Ecological Sanitation

ドライトイレによる衛生改善および資源循環の両立

衛生改善は詰まる所,トイレ普及への挑戦である。世界の水事情,食糧戦略を考えれば,水を使わずに,栄養塩類を豊富に含むし尿を農業利用できるトイレ,つまり循環型ドライトイレの役割は重要である。ところで,し尿中の栄養塩類の多くは尿に含まれ,一方で,健康な人が排泄する尿には病原性微生物がほぼ含まれず,し尿中の病原性微生物はほとんどが大便に排泄される。

我々の研究グループでは,し尿資源の農業利用と衛生改善の両立を志向するアプローチであるエコロジカルサニテーションの考え方に立脚し,大便と尿を別々に扱い,それぞれ効率的に処理・利用することを目指すし尿分離型のドライトイレ(UDDT,Urine-Diverting Dry Toilet)に注目している。UDDTの開発,し尿中の病原微生物処理,し尿からの資源回収の研究を進めつつ,NGOのプロジェクトの一環で日本の団体として初めてUDDTを低・中所得国へ導入した(ベトナム中部高原ラムドン省の少数民族集落)など,アジア・アフリカの農村へのUDDT(あるいはエコサントイレ)導入の実践活動も推進している。

アフリカ農村での循環型ドライトイレの受容性

これまで,アルカリ度の高い灰の大便への散布で臭気・ハエを効果的に抑制し,灰散布が大便中の病原性微生物の不活化することを回虫卵の不活化試験で確認するなど,UDDTでの灰を用いた処理の効果を実証してきた。さらに,本成果を活用したNGOによるマラウイでの約1000基の大規模UDDT導入事業について,導入5年後の状態を追跡するなど,UDDTの受容性についての研究を進めている。こうした調査から,し尿利用文化がない地域でも,UDDT導入後には大便の価値は高く認識され,大便利用が広く受容される一方,尿の利用は受容されにくいこと,トイレの自律的な普及や大規模な故障後がきっかけで使用が停止する利用者が一定数見られるなど,依然として課題は多い。

現在は,アフリカ農村(マラウイ,一部ケニアも)において,トイレの自律的な普及とUDDTによる衛生改善・し尿資源循環利用の両立に向けた実践研究を実施している。新たなデザインのUDDTを実際に現地に試験導入しつつ,尿の利用法,あるいは尿の物理的形態を工学的に変えることも含め,サブサハラ・アフリカでのし尿循環を兼ね備えたトイレのあり方を検討する。(写真:マラウイでのUDDT建設の様子,および小学校へのトイレ建設を手伝う子供たち)

災害対応型ポータブルUDDTの開発

東日本大震災時には,こうしたインフラが整わない途上国農村で開発した技術を日本に逆輸入し,災害対応型のポータブル無水し尿分離トイレの開発にも取り組んでいる。パネル組立式のポータブルし尿分離型ドライトイレを緊急開発,震災3ヶ月後には54基を被災地に配布,その後,製品化した。一連の活動は,秋篠宮殿下が名誉総裁を務める日本水大賞にて大賞(グランプリ)を獲得した。