水環境管理

未処理の生活排水,産業排水は,地上を経て河川や湖沼にたどり着き,その水環境に影響を与える。地域の人々にとって,河川や湖沼は重要な淡水資源であり,生活用水源,水産業の場あるいは産業活動の水源であるなど,様々に利用される。水・衛生の不備は,人々にとって重要な水資源の汚染を招く。我々の研究グループでは,生活排水由来の水環境汚染を中心としつつ,その他の汚染源も含めた流域での水環境管理に取り組む。

河川・湖沼の汚染と微生物リスク

ウガンダ岸のビクトリア湖およびそこから流れるビクトリア・ナイル川において,カンパラ市・ジンジャー市からの生活排水の流入の影響を明らかにするため,湖沼および河川水の大腸菌測定とヒト関連微生物遺伝子マーカーを用いた糞便汚染の由来解析,および薬剤耐性大腸菌の実態調査を行った。都市からの排水が流れ込む水域では,極めて高濃度の糞便汚染が見られるものの,巨大なビクトリア湖に流れ込んだあと,汚染の程度は一定レベルまで低下していた。水道水の取水施設はビクトリア湖沖合に設置されており,水道水源として利用されている水域では糞便汚染の程度は低かった。一方で,市場の野菜からは平均して100 gあたり10の2乗程度の大腸菌が検出され,一部野菜ではヒト関連遺伝子マーカーの陽性率も高く,都市下水に汚染された灌漑用水の利用による影響が示唆された。また,薬剤対大腸菌の全大腸菌に占める割合は,水道水を取水するビクトリア湖沖合ではほぼ0%である一方,排水路放流地点付近では40〜50%にも達し,ビクトリア・ナイル川の約90 km流下地点においても,濃度自体は減るものの,その薬剤耐性率はほとんど低下せず,ビクトリア湖岸の大都市であるカンパラ・ジンジャーからの下水の影響が伺えた。

河川流域の汚濁管理

ベトナムの北部を流れる紅川の分流であるNhue-Day川流域を対象に,流域の水収支および汚濁負荷解析を行った。当該流域は上流に同国首都である大都市のハノイが存在するが,ハノイ市の下水の約8割は腐敗槽における簡便な沈殿処理のみを経て放流され,その一部はNhue川に流入する。Nhue川の紅川からの取水地点での汚濁は限られているものの,都市部を経て水質は急激に悪化し,都市部を出て郊外部に入る辺りで河川のBOD濃度はピークの80 mg/L程度にまで達していた。

一方で,窒素・リンに目をやると,1980-2010年の間で流域内でのほぼ倍増した土壌・水環境への窒素・リンの汚濁負荷量は,農業に由来する部分が多かった。さらに,この間に政府方針も背景にあり,急速に増加する畜産廃棄物の農地への利用が積極的に行われ,その投入量は上記30年間で約2.5倍に増加し,元々過剰使用気味だった化学肥料に次ぐ,窒素・リンの主たる投入源となっていた。これらから,上流部としの下水はNhue川の流下に伴う急速な水質低下を招いている一方,窒素・リンの収支を流域レベルでみると,化学肥料が過剰に投入され,かつ増大する畜産廃棄物の受け皿となっている農業からの負荷増が大きく,農地への資源投入量の管理および畜産廃棄物の適正管理が,流域レベルでの窒素・リン負荷量のコントロールに重要であることがわかった。