水・衛生と下痢リスク

  • 関連する研究プロジェクト

  • 都市スラムでの住民参加型下痢リスク調査に基づく新たなサニテーション・プランニング ,JSPS基盤研究(B) 2019年4月 - 2023年3月 (代表)

  • サニテーション価値連鎖の提案 -地域のヒトによりそうサニテーションのデザイン- ,総合地球環境学研究所 実践プロジェクト 2015年4月 - 2022年3月(分担)

  • 途上国都市スラムにおける衛生行動の変容促進を目的とした介入方策に関する研究,JSPS基盤研究(C) 2018年4月 - 2021年3月 (分担)

糞便曝露・下痢症リスク

水・衛生が備わらず,生活環境が広く汚染されている状況下では,飲料水・食事,環境水,土壌など,様々なルートで日常的な糞便の曝露が起こっており,人々は病原性微生物の突発的な混入に対しての脆弱な状況にあ。ベトナムの農村(糞便を農業利用)およびバングラデシュの都市スラム,そして現在はザンビアの都市スラムにおいて,日常生活を通じた糞便性微生物の曝露解析を行ってい。糞便の曝露のパターンは,その地の何がのように汚染されているのか?,その地の人々がどんな行動をしているのか?などにより異なる。どんな汚染源あるいは行動が下痢症の原因になのか,どうしたらそれを効果的に改善できるのか,という問いに答えるために,水・衛生と糞便曝露・下痢リスクとの関わりを明らかにする研究に取り組んでいるまた,地域の衛生改善の方策として,単なる知識の教授ではなく,多様な地域で効果的な対策を地域の人々が主体的に立案するための参加型の仕組みづくりを行っている

水・衛生と健康の関係

住民参加型手法による衛生リスクの可視化アクションリサーチ

水供給に比べ,トイレ普及・衛生行動改善が困難な要因の一つは,トイレ利用や衛生行動の変化による健康改善効果を人々が直接には感じにくいことである。携帯電話は持っていても,トイレは持っていない状況はありふれている。しかしその裏では,乳幼児死亡率の高さなど,健康影響が隠れている。本研究では,サブサハラ・アフリカの都市スラムを舞台に,住民自身が水・衛生による健康影響を実感することで,主体的に水・衛生改善をすすめるための方法を探る。ザンビアのルサカで環境・健康活動を実施する地域の青年クラブと共に,水・衛生のリスク可視化のためのアクションリサーチを行う。彼ら自身が簡易測定キットを用いてコミュニティーの生活環境の糞便汚染を調べ,開発するスマホアプリや動画を活用して,調査データから自らの生活に伴う水・衛生リスクを可視化する。これにより,身近な生活環境の糞便汚染や水・衛生の健康影響を実感し,行動変容を促し,自らの調査データを用いて水・衛生改善方策のプランニングを行うための方法論を構築する。


水・衛生の不備による糞便曝露の可視化

関連する過去の研究トピック

ベトナム農村のし尿伝統利用の衛生学的リスク

し尿の農業利用はトイレ利用にインセンティブを与え,水・衛生問題を解決する一つの方向性である。しかし,十分な処理を施していないし尿には病原性微生物が含まれうるため,し尿の農業利用それ自体はリスク行動とも言える。し尿の農業利用のリスクの実態,および健康リスクをコントロールした上でのし尿の農業利用の実現に向け,し尿を伝統的に農業利用するベトナム農村にて,し尿利用と糞便曝露との関係を研究した。ヒト糞便堆肥を伝統利用する25人を対象に,堆肥利用過程の一人称動画の撮影および19種の接触媒体の大腸菌濃度データの取得を行い,媒体−手−口の糞便伝搬を確率論的にモデル化した。これより,堆肥利用者は通常の人々に比べて手-口の接触頻度が大幅に低く,糞便曝露に防御的な行動をとっており,一定程度リスクをミティゲーションしていることが示された。一方で,マスクをしていても稀な手−口の接触事象が生じており,全体としてのリスクは一定程度抑えられているものの,稀な事象が下痢に繋がる実態を明らかにした。


バングラデシュ都市スラムの糞便曝露および由来解析

都市スラムは水・衛生課題における主要な対象である。バングラデシュ・クルナ市の都市スラム住民を対象として,糞便曝露解析を行った。汚染された水や食事を口に入れる飲食時の意図的な摂取に伴う糞便曝露のみならず,コップや食器の汚れや池・土遊び時の水・土の誤摂取のような,環境媒体の非意図的な摂取による糞便曝露が大きく,生活環境の汚染低減およびそのためのトイレおよび汚水処理が重要であることを定量的に示した。

さらに,飲料水とトイレ排水中の大腸菌の病原性分類および遺伝子マーカーを用いた糞便ホスト推定を行った。トイレ排水中の大腸菌の病原性分類は高く(19%),これから住民の病原性大腸菌保有率が高いことがしされた。さらに,トイレ排水と飲料水の病原性大腸菌タイプを比較したところ,両者は大きく異なっていることがわかった。これより,トイレ排水は飲料水汚染の主たるソースではないこと,さらには,飲料水は住民の病原性大腸菌保菌の主たるソースとはなっていないことが示唆された。これより,飲料水の水質改善だけでは必ずしも病原性大腸菌対策としては有効ではなく,飲料水摂取以外の曝露経路を遮断することが効果的である可能性が示された。