【イベント】人とのつながりを生み出すオンライン上の会話の場とは?
【イベント】人とのつながりを生み出すオンライン上の会話の場とは?
日本語支援スタッフ 言語情報科学博士課程 森谷祥子(2022年12月3日)
日本語支援イベントスタッフの森谷祥子です。「日本語で話そう!」イベントは、東大に所属する留学生の方にオンラインでの日本語での日常会話を楽しんでもらうためのものです。今回は「オンラインでの会話」についての私見を書きます。
予め断っておくと、「対面とオンライン、どっちの方がいい?」という単純な話はしません。きっと今後は「対面での会話の機会」が今よりも増えていくでしょう(コロナ禍が落ち着き、そうなっていくことを個人的にも願っています)。でも、きっと「オンラインでの会話も機会」という選択肢も残るでしょう。おそらく「棲み分け」がされていくのだろうと思います。ということで、ここでは、「オンラインでの会話」の役割のようなものについて書きます。もちろん、私の私見なので、いろんな考えがあることを前提に読んでくださいね。
昨年、イベント参加者から何度か「対面でもやってほしい」という意見をいただきました。イベントスタッフとしては嬉しい声です!でも一方で、「多分、対面とかオンラインとかって、実はあんまり関係ないんじゃない?」という思いもありました。
前回の所感にも書きましたが、本イベントでは、留学生の方が単に日本語の日常会話を練習することだけが目的なのではなく、他の人とのつながりを広げていく機会を提供することも狙いの一つとなっています。確かに、対面だったらイベント終了後でも時間がある人が簡単に集まることもできるだろうし、その場の匂いとか感触とか空気感を共有することもできるでしょう。そうすることで、人とのつながりが広がり、また、日本語練習の面でも、良いことがいっぱいあるでしょう。
ただ、実際に対面で話せる環境であっても、私達はいつも人と「つながり」を感じるとは限らないと思いませんか。確かに、人と話す機会自体は対面の方が多くなるかもしれません。しかし、だからと言って、誰とでも話すのか、と言えばそんなことはないですよね。例えば、大勢の学生が集まる大教室での授業よりも、少人数のゼミの方が、人とのつながりは生まれやすいでしょう。極端な例だと、毎日満員の通勤電車で人の波を見て、逆に孤独を感じることもあります。単に対面だからと言って、自然と会話が生まれたり、つながりが生まれるわけじゃないことは、多くの人が実感していることだろうと思います。
ここで、「じゃあ、人とのつながりって会話を通してどうやって生まれるんだろう?」「オンラインの会話にはどんな意味があるんだろう?」そんな疑問が湧いてきます。
これらの疑問に対する私の答えに共通するキーワードは「共有体験」です。つまり、会話をする人たちの間で、似たような体験が共有されていることが、お互いに理解し合い、つながりを感じるための種になると思います。そして、オンラインの会話であっても、「共有体験」が見いだせれば、つながりを感じる会話が生まれやすいのではないでしょうか。
確かに、対面での会話の方が、やはり「共有体験」が得やすい環境ではありそうです。同じ空間にいることで、お互いが共有する要素は際限なく多い。環境音、匂い、肌感覚、その日の天気、湿度、部屋の光の加減などなど、例を挙げればキリがありません。その点でオンラインでの会話は、「共有体験」が対面に比べて欠如している感がありますよね。実際そうなんでしょう。
でも私はここで思うのです。本イベントに集まる参加者には、イベント参加前からすでに「共有体験」が多い!!と。本イベントの対象は、「東大に所属する」「留学生」です。何かしらの理由で「東大」という場所にたどり着いた留学生には、結果的に共通する体験がある可能性が高いでしょう。まずは、日本という外国に来て勉学に励むという体験やそれに付随する経験は、日本の留学生一般に共有されるものです。また、大学での勉学、試験勉強、読書、書く作業などは、大学に所属する人々の日常生活の一部ですが、これは、留学生だけではなく、日本人の大学生や大学院生にも共通する体験なので、留学生と大学院生である日本人スタッフとの共通体験も当然見いだせます。もし東大のキャンパスに通学している者同士であれば、居住環境や通学環境も互いに共通する経験となるでしょう。更に言えば、大学や大学院に来る人々には研究や勉学に対する基本的には肯定的な姿勢も共有されていると思います。(逆に言えば、本イベントはある意味、閉じられた空間なのだということなのですが。)
このような「共有体験」があるからこそ、初めて話した人とでも、言語の垣根を超えて、理解をし合うことができるのではないでしょうか。だから、対面の時よりも同じ空間で共有できる要素(音や匂いなど)は限られていても、相手が話している内容を理解しやすかったり、共感しやすかったりするのだと思います。そう考えれば、人とのつながりを広げる機会において、対面やオンラインという違いはそんなに大きな要素ではないように感じます。
言語学習という点からみても、「共有体験」を持たない相手に話をするよりも、このような「仲間」が集まる場所で話す方が、対面であれオンラインであれ、より安心して会話を楽しむことができます。自分の心の声を吐露できることは、学習言語を自分の言葉として使用する大切な一歩です。
結局何が言いたいのか。「本イベントは、知り合う前から幾つかの共通点を有する大学生、大学院生が集まるという特性上、オンラインであっても、対面と変わらない豊かな「共有体験」を生み出すものである。単に日本語会話を練習する機械的なものではなく、お互いを理解し、人とのつながりを広げるチャンスにおおいになり得る。」ということです。
私自身も、本イベントを通して、多くの留学生の方々と出会いました。今後もまた話を聞きたいと思う人達ができました。正直に言うと、今度は対面で話したいなあと感じますが、それはまた将来の楽しみとして取っておこうと思います。
12月のイベントでもより多くの方々とお話しできることを楽しみにしております。