物質循環解析

人が出す排水や廃棄物の適正処理・処分,あるいはそれらの資源利用は,地域の物質循環に大きな影響を与える。その適正なあり方を検討するための基盤情報を得るため,地域物質循環解析を行っている。ダイナミックに変容するアジア・アフリカの地域における物質循環を理解することは,地域の様々なモノがどこで生まれ,どのように変わり,どこに移るかを理解することであり,適正なモノの流れの管理を考える上で必須の情報となる。

都市化に伴う地域物質循環の変化

人や家畜の排泄物は、長年にわたってアジアの作物栽培に集中的に使用されてきたが,急激な経済成長に伴い、排泄物の管理方法が変化し、それに伴い栄養分の流れも変化しました。ベトナム北部では、大量の排泄物が伝統的に水田に投入されてきたが、現在はその多くが養魚用の池に投入されている。我々の研究では、ベトナム・ハノイ郊外の農業地域を事例として、排泄物管理の歴史的変遷を調査し、養魚池が栄養塩の流れに与える影響を明らかにした。窒素とリンの物質フローモデルを調査地域に適用した。その結果,1980年から2010年の間に,排泄物を集中的に農業に利用する作物-家畜システムが,かなりの量の家畜の排泄物を養魚池に排出する作物-家畜-魚システムに変化したことがわかった。池への養分投入量は,2010年には41.7 kg-N/haと9.8 kg-P/haで,1980年に比べてそれぞれ7.2倍と6.2倍に増加した。さらに、池に放出された窒素の41%とリンの82%は、大雨の後も堆積物に残っていたり、意図せずに排出されたりしていた。池の堆積物を水田の栄養源として利用することで、物質循環が改善されると考えられる。

ローカルナリッジを活用した物質循環解析の可能性とその不確実性分析

戦略的な廃棄物管理方策の策定のため,物質フロー解析(Material Flow Analaysis, MFA)は低・中所得国で徐々に適用されつつある。しかし,統計データなどの地域の基盤情報が整備されていない場合には,必要情報の収集に多大な労力がかかる。我々の研究グループでは,大規模なデータ収集キャンペーンによる一次データの取得の代わりに現場の専門家の知見を活用することで,労力を限定した簡略型MFAモデルの構築方法を考案している。簡略化が解析結果の不確実性に与える影響を検討し,簡略型MFAの妥当性・有用性を調べるため,ミャンマーのマンダレー市の都市区を例として,大規模調査に基づく集中型MFA(iMFA)と現場専門家の知見に基づく簡略型MFA(sMFA)を構築した。これら2つをモンテカルロ法による確率論的MFAモデルとして扱い,両者の比較を行った。sMFAによる土壌・水環境への全窒素・リン汚染負荷の中央値は,それぞれ6,142トン-N/年,1,171トン-P/年であり,iMFAとの違いはそれぞれ4%,11%と限定的であるとともに,その推計値の分布範囲は両モデルで概ね重複した。この結果は,データが限られた条件下で利用可能なsMFAの潜在的な有用性を示すものである。