自分のペースを客観視し、調整するということに繋がり、いわば研究のペースメーカー的な位置付けで活用することが出来た。
このように自らの活動を見直すと、自分の研究を自分以外の人に把握してもらう、ということには二つの効果があるように思われる。一つ目は、他者からのアドバイスをもらうことが出来る、ということ。二つ目は、他者に話すことで自らの今までの行動や現在の状態を客観的に把握出来る、ということである。もちろん、論文を書くには、一人だけで資料に向き合ったり、思索を深めるといった姿勢が肝要であることは言うまでも無い。しかし、修士論文を書くという、期限が定まっており、まとまった成果物を提出しなければならないというプロジェクトを遂行するにあたっては、また別様に考えることも必要になってくる。たとえ進捗が思うように進んでいなくともその状況を共有することは、ともすれば時間をかけて納得のいく進捗を生むまで一人で思考することを上回る重要性を帯びる局面があるのだ。また、最後に付け加えておきたいの は、自分では「思うように進んでいない」と思っていても、ことのほか何らかの前進はしている、という 状況が往々にしてある、ということである。自分自身の行うプロジェクトの全体/各段階に対して設定する目標は水準が高くなりがちである。ある時点でその目標に達していないからといって、進捗が生まれていない、と判断するのは早計かもしれない。現時点で何をどこまで行ってきたかを具体的に思い出してみると、ほんの少しであっても自分が何らかの作業を通じて目標への距離を縮めていることが分かる。臆せず、気軽に、自分自身の状況を先生や仲間に伝えてみよう。修論を書き始めるのは、それからである。