【社会・文化】変わりゆくさつまいも
【社会・文化】変わりゆくさつまいも
日本語支援スタッフ 地域文化研究専攻修士課程
武田彩花(たけださやか)(2024年3月31日)
この冬、さつまいもにはまり、毎日食べていた。今でこそ、日本で多く流通しているさつまいもだが、これは外来作物だ。日本にさつまいもが伝わったのは、17世紀ごろとされる。原産はラテンアメリカだ。紀元前から食べられていたという。コロンブスの航海をきっかけにヨーロッパ中へ広まった。涼しいヨーロッパでは生産量が少なく、アフリカやインドなど暖かい地域で育てられるようになる。そうして年月を経て、日本の地球の裏にあるさつまいもは、中国から日本に伝わったのである。この世界規模の伝達経緯には、生育の容易さが作用しているのだろう。極端な話、土地さえあれば育つ。日当たりや水捌けの良さなど、細かな配慮が必要なものの、生育途中で水やりをする必要や肥料は必要ない。その上、一株で三個以上は収穫できる。各国でさつまいもの栽培を試みたわけに納得できる。さつまいもはグローバルな歴史を持つ、とても日本的な作物だ。日本独自の変化を辿り、親しまれてきた。
日本のさつまいもは、外皮が紫、中身が黄色い。さつまいもといえば、焼き芋だ。スーパーには、石の上で焼かれた焼き芋が売られている。そこそこ大きい芋1本、300円ほどで、焼きたてを食べられる。やきいもが以前より身近になったので嬉しい。今から10年ほど前には、冬になると焼き芋屋さんトラックが「いしや〜きいも〜」と拡声器で知らせながら村をゆっくりと走っていた。スーパーには焼き芋売り場は普及していなかったと思う。トラック販売の物珍しさと芋のいい香りにそそられて、お使いで預かった1,000円で買えるだけの芋(5本ほど)を買って帰ったことがある。お使い代がさつまいもになったことに母はとても驚いていた。その数年後に、スーパーに焼き芋売り場が導入され、トラックの「いしや〜きいも〜」を聞いてこなかったのだが、この冬、焼き芋屋トラックが町内にやってきた。久々に聞き、懐かしくなり玄関を飛び出して買いに行った。1本500円と割高な気もしたが、ねっとりとしていて密が甘かった。「紅はるか」という品種だった。最近はこの品種が特に多く流通している。スーパーの焼き芋売り場の芋も、この品種であることが多い。その他にも、「安納芋」や「シルクスイート」など、甘さを追求した芋がたくさんある。このような昨今の甘い芋は、ここ10年で普及してきた。「紅はるか」が市場に出る前は、「紅あづま」という品種が多く売られていた。ホクホクして甘味が優しい。
古くから、さつまいもは様々な食文化を展開してきた。干し芋は、日本の気候を活かして作られる。気温が低く、晴天が続き、風が吹くような地理的条件が揃うと、干し芋が完成する。これをオーブンなどで焼いて食べるとさらに甘さが増す。
スイートポテトとは、英語でさつまいもを意味するが、日本にはこのネーミングの洋菓子がある。裏漉ししたさつまいもに、砂糖やバターなどを加えてオーブンで焼いて出来上がる。見た目はさつまいものような形をしていることが多い。スイートポテトは明治時代から親しまれてきた日本スイーツの1つだ。
大学芋は、素揚げしたあつあつのさつまいもに糖蜜を絡ませて黒胡麻を振りかけて作る。糖蜜が芋に絡んで甘く、芋はホクホクしている。こちらは昭和に誕生したそうである。学資に困った東大生の一人が売り始めたことで、「大学芋」という名がついた。関東で「大学芋」は人気だが、一方で関西を中心に「中華ポテト」という料理がある。「中華ポテト」は中国料理「抜絲紅薯」を日本風にアレンジしたものである。飴が絡まり、カリカリ食感の胡麻がないおやつだ。
さらに最近では、ダイエット中のお腹満たしに、さらに人気を増している。スーパーだけではなく、コンビニにも、さつまいも商品はずらりと並ぶ。甘く、食物繊維が多く含まれてているため、人気が高まりつつある。
そこに新たなスイーツが加わった。2月14日のバレンタインデーを目前に、友人の義理チョコ探しに付き合って、デパ地下を散策している時にそれを見つけた。余談だが、日本のバレンタインデーは、女性が男性にチョコをプレゼントする。最近では、渡す相手は男性だけにとどまらない。女性同士で渡し合う友チョコ、職場やお世話になっている人に贈る義理チョコ、好きな人に渡す本命チョコ、自分へのご褒美にマイチョコなど、渡す相手によって呼び方がいろいろある。2月に入ると、デパ地下を初め、スーパーにもチョコレートがずらりと並ぶ。私がデパ地下見つけた品は、さつまいもトリュフチョコだ。斬新な組み合わせ。味の想像がつかない。今年は食べ損ねてしまったので、来年のマイチョコにしたい。ついにチョコレート業界にさつまいもが進出し、人気の高まりを感じた。
最後に、「黄金千貫」という芋をご存知だろうか。私はさつまいもについて調べる中でこの芋の存在を知り得た。「紅あずま」が10年前から減少傾向にある一方で、ほぼ横ばいの生産量を維持している。スーパーではほとんど見かけたことがない。一体どんなさつまいもなのか。外皮も中身も白っぽくて、ジャガイモのような見た目をしている。これは、芋けんぴや焼酎の原料となるさつまいもなのだった。芋けんぴは高知の郷土料理で、スティック状に切ったさつまいもを油であげ、砂糖を絡めて作る。油との相性がいい芋の品種であり、甘さと香りが高く、白っぽい。この「黄金千貫」が、透明な液体になるとは不思議である。日本の焼酎には、芋のほか、麦や黒糖、米など、様々な原料が使われる。その中で、さつまいもは唯一の青果だ。一般的な蒸留酒(焼酎、ウイスキーやブランデーなど)は、造りたてだとアルコール臭が強く、熟成させることで美味しくなる。一方、芋焼酎は新鮮であれば香りが高く、さつまいもの甘みがでる。そのため、旬の時期である11月1日を「本格焼酎・泡盛の日」と定め、この時期に合わせて新酒が販売されるようになった。物流網が広がり、産地である鹿児島県を中心に流通していた芋焼酎の新酒を、今では全国規模で流通するようになった。
さつまいもの歴史はそう古くはないが、伝統的な食文化を残しながら、さつまいもの楽しみ方は変化しているようである。芋焼酎は日本各地へと広まり、ジャパニーズスピリッツとして世界へ発信されている。日本のさつまいもが世界的に愛される日は近いのかもしれない。