【日本語学習】日本の言葉遊び:なぞなぞ
【日本語学習】日本の言葉遊び:なぞなぞ
日本語支援スタッフ 地域文化研究専攻ラテンアメリカ研究課程所属
武田彩花(2023年1月24日)
こんにちは。日本語支援事業スタッフの武田です。私は16〜17世紀のスペイン文学を研究しています。特にミゲル・デ・セルバンテスの『ドン・キホーテ』に登場する人物描写や作品に反映された当時の社会に興味があります。人物描写を原文で追っていくと、訳文では気づけないような、作者の言葉の選択や日本語とのニュアンスの違いに気づくことが多々あります。処女作、牧人小説の『ラ・ガラテーア』でも、言葉の韻を踏んだり、同音意義語を連ねたりしているように、セルバンテスは、作品に言葉遊びを頻繁に使う作家です。そこで本日は、既にご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、日本の言葉遊びから、なぞなぞをご紹介したいと思います。
先日、図書館で研究書を探していたときに面白そうな本を見つけました。それは、『世界なぞなぞ大事典』(大修館書店、1984年)という本で、母語と日本語訳を付して世界各国のなぞなぞを日本語で紹介しています。実際にこの事典を見てみると、東洋西洋に関わらず、世界中に多様な「なぞなぞ」が存在することがわかりました。しかし、そこに取り上げられたなぞなぞは、日本語訳および日本語の説明だけでは理解できないものが多くありました。そのことに戸惑いや驚きもありましたが、改めて、なぞなぞがその国の文化や習慣に根付く言葉遊びであることを感じました。なぞなぞは、その国の言語で表現されているからこそ、それとして成立し、意味やニュアンスあるいはコンテクストを共有することで面白みが出てくるものなのです
なぞなぞには質問と答えがあります。では、クイズと何が違うのか。事実に基づく答えが求められるものがクイズであるとすれば、なぞなぞは、駄洒落(だじゃれ)や頓智(とんち)に基づく答えが設定されています。駄洒落とは、同音異義語や音の類似性を用いる言葉遊びです。「ふとんがふっとんだ」は、“布団(ふとん)”と“吹っ飛ぶ(ふっとぶ)”という言葉の類似性を活化して成立しています。頓智(とんち)とは、その場に応じて働かせる知恵のことです。下で紹介するなぞなぞの答えのように、言葉をよりどころにして笑いを誘うような返答するような場合に、“頓智がきく”という表現を使います。
日本のなぞなぞの起源は、平安時代まで遡り、長い歴史があります。『宇治拾遺物語』や『枕草子』の和歌にもなぞなぞが書かれているそうです。江戸時代に入ると、なぞかけと呼ばれる3段なぞなぞが庶民の間で流行り出します。これは、「○○とかけて△△と解く。その心は?―その心は××。」という形式を取るもので、今では、落語やバラエティ番組でも親しまれています。話を戻して、通常のなぞなぞは、2段なぞなぞという形式をとります。例えば、次のようななぞなぞがあります。
Q1. パンはパンでも食べられないパンはなに?
このなぞなぞを一度は聞いたことがある方もいるかと思います。答えは、食パンでもカレーパンでもなく、食用のパンではありません。正解は、語尾にパンがつく日本語で、食用のパンみたいに食べられないもの… フライパンです。
このなぞなぞは他の言語でも成立するのでしょうか。英語とスペイン語の場合を例に検証してみます。パンを英語でいうと、bread です。問題を英語に訳してみると、
“Bread is bread, but what bread can you not eat?”
この答えは何でしょう。食べられないbreadを英単語で引いてみても見当たりません。日本語の解答のようにflying pan と言うこともできません。続いて、スペイン語の場合を検証してみます。スペイン語で食べられるパンは、pan(パン)です。日本語と同じ発音です。なぞなぞが成立しそうです。ですが、答えることができません。英語と同じように、pan と言う文字を含み、かつ、食べられないものを示す単語がないからです。
他の言語の場合も検証する必要がありそうですが、このなぞなぞは日本語だからこそ成立するのです。他の例を見てみましょう。
Q2. ひっくりかえると軽くなる動物はなに?
正解は、イルカです。“かるい”をひっくり返して読む(横文字の場合、単語を左から読まずに右から読む)と、“いるか”になります。この解答は、アナグラムで成立しています。つまり、単語の文字を入れ替えて違う意味を持つ単語を作る言葉遊びです。これ以外にも、たとえば、「みかん」。文字を入れ替えて、「かみん(仮眠)」という違う意味の単語が作れます。これは日本語以外の言語でも適用できます。silent は、文字を入れ替えるとlisten に、eat の文字を入れ替えるとtea と、文字を入れ替えることで、新しい意味の単語を作ることができます。
文字の順番を変える言葉遊びは、この他にも回文やパングラムがあります。回文というと、日本語の「しんぶんし(新聞紙)」、「トマト」、英語のnoonやlevel のように、文頭から読んでも文末から読んでも同じ意味になる言葉のことです。パングラムは、26あるアルファベット全てを使って短い文章を作る言葉遊びです。日本には、47のひらがな全て使って作られた七五調の「いろはうた」があります。
話をなぞなぞに戻して、次の例を見てみましょう。
Q3. 食べると安心するケーキは?
“安心する”を別の言い方で言い換えてみると答えに近づきます。正解は、ホットケーキです。安心したとき、“ほっとした”という表現を使います。この場合、英語でホットケーキはpancake といい、スペイン語だと tortita といい、 “安心する”という表現と関係がありません。なので、この場合のなぞなぞは日本語だからこそ成立するのです。
ここまで紹介してきた日本語のなぞなぞはほんの一例にすぎません。なぞなぞはネット上でも紹介されている他、子供向けだけでなく、大人向けの本も出版されています。なぞなぞについて考え、その答えを閃いたとき、あるいはその答えが納得できたときというのは、実はその国の文化的・言語的な背景を共有することができた瞬間なのかもしれません。外国の言語や文化に触れる入り口として「なぞなぞ」を楽しんでみてはいかがでしょうか。